三題噺なんですね。ほかの誰かに与えられた言葉で物語を創るのは、自分で書きたいと思った話を書くよりハードルが高いと個人的には思っているので、それでこの完成度はすごいなあと思いました。
雨のなかに煙る白い塔。それを見つめる主人公と浅野さんの眼差し。浮かんでくる情景は暗く物哀しくも、どこか絵本のような美しさを感じました。
「ぼく」自身が抱えた事情はあからさまには語られず、浅野さんを通してうっすら透けて見えてきます。ラストの一行で、「ぼく」の暗いかもしれない未来をどうしても想像できてしまう、その余韻の残し方がとても巧いと思いました!
彼の目の前に塔が現れる日がこないことを、祈っています。
作者からの返信
ありがとうございます!三題噺はお題の消化に苦しむこともありますが、自分だけでは思いつかなかった話が出てくることもあって楽しいものです。
今回は悲しいけれど、どこかロマンチックな話になったかなと思います。「絵本のような美しさ」というご感想、とても嬉しかったです!
主人公を取り巻く状況は相変わらずですね。彼の目の前にも塔が現れたら、浅野さんのように飛び移ろうとしてしまうかもしれません。塔に行かなくても穏やかに暮らせる日が、いずれ彼に訪れるといいなと思います。
幻想的なのにわざとらしい華美さがなく、行き場のない子どもの夢想のような現実味と一抹の切なさがある文章でとても素敵でした。
雨に烟る塔はここじゃないどこかに行きたいひとのためにあるようで、お城にも、慰霊塔にも、焼却炉の煙突にも思えます。最後、塔はまだ現実に残らなければいけないひとに少しの救いの目印となる灯台でもあったように感じました。
作者からの返信
こちらにもコメントいただき、ありがとうございます! 普段ちょっと書かない感じの話が出力されまして、三題噺は面白いものです。お楽しみいただければ何よりです。
塔は人によって、色んなものに似て見えるかもしれませんね。現実逃避そのもののようでもある塔ですが、あまり明るくはなさそうな現実を生きていかなければならない語り手にとっては、これからも必要なもののような気がします。