第35話 那津の幸せ⑫

 約束の日、那津は今日おろしたばかりの薄いピンクのワンピースを身に着けた。先日、アキについてきてもらい、選んでもらったもの。

「プロポーズかもしれないんでしょ?だったらやっぱり、ピンクを着なきゃ!正行さんの気分上げないと!」

ピンクなんて、と気後れする那津をアキは強引に押し切った。

「那津は本当はピンクが似合うんだよ。」

鏡越しにニッコリするアキに背中を押されて那津は着ることにした。


 待ち合わせ場所にいつもの地味な服装ではなく軽やかなピンクのワンピースで現れた那津。髪もゆるく巻いて、フワフワと揺れている。今夜は珍しく正行もスーツ姿。紺のスーツにブルーと白のストライプのネクタイが爽やかさを印象付けている。その正行は那津の姿にいつになくドキドキした。那津の腕を取り、正行は予約したレストランに向かった。レストランは普段のデートで行くことはない高級ホテルの高層にあった。


二人は窓際の席に案内された。窓から夜景が見える。様々な色の街の灯りが黒いビロードの上に宝石を散りばめたよう。車の黄色いライトが道に沿って並んで動いている。

「わあ、きれい…正行さん。」

那津は夜景の美しさに見とれていた。その様子に正行も嬉しくなった。


やがて料理が運ばれてきた。ぎこちなく微笑み合う二人。薄いピンクのシャンパンの食前酒で乾杯。前菜の最初の一口で「美味しいね。」と那津が言い、正行がうなずいた。その後、見た目も美しい料理が次々に続くも、この後のことを考えると正行と那津は緊張して料理の味がわからなかった。そしてとうとうデザートを食べ終えた。


一口すすったコーヒーを置くと正行は一つ咳払いをした。

「那津、今夜は大事な話があるんだ。」

正行のいつもより真面目な声色に那津も厳かにうなずいた。



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