第31話 那津の幸せ⑧

「僕は藤木正行です。君は山根那津さんだよね?」

「私の名前を覚えてくれてたの?ありがとう。藤木さんはあちらに行かなくていいの?すごく盛り上がってるみたいだけど。」

「あっち?ああ、僕にはにぎやかすぎるんだよ。」

頭をかく正行は飾り気のない笑顔で那津にこたえた。

「そんなことより、山根さんは休みの日は何をしてるの?」

「私は本を読むのが好きなんです。だから図書館に行ったり、自転車で近くの大きな公園に行って、そこで本を読んでます。」

「へえ、山根さんも本好きなんだ!僕もだよ。ね、何読むの?」

「いろんなの読みますよ。」

「じゃあミステリーも読む?僕は鉄道もののミステリーが特に好きなんだよね。」

「じゃあ、西小路先生のとか?」

「そうそう!読むだけじゃなくて作品の舞台になったところに行くこともあるよ。この前の休みは倉敷に行ってきたよ。」

「スゴイ!どうでした?」

那津の問いに正行は身振り手振りで倉敷の話をしてくれた。正行の話を目を輝かせて一生懸命聞く那津。正行の心にも、那津がしっかり根を張った。


 二人が楽しく話し込んでいると幹事役の男が正行の肩を抱いた。

「盛り上がってるね、お二人さん。そろそろお開きだよ。藤木、向こうで会計してるから払いに来いよ。」

幹事役の男は那津にニコリとすると自分も会計をするために行ってしまった。


正行は慌ててスマホをデニムのパンツのポケットから取り出すと那津に差し出した。

「山根さん、よかったら連絡先の交換してくれない?まだ山根さんと話足りないんだ。」

顔を少し赤らめた正行に那津も慌ててスマホを出した。連絡先を交換して本日の飲み会はお開きとなった。



 趣味が同じで感性の合った正行と那津は順調に交際を深めていった。那津は正行との出会いの場を設定してくれた恋愛経験豊富なアキに正行との交際についてよく相談していた。

「ねえ那津、今度ダブルデートしようよ。藤木さん本人と知り合いになれば、那津の相談にしっかりのれると思うんだ。」

信頼するアキの提案に那津は素直に応じ、アキと彼氏、那津と正行の4人は近所の神社の夏祭りに行くことになった。

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