第17話 不穏な予感➆

 静奈はずっと殿村と一緒になるものと思ってきた。両親が急死して一人で年の離れた弟の面倒をみてきた中で、どんなに辛いことがあっても静奈を支えてくれた殿村。裏切っていたなんて微塵も感じなかった。

時間が止まってしまった静奈はどこをどう歩いたのか、気がつくと自宅のアパートの前に立っていた。


「姉ちゃん、おかえり。」

のんびりした敦人の声を聞いてもなんだか右から左へすり抜けていく。ボンヤリした姉を見て敦人は怪訝な顔をした。

「どうしたの?大丈夫?」

「うん、大丈夫。今日は疲れたからもう寝るね。」

静奈はふすまをコトンと音を立ててしめた。


 次の日、出社すると入社以来面倒をみてきた仲良しの後輩、島田がニコニコと駆け寄ってきた。

「村崎さん、おめでとうございます。さっき総務の友達から聞きました。今朝一番で殿村さんが社宅の申請をされたそうですよ。」

「…それ私じゃないの。」

「ええ!どういうことですか?じゃあ殿村さんは村崎さん以外の誰と結婚するんですか?あり得ない!」

「昨日初めて聞いたのよ。彼、しびれを切らして部下の山下さんと結婚することにしたらしいの。」

「そんな!あんまりです。」

溢れてくる涙を止められず、ハンカチで目尻を押さえながら話す静奈を島田は呆然と見つめた。


 殿村が静奈ではなく部下と結婚することになった話はあっという間にフロア中を駆け巡った。周囲の人間がはれものに触るように静奈に接する。静奈は何も考えることができず、ただただ目の前の仕事をこなしていった。


17時。静奈は時計を確認するとサッサと机の上を片付けて退社した。会社のビルを出たところでスマホが鳴った。表示を見ると島田からだった。

「村崎さん、気持ちが落ち着いたら飲みに行きましょう!村崎さんにはもっといい男がふさわしいです!」

「心配してくれてありがとうね。」

静奈はスマホをそっと抱きしめた。


 油断するとすぐ涙ぐんでしまう静奈。心配する敦人に理由を言うわけにはいかない。静奈は一生懸命、敦人や同僚の前では普段通りに振る舞った。そして季節が過ぎ、事情を知る周囲は静奈が乗り越えたと思った。

そんな時、社内メール便が静奈に届いた。静奈はいつものように封を開けた。中には一通の封筒が入っていた。封筒をひっくり返し、差出人を見て、静奈の手が震えた。


殿村家 山下家

息が止まりそうになりながら、封筒を開けると中から金のフチ取りをしたカードが現れた。これは結婚式の招待状。そして招待状には山下の直筆メッセージが書いてあった。

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