第23話 不穏な予感⑬

 昨夜、叔母の博子が上手に説明してくれたとみえ、水くさいじゃないか!と叱責を受けただけで叔父の幸彦は好きなだけ泊まりなさいと言ってくれた。敦人は叔父、叔母の優しさに救われた気がした。

 今日の那津の面会は午後から。叔母の博子から洗濯したものを預かると朝早く、敦人は弁護士をしている先輩、青山に会うために東京へ向かった。


 青山から教えてもらった事務所は新宿の外れの小さな雑居ビルにあった。階段を登り、青山法律事務所と書かれたドアの前で、インターホンを押す。

「村崎です。」

敦人の声が聞こえたのか、すぐドアが開けられた。青山は細身で長身の男。軽くパーマをあてた髪が涼しげな面差しによく似合う。


「お久しぶりです。」

頭を下げる敦人に青山はソファを指さした。

「那津さんに会えたのか?どんな感じだった。」

「ええ、でもなんか今までと感じが違って妙に明るいんですよね。それにダンナさんが行方不明になったから7年経ったら失踪宣告でダンナは死んだことになる、そうしたら自分達は結婚できるって、全く心配してないんですよ。結構心配性だったのに。」

敦人は首をひねりながら語った。

「ふうん。誰かに聞いたのかな?3年、行方不明なら離婚訴訟で離婚できるけどな。那津さんが実質妻としての扱いはなかったとしても、お前らは不倫関係なんだろ?」

バツの悪そうな顔をして敦人は頭をかいた。


二人の話しが一段落し、敦人は 手土産のバターサンドを青山の前に出した。

「お、あの有名なバターサンドだな。サンキュー、敦人。鈴木さんも一緒にお茶しまましょう。俺のとっておきのお茶出しますよ。」

青山に声をかけられた事務の鈴木が笑顔でお茶の用意を始め、青山はとっておきのお茶の葉を出そうと棚の中を探し始めた。2人の姿を敦人が眺めているとスマホが鳴った。


電話に出ると叔母の博子の声が響いた。

「もしもし、叔母さ…」

「あっちゃん、ニュース見て!那津さんの家の裏庭から死体が発見されたのよ。一人じゃないみたいよ。」

驚いた敦人はスマホを切るとネットニュースを見た。


なにやら敦人が慌てだしたのを見て青山が声をかけた。

「敦人、どうかした?」

「な、那津さんの家の裏庭から死体が出たらしいです。それも複数!」

エエッ!

青山も慌てて敦人の隣に座ってネットニュースを見た。那津の心配をする敦人を見ながら青山は思った。

これはまずいことになったぞ。


「お前、この件について何か知ってることあったりする?」

「まさか!那津さんの家に行ったとき、すでに死体があったのかもと思うとゾッとしますよ。それにしてもどこにあったんだろう?」

「まあ、いい。もし警察から呼び出されたら俺にすぐ連絡しろ。」

首をひねる敦人の肩を青山はポンと叩いた。

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