第15話 不穏な予感⑤
二人を追いかけようとした博子をマリコと佳代が止めた。
「ヒロは家が遠いんだからもう帰りなよ。アタシたちが追いかけるから。」
「そうよ。どこに行くのかつきとめるから、安心して。」
迷っている博子にウインクをしたマリコは手を振る佳代の袖を引っ張り、小走りで二人の後を追いかけていった。
高速バスに乗った博子は車窓に目をやりながらマリコと佳代からの連絡を待った。バスは東京のビル街を抜け、ディズニーランドを遠くに見ながら走っていく。東関道に入り、しばらくすると緑が多くなってきた。ついウトウトしたところでスマホが鳴った。
ラインを見るとマリコから。
あの二人、東京駅近くのホテルのウエディングコーナーに行ったよ。
送られてきた写真は腕を組む二人が仲良さそうにホテルのウエディングコーナーに向かうところ。次の写真はコーナーで相談にのってもらっているところだった。二人は互いに微笑み合っている。
どういうこと?
静ちゃん、騙されてるの?
これは大急ぎで夫に相談しよう。
そして静奈に男のことを言わねば。
マリコと佳代にお礼を伝えるとはやる気持ちをおさえて幸彦にラインした。
「今夜、静ちゃんのことで大事な話があります。早く帰ってきて。」
その夜、博子から話を聞き、スマホの写真を見た幸彦は事の次第を理解した。
「お前の言うように奨学金は使わざるを得ないが敦人の学費の足りない分はウチが援助しよう。静奈もいい人がいるなら早く結婚させてやりたいが、その男は一体どうなってるんだ?どっちにしろ静奈に早く知らせてやらないと。」
幸彦は早速、静奈に電話をかけた。
「もしもし、村崎です。」
「静奈か?幸彦だ。」
「叔父さん?どうしたの?」
幸彦は静奈に博子が今日カフェで見た話をした。
「静奈、付き合っている人がいるのか?ならウチが敦人の奨学金の足らない分を援助するからお前は自分の幸せを大事にしなさい。」
「心配してくれてありがとう。でも私の付き合ってる人はとってもいい人だから、敦人が独立できるまで待ってくれると思うの。」
「その人とはいつから付き合ってるんだ?どんな人なんだね?」
「彼は私より10才上の元上司なの。会社に入った頃からの付き合いなのよ。」
「じゃあお父さん達が事故で亡くなる前から付き合ってるのか?彼氏を長い間待たせているんじゃないのか?」
「うん、お父さんとお母さんが亡くなった時にプロポーズしてくれたんだけど、彼と一緒に住もうって言ったら敦人に嫌だって泣かれてね。それで敦人が独立するまでは結婚は難しいかなと思って待ってもらってるの。」
幸彦の傍らで電話の声を漏れ聞いていた博子は、なかなか進まない話にしびれを切らし、幸彦から受話器を奪いとった。
「静ちゃん、そんな悠長なこと言ってていいの?」
博子はマリコと佳代が送ってくれたメッセージと写真を静奈のスマホに転送した。静奈はスマホを見るなり絶句した。
「こ、この子は…」
「静ちゃん、知ってる子?」
「彼の、殿村さんの部下です。」
「この二人、東京駅近くのホテルのウエディングコーナーに行ったのよ。静ちゃん、早く殿村さんだっけ?確認したほうがいいわよ。」
博子に言われ、静奈は震える手で殿村に電話をかけた。
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