第32話 那津の幸せ⑨
夏祭りの日、那津とアキは神社の鳥居の下で彼氏達と待ち合わせることになった。アキは美容院に行って、可愛らしく髪を結ってもらい、白地にピンクや水色等の色とりどりの洋花が描かれた鮮やかな浴衣と濃いピンクの半幅帯を華やかに着せてもらっていた。その姿はアキの美しさを充分に引き立てていた。それに引き換え帰省費用さえ仕送りするように母に言われている那津は着古した水色の木綿のワンピース。那津は正直、気後れしていた。
「誠!」
アキは那津の肩越しに可愛らしく手を振った。
「お待たせ。」
先にアキの彼氏、鈴木が現れた。鈴木は派手なTシャツに細身の黒いパンツ。アクセサリーを幾つも着けている。
「うわ、アキちゃん、かわいい!」
アキの彼氏、鈴木はアキの美しさを思いっきり褒めそやした。その後、やっと那津に気がついた。
「ああ、アンタが那津さんか?俺、鈴木です。」
取ってつけたように那津に会釈をした。アキと鈴木がイチャイチャしてるとすぐ正行が現れた。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
無地のカーキ色のTシャツに洗いざらしのデニムのパンツの正行は那津と微笑みを交わした。そして那津の隣に立つとアキと鈴木に挨拶をした。
「初めまして、藤木です。お待たせてすみませんでした。」
「全然大丈夫よ。あたしたちが早めに来ただけたから。ところであなたが藤木君なんだ!毎日、那津からノロケ聞かされてます。」
アキはここぞとばかりにとびきりの笑顔を見せた。
アキが正行にいい顔を見せたので鈴木はムッとした。アキの肩を抱き寄せると、つっけんどんに挨拶をした。
「俺は鈴木。アキの彼氏だよ。」
鈴木はアキにニコリと笑顔を見せると那津をジロリと見た。つまんねえ女。言葉に出さずとも鈴木の心は透けて見えた。顔を赤くしてうつむく那津。
すると正行はサッと那津の手を取った。
「那津は僕が好きだって言ったワンピースを着て来てくれたんだね。ありがとう。」
正行は嬉しそうに那津を見た。正行の言葉に那津は鈴木に蔑まれて悲しくなった気持ちが一気に晴れた。
初めはぎこちなかったものの陽気なアキが間に立って盛り上げたおかげで4人は徐々に打ち解けていった。童心にかえって金魚すくいやヨーヨー釣りをしたり、射的で遊んだ。
「腹減った。焼きそば食おうぜ。」
鈴木の一言で焼きそばやお好み焼きを買って、参道脇の石が並べられているところに鈴木、アキ、那津、正行の順で並んで座った。鈴木は出会ったときの態度はどこに行ったのかと思うぐらいご機嫌で、那津のことも「なっちゃん」と呼び、那津や正行にも冗談を言うようになった。4人は食べながらオシャベリを楽しんだ。
「食べたね。那津達、このあとどうする?誠は?」
「ビール飲みてえな。」
「正行さん、どうしましょう?」
「鈴木さんがビール飲みたいらしいから駅前のお店に寄ろうか?」
4人がゴミを片付けて立ち上がろうとした時、かん高い声がした。
「誠、なにこの女?」
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