第43話 こぼれ落ちた幸せ⑦
「山根さん、そんなに元気なら借りた金、すぐ返せるねえ。」
ひっ!と声を漏らしたもも子は那津の後ろに隠れた。中野の後ろから現れた高齢の女は強いまなざしでもも子と那津をギロリと見た。
「アンタ、山根さんの娘かい?アタシは浦原徳子だよ。アンタのお母さんに随分お金を貸していてね。」
「い、いくらなんですか?」
「300万になるかね。」
「そ、そんな大金…お母さんに返せるわけないです。」
「当たり前だろ。男に貢ぎ倒す、こんな女に金貸すバカはいないわ。」
頭を拭き終えた正行が割って入った。
「じゃあ、なんで貸したんです?」
那津は若い女の子がするようなおしゃれも楽しみも我慢して送った仕送りを母が男に貢いでいたと知り、ショックを受けていた。
「アンタ、この子の彼氏?」
正行は那津を庇うように一歩前に出た。
「ええ。彼女と結婚しようと思ってます。」
徳子は正行を一瞥すると、さも愉快とばかりに笑いだした。
「そりゃ残念だ。借金のカタに那津、お前はウチに嫁に来ることになってるんだ。」
「ウソ!!そんなの知らない!」
那津は徳子の腕を掴んだ。
徳子は那津の手を払いのけると、もも子を指さした。
「この女が約束したのさ。嫌なら金をかえせ。どっちにしろ、お前は帰ってくるしかないんだ。母親を一人こちらに置いてヘルパーの費用を払い続けられるのかい?」
「そ、そうさ。那津がこっちに帰ってアタシの面倒をみながら浦原さんの嫁になれば借金もなくなるし、それしかないじゃないか。」
もも子も徳子の話に乗っかって来た。
徳子の話に気圧された那津は青い顔をしてうつむいている。焦った正行は徳子に詰め寄った。
「何をバカなことを言ってるんですか!」
だが徳子は正行をあざ笑う。
「バカなのはアンタだろ。那津は既に300万の借金持ちなんだよ。それにこんな金遣いのあらい、男に貢ぐ母親がいて一体これからどれだけ借金がかさむんだろうね。今が縁を切る潮時なんじゃないの?」
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