第24話 那津の幸せ①

 那津の家の前、パトカーが何台も止まっていた。那津の家は全焼したため整地され、ところどころに黒い煤が残っているだけ。家が焼けてこの家と土地を所有する那津の姑、浦原徳子はこの土地を売りに出していた。資材置き場にと買った会社が生ゴミ入れにしていた穴を埋めようとしてバラバラ死体を発見したのであった。そこへ刑事の一人、今田がやって来た。今田は40過ぎ。精悍な顔つきの細マッチョ。今田は死体が見つかった穴をのぞきこんだ。


「今田さん、危ないですよ!気をつけて!」

「結構、深いな。これ本当に生ゴミ用なのか?」

「枯れ井戸を利用してたみたいですよ。」

今田の相棒である成瀬が懐中電灯で中を照らした。成瀬は30半ばの女、気の強さをあらわすように二重のしっかりした瞳に肩より長い髪を一つにまとめ、キビキビと動く。

「こんなところに捨てられたらまず見つからないな。」

今田は厳しい顔をした。そこへ班長の沢木から集合がかかった。


「鑑識の話だと死んでから数ヶ月は経ってるようだ。不審な車や人を見かけてないか聞き込みに行ってくれ。」

沢木の言葉に捜査員全員が散ろうとした。その時、成瀬は沢木に呼び止められた。

「この家に住んでいた浦原那津が大ヤケドしたんだが、最近、話ができるぐらい回復したらしい。浦原那津がなにか知ってるかもしれない。女同士、お前には話しやすいかもしれないから、お前は浦原那津に聞きに行ってくれ。」

成瀬は今田と共に那津のいる病院へ車を走らせた。


 主治医から許可を得て、今田と成瀬はナースに病室へと案内された。

「こちらの浦原那津さんはどんな方なんですか?」

「おとなしい人ですよ。お姑さんに頼まれた知人の方が時々洗濯物取りに来るんだけど、家族は誰も見舞いに来ないですね。家族は来ないのに警察が来るなんて浦原さんも気の毒ですよ。」

病室前で下がったナースに会釈して今田と成瀬は浦原那津と書かれたプレートの入った病室に入った。


「こんにちは。浦原那津さんですか?」

成瀬の声に那津は眠そうに目を開けた。

「どなたですか?」

今田と成瀬は手帳を見せた。

「すみません、警察です。浦原さんの家の庭にある生ゴミを捨てていた穴から死体が発見されました。ちょっとお話をうかがえますか?」


「え?死体!」

那津は目をまんまるにして体を起こした。

「ええ、3体発見されました。今、鑑識が調べているところです。」

「死後、数ヶ月経つんですが、何か気になったことはありませんか?」

那津は驚きながらも顎に手をやり考えた。

「朝から夕方までお昼ごはんの時以外は畑に出ているのでわからないです。」

「でもあなた、毎日生ゴミを捨ててますよね?」

「…時々、発酵が進むように堆肥をかけていたので、もし堆肥や土がかけられていたらわからないです。じっくり見ることはなかったので。」


「そうですか。わかりました。また話を聞かせてください。」

今田と成瀬は病室をあとにした。

「今田さん、どう思います?」

「そうだな、浦原那津を調べていけば、また何か出てくるかもしれない。浦原那津には家族からの見舞いがないそうだからな、お前はマメに見舞いに行って探ってみろ。」

成瀬は黙ってうなずいた。

 

 その頃、沢木班のメンバーである東堂と藤城のペアは那津の畑の隣の畑で作業をする男女を見つけた。

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