第47話 こぼれ落ちた幸せ⑪

那津はアキにメッセージを打った。

「お願い!アタシの代わりに正行さんの婚約者のふりをして正行さんのおばあちゃんに会ってくれない?」

すぐアキから返信が来た。

「那津、今大変だもんね。正行さんさえ良ければアタシは代役してもいいよ。」

那津は心の中でアキに手を合わせた。今の状況とアキの代役について正行に返信した。すると折り返し、正行から電話がかかってきた。

「那津、どうしても無理?」

「ごめんなさい。今、行かないとヘルパーを派遣してもらえなくなるの。」

「ヘルパーさんが来てくれなくなったら那津は実家に帰らないといけなくなるもんな。わかった。あとはアキさんと連絡取り合うよ。」

急いでいる様子の正行は電話を切った。


 那津はヘルパー派遣会社に寄り、そこのスタッフとともに実家に行った。壁紙や畳についた点々としたシミ。それはヘルパーが片付けきれなかった、もも子が投げつけた料理の飛び散った跡、トイレの失敗の跡。那津は悲しくなったが、その気持ちに向き合うヒマはない。

「お母さん、なんでヘルパーさんにワガママばっかりすんのよ!」

「フン、他人に家に入られるのなんて嫌に決まってるでしょ!」

しばし那津ともも子は言い合いをしたが、結局那津が毎週末帰ることで渋々もも子はヘルパーが入ることを受け入れた。

今日は金曜。那津はこのまま日曜の夜まで実家にいることにした。


 その頃、正行はアキを連れて実家に帰った。正行は両親にだけ那津が来れない理由とアキが那津の代わりであることを告げ、祖母にアキをあわせた。

「アンタが正行の嫁さんか?べっぴんさんやね。正行のこと、頼んだよ。」

涙ぐむ祖母はアキに手を握られ、あの世へと旅立った。


親戚のすすめもあり、アキは正行の婚約者として祖母の葬儀にも出席した。美人で明るくよく気がつくアキ。

「正行はいい嫁さんを見つけたね。」

「あの人なら跡取りの嫁として十分つとまるよ。」

跡取りの嫁として親戚の間でアキの評判は大変良かった。葬儀は無事終わり、両親は車で帰る正行とアキを見送りに出た。


アキが車に乗り込むと、両親は正行に手招きをした。正行が両親のところに行くと、父親が小声で言った。

「那津さんじゃなくアキさんじゃだめなのか?」

「アキさん、素晴らしい人じゃない。あの人、たぶんあんたのこと気に入ってるよ。」

「それに、那津さんは借金持ちなんだろう。母親もそんなんじゃ将来、もっと苦労させられるぞ。わしらにもどんな災難が降りかかるかわからん。」

正行は複雑な顔をして、帰るわと一言残し、車に乗り込んだ。


 親の気持ちもわかる。自分も同じ点に引っかかる。育ちの良さを感じさせる明るいアキ。那津には問題のある母親や浦原という地主への借金問題がある。那津の金銭問題はどうすればクリアできるのだろう?

正行の心に不安が広がった。

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