第39話 こぼれ落ちた幸せ③

 役場で車を降ろしてもらい、ヘルパーを派遣してくれるところを聞いてみた。ヘルパー派遣会社をいくつか教えてもらったものの、もも子は年齢的に介護保険外なのでヘルパーの費用は自費になるという。役場からタクシーに乗って自宅の町営住宅に帰った。


 久しぶりの実家。部屋の中は乱雑で、母の暮らしぶりがうかがえる。明後日の母の退院に合わせて部屋を片付けなければならないが、その前にヘルパーの手配をしなければならない。疲れた体にムチ打って、那津はヘルパー派遣会社に連絡を入れた。そしてその料金の高さに驚いた。一時間2500円から。一人で暮らすなら一日1回は来てもらわねばならない。でも食事を冷蔵庫に入れてもらっても一人で食べられるのだろうか?一人でトイレに行けるのだろうか?


 事業所に相談したところ、いずれ那津が実家に帰って世話をするのか?と問われた。そんなことになれば正行との結婚が暗礁に乗り上げる。しかし一日3回自費でヘルパーに来てもらったなら一ヶ月で20万円を超える。とりあえず明日、事業所の人に家にきてもらい契約することになり、那津は部屋の片付けを始めた。夜、インスタントラーメンの夕食を済ませ、片付けを続けているとスマホが鳴った。正行からの電話だった。


「那津、アキさんから聞いた。お母さんの様子どう?」

「正行さん、電話ありがとう。お母さん、前から心臓が悪くて、次に発作起こしたら危ないんだって。でも病院ではできる治療がないから明後日退院するの。」

「誰か助けてくれる親戚とか近くにいるの?」

那津は力なく首を振った。

「ううん、親戚付き合いもないから私だけでやんないと。退院後にお母さんの面倒をみてくれるヘルパーさんの手配もあるし、大変。」

「那津、一人じゃキツイよな。明日、夕方ぐらいにそっちに着けるようにする。僕も行くから二人で頑張ろう!」

「正行さん…ありがとう。」

正行の言葉はクタクタになった那津の心に沁みた。那津の声が電話のかけ始めの時と比べてグンと明るくなった。正行は那津を支えてやらねばとあらためて思った。


 次の日、どうにか部屋を片付けて母の布団をひくことができ、ヘルパーが動き回れるくらいのスペースを那津は作った。大量のゴミは、また今度片付けよう。いくつものゴミ袋にゴミをまとめ、部屋の隅に移動したところで玄関のチャイムが鳴った。ヘルパー派遣事業所のスタッフだ。スタッフは玄関に上がり、部屋を見ると開口一番、つぶやいた。

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