第28話 那津の幸せ⑤
寂しげなまなざしで外を眺め始めた那津。
「浦原さん、何か辛いことを思い出させてしまいました?」
成瀬は心配そうに見ている。那津は薄く微笑んで両手をいえいえと振った。
「大丈夫ですよ。高校の頃を思い出しただけです。」
「どんな思い出なんです?彼氏?聞きたいなあ。」
彼氏と聞かれ思わず頬を染めた那津は恥ずかしそうにしながら成瀬を見た。
「じゃあ、ちょっと聞いて頂こうかな?」
「うん!恋バナ大好物です。」
成瀬は身を乗り出した。
那津は早くに父を亡くした。母の山根もも子が女手一つで那津を高校まで出してくれたが、那津の思い出にある母は恋人に振り回されては捨てられてを繰り返し、いつも疲れた顔でイライラしていた。那津が中学生の頃、母の恋人が銚子で仕事を見つけたので親子は銚子の近くに越してきたのだった。その恋人とも別れ、那津が高校生になった頃、もも子に新たな恋人ができた。
高校3年生になったある日のこと、就職担当の教師との面談が急に延期になり、那津は朝、母に伝えた時間より早くに帰宅した。那津が自宅のある団地の玄関の鍵を開けようとすると、既に鍵が開いていた。
お母さん、鍵をかけ忘れたの?
それとも泥棒?
那津は足音を立てずドアをあけ、中に入った。
すると奥の部屋からもも子の声がした。
「お母さん、ただいま!」
ホッとした那津が思い切りフスマを開けると、そこには裸の見知らぬ男が裸の母を組み敷いていた。驚きのあまりカバンを落とした那津。初めは驚いていた男だが急にネットリした目で那津を見始めた。
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