第36話 那津の幸せ⑬
正行はポケットからケースを取り出すと那津の前で開けた。
「僕と結婚してください。」
頬を赤く染めた那津は正行の言葉に小さくうなずいた。
那津は正行に左手を預け、その細い薬指にキラキラ光る指輪をはめてもらった。
「きれい…正行さん、ありがとう。私、いいお嫁さんになれるよう頑張るね。」
「那津ならそのままで充分なれるよ。」
くすぐったそうな顔で那津は微笑む。
「那津、実はうちのばあちゃんが具合が良くなくて、死ぬ前に僕のお嫁さんに会いたいと言ってるんだ。それで早めにばあちゃんに会ってくれないか?」
「もちろん。じゃあ、いつお祖母さんに会いに行く?」
「先に那津のお母さんにご挨拶してからにしようと思う。だからできるだけ早く、一度那津のお母さんにお会いしたいんだけど。」
「うん。明日にでも母に連絡を取るね。」
那津は頬を上気させて満面の笑みを浮かべた。
その夜、ホテルの駐車場で熱いキスを交わし、那津は寮の前まで正行に送ってもらった。
「できるだけ早く母に会ってもらえるようにするね。待っててね。」
愛おしそうに那津の指に自分の指を絡めた正行は那津の手にキスをした。
「うん、待ってる。」
正行の車の影が見えなくなるまで名残惜しい気持ちで那津は手を振った。
結婚式はドレス?白無垢?那津は夢見心地でベッドに潜り込んだ。
那津がここまで話すと成瀬は、ハアッーとため息をもらした。
「正行さんっていう人が彼氏さんなんですね?プロポーズされてたんだ。わあ、うらやましい。」
「すみません。私、成瀬さんが親友のアキに雰囲気が似ておられるので、ついオシャベリが過ぎました。」
那津が首をすくめた。すると成瀬が再び身を乗り出してきた。
「ちょっと待って。このあと、どうなったんですか?続きが是非聞きたいです。」
「そうですか?いい話じゃないんですけどね。」
那津は寂しげに微笑むと遠くを見るまなざしをした。
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