第7話 ずっと私のターン♪
「
その転校生――――篠崎聖良と名乗った少女がぺこりと丁寧に頭を下げると同時、教室は歓声に包まれた。
まあ、美人だもんな。絶世の美女と言ってもいい。
みんなのアイドル七瀬ちゃんの言葉に間違いなどない。
教師に促され、彼女が教壇から席へ向かって歩き出す。
その席は、ウソだと言って欲しいが俺の隣。
「あら、凪月さん……ですか?」
わざとらしいにも程がある第一声。
「まさかこんなにも早く再会できるなんて……しかもお隣さんだなんて。これってもしかして運命、だったり? 私、とっても嬉しいです」
「……は」
「わからないことがいっぱいなので、色々、教えてくださいね?」
「はああああああああああああああああああああ!?!!??」
聖良は本性を現す前と同じ、天使のような笑みを浮かべる。
こんなにも、現実が夢であればいいと思ったことは初めてだった。
◇
休み時間になると、転校生といえばの定番イベントとでも言うべきか、聖良はすぐさまクラスメイトたちにもみくちゃにされていた。
「ねえねえ篠崎さん! 碧邦学園からの転入って本当!? すっごいお嬢様校だよね!?」
「はい、その通りですね。といっても、こことそこまで変わりはしませんよ?」
「どうして転入したのー?」
「それはお家の事情、ということでお願いします」
「敬語なんていいよー。もっとフレンドリーに、ね?」
「そうですか?」
「うんうん!」
「それでは。うん。じゃあ、こんな感じでいいかな?」
「いいよいいよーすっごく距離が縮まった感じ!」
「そうかな……ちょっと恥ずかしいね……♪」
「篠崎さん! 篠崎さん!」
「彼氏! 彼氏はいるのー!?」
「教えてー!?」
「ええ~……どうしようかなぁ……」
「そんな勿体ぶらないでよ~」
「うーん、彼氏はぁ……いー……、やっぱり秘密♪ だって恥ずかしいもん♪」
そいつ、ばっちり彼氏いるらしいですよ。必死に聞き耳立ててる男子諸君、残念だったな。
教室の隅というの名の圧倒的陰キャポジションで、遠巻きに状況を見つめながら心内で呟く。
「どうしたの? こんな隅っこで。朝の感じなら真っ先に飛び付くと思ったのに」
隣にやってきた霧島が怪訝そうに聞いてくる。
「べっつにー。ちょっと気分が乗らないだけだ」
「ありゃ、また機嫌悪くなってるねえ」
「そんなことねえし」
この世界のあり方と運命とやらについて疑問を持ち始めているだけだ。
神との対談を所望したい。そして殺す。
「さっきの奇声と関係ある? てっきり歓喜の声かと思ってたけど」
「べっつにー。ちょっとカメカメ波が出せる気がしただけだしー?」
とにかく、これ以上聖良と関わることはしたくない。
あちらから来ない限りは無視を決め込むつもりだ。
そもそも、本来俺は陰キャだしな。クラスでは影の薄い存在だ。
ナンパは外の姿。
ここでは目立つことのない一生徒。それでいい。
「あ、そうだ! 歓迎会しようよ歓迎会!」
「はいはいそういうのはまず、いいんちょに確認〜」
「ねね、いいよね委員長~!」
「はあ? いや、そんないきなり言われてもにゃー……」
聖良周りの一団から、少し離れて事態を見守っていたこのクラスの委員長・七瀬里桜へお声がかかる。
七瀬のコミュニケーション能力をもってして完璧な調和が保たれているこのクラスでは、何をするにも七瀬の意見を仰いでからというのが暗黙のルールだ。
「森園の家、使っていいからー! 夜ならたぶん貸し切りできると思うー!」
歓迎会の提案者であるクラスメイトが、ぴょんぴょんと跳ねながら手を挙げる。
どうやら実家が洋食屋を経営しているらしい。
「お、いいね〜。森園んちのオムライス食べたーい」
「ちょっと待ちなさいってばあんたたち」
「えー!?」
「まだ篠崎さんの予定を聞いてないでしょー?」
七瀬はクラスメイトをなだめつつ、聖良の前へ進み出た。
「篠崎さん。私はこのクラスの委員長をやってる七瀬里桜。何かあったら基本的にはあたしに言ってくれていいから。よろしくね」
「篠崎聖良です。こちらこそよろしくね。えっと、七瀬さん」
「里桜でいい」
「では、里桜ちゃん。私も聖良でいいよ」
「わかったわ、聖良。それで、聖良さえよければ今夜にでも歓迎会をやろうと思うんだけど、どうかな?」
「それはもちろん――――と言いたいところだけど、一つだけ条件が」
「条件?」
七瀬が聞き返した直後、なぜか聖良がこちらへ視線を投げた。
「あ……?」
そして、ニコッと笑みをつくる。
それは可愛らしいことこの上ないはずなのに、冷や汗が出来そうなほどに寒気がした。
それから、聖良は一切迷うことなくこちらへ歩いてくる。
同時に何事かとクラスの視線が寄せられた。
「な、なんだよ」
「今日、みなさんが私の歓迎会をしてくれるそうです」
「そりゃよかったな。せいぜい楽しんで来い」
「はい。凪月さんが一緒に参加してくれるなら、ですけどね?」
「いや俺は行かないって」
誰がおまえを歓迎しているというんだ。
「凪月さんが来ないと、主役の私も不参加でみなさん困っちゃいますね?」
クラスメイトたちは俺と聖良の関係を一切理解していない。
だけどその瞬間、クラスメイトが聖良の味方に付いたということは分かった。
明確な理由も提示せずに友好的な新メンバーを歓迎しないなど、クラスにおける反逆に等しい。
「あのなぁ……」
「ん? なんでしょう?」
「うぐ……ぐぬぬぬぬぬぬ……」
いよいよもって有無を言わさない聖良の笑顔と背後のクラスメイトの圧力に負けようかという頃、次の授業を告げる鐘が鳴る。
「あら残念。授業ですね」
聖良は優等生らしく引き下がり、俺は解放されたのだった。
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