第13話 かすかな違和感
「ということで今日は私、
本日最後の授業、ロングホームルームの時間がやってくると我らが学級委員長七瀬が教壇の前に立った。
そして俺も教壇、正しくは黒板前にいた。
七瀬は慣れた様子でクラスメイトに説明をしてゆく。
「議題は単純明快。期末テストの翌日に行われる球技大会。その出場種目決めね」
そう、俺たちの通う柏原高校では期末テスト後にクラス対抗の球技大会を行うのが定例となっている。テスト後のストレス発散と共に、運動不足解消というわけだ。
クラスの雰囲気にもよるが、それなりに盛り上がる学校行事の一つでもある。
ウチのクラスは言わずもがな、七瀬を中心にゆるっと本気で勝ちを狙いにいくことだろう。
七瀬里桜がそういう女であることを、俺は知っていた。
「今日のところは終わり次第すぐにでも解散だし、練習とかもできないから、テキパキいくわよー。あたしゲーセン行きたいのよねー。最近音ゲーにハマっててさー」
七瀬は言葉の通りキビキビ発言してゆく。
「あ、おい。おいちょっと待て」
そんな七瀬の発言を遮り、その背中へ呟いた。
「俺への説明をお忘れでは? なぜ俺がここに立たされている」
「書記。よろしく」
雑に黒板を指さす七瀬。
「は? ふつーに嫌なんですが」
「だってこうでもしないとあんた話も聞かずに寝てそうだし」
「いや寝ないよ? 寝ないって。俺、悪い生徒じゃないよ?」
自分の種目が決まった後のことは知らないが。
「いいからいいから。あたしの言ったこと、黒板にメモしておいてよ。あとでお礼くらいするからさ」
「……それはエロ写メか?」
「は、はあ!? あんた教室で何言ってんの!? バカなの!? 死ぬの!? あたしが殺すわよ!?」
「あ、すまん。口が勝手に」
本能に刷り込まれているかもしれない。
女の子の言うお礼の品というのは、エロ写メである、と。
七瀬は怒りからか顔を真っ赤に染め上げる。
「か、勝手にじゃないわよぉ……バカ! いいから手伝いなさい!」
「はぁ……へいへい。わかりましたよ……」
失言した手前もあり、俺は渋々了承したのだった。
快く手伝ってくれるクラスメイトならいくらでもいるだろうに、貧乏くじを引いたものだ。
そうして、少々グダグダながらも各人の参加種目決めが始まった。
種目は毎年変わるのだが、今年はサッカーとバレーボール。それぞれの種目を男女分かれて行う。
柏原高校には男子サッカー部と女子バレー部が存在するが、それらの部に所属する人間はその種目において一人のみが参加できるようだ。
それ以外のルールは、本来より人数が少ない、コートが狭いなどはあれど、基本的にそれぞれの競技に準拠する。
七瀬は自分が知っている限りのクラスメイトの運動適正などと照らし合わせながらも、本人の希望に沿わせる形で話し合いを進めてゆく。
聞いている限りだと、七瀬は男女共にバレーボールを主軸とするつもりのようだ。
理由は単純で、クラスに現役サッカー部の男子がいなかったことが挙げられる。そのため、男子は必然的にサッカーを捨て気味になる流れに。
女子はバレーボール部員がいる上に、運動神経に優れる七瀬がバレーボール部員と遜色ないパフォーマンスを見せることが予想されるため。言ってしまえばそれだけでも女子バレーボールについてはウチのクラスが優勝最有力候補なのだ。
そして肝心な俺の参加種目はというと、当然のように捨て種目のサッカーである。
クラスメイトたちからすれば納得の采配だろう。たいしてやる気もないとみられているだろうし。
(まぁ、その通りなんだけどな)
バレーボールより走り疲れそうなのがネックだが、さっさと負けてしまうとしよう。
(しかし……)
俺と、そして霧島をまとめてサッカーに割り当てたのは七瀬だった。
そこには多少、思惑が絡んでいるような気がした。
が、もしそうであってものらりくらりとやり過ごせばいいだけだと、俺は思考を切った。
「じゃあ次は聖良ね。種目の希望はある? と言っても、今のところバレーにかなり偏ってるから……」
「そっか。うん。そう、だね。それなら、私はサッカーで構わないよ」
「あ、ほんと? ありがとー助かるっ。実を言うとバレーは今の戦力でも十分優勝狙えるから、サッカーに可能性を残す意味でも聖良はサッカーにって思ってたんだ」
感謝を伝えるように七瀬は両手を合わせる。
体育の授業を見た感じ、聖良は運動もそつなくこなしていたようだった。七瀬もそれは理解している。
俺からすれば、それもまた、昔とは似ても似つかないのだが。
しかしたしかに、聖良をサッカーに置くのはいい案だ。
女子のサッカーというのは、ほぼ全員が初心者の泥試合になることが予想される。
当然他のクラスだって勝てる可能性の高いバレーボールに戦力を割くため、そこには普段からまともに運動をしないような女子たちが集まることだろう。
従って、勝敗は運の要素が大きくなるのだが、逆に言えば運動神経が少なからず優れている人間が一人二人いるだけでも、そこでは絶対的なチカラを発揮する可能性があるのだ。
どう転ぶかも分からないが、転入生である聖良は他のクラスにとって情報の薄い生徒でもあり、球技大会におけるジョーカーになりえるというわけだ。
七瀬は間違いなく、サッカーでも優勝を狙っている。
となるとやはり、男子サッカーのメンバー選びが引っかかるのだが……
「うん、優勝できるように頑張る……よ」
(ん……?)
それ以上に、いつもより幾分ぎこちなく見えた聖良の微笑みが気になったのだった。
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