第16話 不穏な予感⑥
「もしもし、殿村さん?今、叔母さんから聞いたんだけど…」
静奈は殿村が部下の山下とウエディングコーナーに行ったのかを尋ねた。しばしの沈黙の後、殿村は口を開いた。
「ゴメン。静奈のこと、好きだった。だけど、もう待てないんだ。」
静奈はスマホを落としそうになった。
「わ、私こそごめんなさい。でももう結婚できるようになったの。叔父さんが敦人の面倒をみてくれることになったの。」
「え!…」
殿村はまたもや沈黙。
「殿村さん!お願い、私と一緒になるって言って!」
スマホの向こうで殿村の困った顔が目に浮かぶ。結局、何の言葉もないまま充電切れでスマホは切れてしまった。
次の日、静奈が出社すると殿村の部下である山下から電話がかかってきた。
「もしもし、山下です。殿村さんのことで今夜、会ってもらえますか?」
静奈と山下は8時に喫茶店で会うことになった。
8時。静奈が待ち合わせの喫茶店に行くと山下と殿村が先に並んで座っていた。山下は20代半ばの明るく気の強い女性。物静かな静奈とはまるで正反対。静奈を認めると山下と殿村は揃って立ち上がった。
「お忙しい中、すみません。」
山下は明るい色の髪を揺らして頭を下げた。
「あの、今日はどういう話ですか?」
嫌な予感に震える心を必死に隠して静奈は座った。山下は申し訳なさそうな顔で静奈を見た。
「もうおわかりと思いますが、私と殿村さん、結婚することになりました。」
殿村はすまない、と一言だけ言うと頭を下げた。
「ウソ!殿村さん、どういうこと?昨日会った時も私のことを好きだと言ってくれたじゃない。なのに、なぜ?」
真っ青な顔で静奈は殿村に詰め寄った。
「村崎さん、殿村さんだけが悪いの?違いますよね。殿村さんはあなたに合わせて6年も待ってくれたのよ。これから先まだ待たせる気?殿村さんの年を考えたらひどい話よね。彼だって結婚して子供を持ちたいの。自分の都合だけで物言わないで。」
山下は冷たく言い放った。静奈は震えて、何も言えない。
「村崎さん、わかってもらえましたよね。では、そういうことなので。」
山下はそれだけ言うと静奈に何かを言いかけた殿村を引っ張って喫茶店をあとにした。
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