第18話 不穏な予感⑧
村崎さん
結婚式にご招待します。
絶対、出てくださいね。殿村さんが村崎さんを選ばなかったのは全て村崎さんのせいです。あなたが結婚式に出てくれないと、ますます殿村さんが村崎さんを捨てた悪者にされてしまいます。
私達、あなたのせいで大変迷惑しています。
殿村、山下
静奈は招待状をデスクに置くと、うつむいたままトイレへ駆け込んだ。島田は静奈がカードを見た途端、小走りでオフィスを出たのを見かけ、静奈のデスクの上をちらりと見た。そしてカードを手に取り中を読んだ島田は自分もトイレへ行った。一つの個室から嘔吐の音が聞こえる。
「村崎さん?大丈夫ですか?」
島田が個室の前に立っていると、しばらくして個室の中から静奈が青い顔をして現れた。
「来てくれてありがとう、島田さん。」
「村崎さん、医務室行きましょう。」
ふらつく静奈を支えた島田は静奈を医務室に連れて行った。静奈をベッドに寝かせると島田はオフィスに戻り、上司のデスクの前に行った。
「課長、村崎さんが体調不良で早退した方がよさそうです。今、医務室なのでカバンを持って行きたいんですが、いいですか?」
「どんな感じなんだ?」
「嘔吐がひどくて立つのもつらそうです。課長、ちょっといいですか?」
島田は静奈のデスクの上を小さく指さした。
静奈のデスクにやって来た課長は招待状とメッセージを見た。眉をひそめると招待状を封筒に入れ、デスクの引き出しに入れた。
「村崎さんが一人で帰れそうにないなら君が送ってきてくれ。」
課長は島田に静奈を預けた。島田はカバンを持ち、タクシーに静奈と二人で乗った。静奈を家に送り届けたその別れ際、島田は静奈の手を握った。
「村崎さん、私は味方ですからね。」
「ありがとうね。」
静奈は力なく微笑んだ。
玄関を閉めると静奈はダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
もうどうでもいい。なにも考えられない。
殿村さん、そんなに私が憎くなってしまったの?こんなに愛しているのに。あなた以外の男なんて考えられない。
テーブルの上にあったメモの切れ端にペンでサラサラと言葉を書くと静奈は立ち上がった。
腹減った。
姉さん、まだ帰ってないよなあ。
冷蔵庫になんかあったかなあ?
バイトのシフトが急遽変更になり、敦人は腹を空かせて帰宅した。玄関を開けると静奈の靴があった。
なんでこんなに早く帰ってきたんだろう?
病気?
敦人が静奈の部屋をのぞくが誰もいなかった。
姉さん、どこいった?
トイレにもいない。耳を澄ますと浴室から水の流れる音がする。不思議に思って敦人が浴室の扉を開けた。そこで敦人は目をむいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます