第27話 那津の幸せ④
次の日、成瀬は那津の病室を訪れた。
「こんにちは。浦原さん、具合はいかがですか?」
ベッドで横になっていた那津は声の方を振り返った。
「昨日の警察の人?」
「成瀬です。この近くに来たものですから寄らせてもらいました。」
「申し訳ないですが、特にお話できることないんです。」
申し訳なさそうにベッドから身を起こそうとする那津に成瀬は寄り添った。
「別にいいんです。それより、浦原さんはご家族のお見舞いがあまりないとうかがったもので、何かお手伝いできることがあるかもと思って来ました。女同士ですし遠慮なく言ってくださいね。」
成瀬は人懐こい笑顔を那津にむけた。那津はその笑顔にキュッと胸を締め付けられた。
成瀬さん、アキに似てる。
遠慮がちにほほえみ返した那津は軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。今は大丈夫です。」
「そうなんですか。じゃあこれ飲んでガールズトークでもしませんか?これ、今人気のカフェオレなんですよ。」
成瀬はコンビニをまわってやっと見つけたという人気のカフェオレを那津に渡した。
「そんな、大変なもの、頂いていいんですか?」
「いいの、いいの。お見舞いの品にしては安すぎますよね。」
成瀬はカラカラと笑った。つい那津もつられて笑ってしまった。
「浦原さんは土地の方じゃないでしょ?訛がないもん。」
「ええ、高校の時にこちらへ引っ越して来ました。」
「親御さんのお仕事の都合ですか?」
「いえ、うちは母子家庭で母の彼氏がこちらの方だったので、母が追いかけて来たんです。」
「で、再婚されたんですね。」
「いえ、また振られて。こっちで新しい彼氏を作ったんです。」
「娘としては大変でしたね。大学は東京?」
成瀬は邪気のない目でカフェオレをすすりながら聞いてきた。
「大学、行きたかったんですけどね、母からは働いて家にお金を入れてほしいと言われました。」
那津は窓の外に目を向けて、あの頃のことを思い出した。
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