第14話 不穏な予感④

 あの日、博子は久しぶりに学生時代の友人二人と東京に集まった。美味しいランチを楽しんだ後、しゃべり足りない博子達三人はランチを楽しんだレストランの近くのカフェに入った。トイレから戻ろうとして博子はカフェに入ってきたばかりのカップルのすぐ後ろを歩くことになった。


カップルは30才前後の女と40才ぐらいの男。仲良く手を繋ぐ二人。女が嬉しそうに男に話しかけている。その横顔に博子はギョッとした。

し、静奈ちゃん!

博子はそそくさと友人の待つ席に戻ろうとした。すると静奈達は博子達のすぐ近くの席に座った。慌てた博子は静奈に背を向けるように座った。

「ヒロ、そっち座るの?」

トイレに行く前に座っていた席の向かいに座った博子。友人のマリコはコーヒーを博子の前に動かした。


「今、あっちに座ったカップルの女の子、姪っ子かもしれないのよ。」

「確かめよっか?」

いたずらっぽく笑ったマリコは博子と隣に座る佳代の写真を撮るふりをしてカップルの写真を撮り、写真を博子に送った。写真を拡大して見るとやっぱりカップルの女は静奈。

「やっぱりそうだわ。彼氏がいるなんて知らなかった。」


「そうなの?彼氏、40過ぎじゃない?まさか不倫とか?」

佳代が博子の隣で写真をのぞき込み、小声でつぶやいた。

「嫌だ、やめてよ。」

「それにしても、姪っ子ちゃん、かなりデレデレね。」

佳代と言い合う博子にマリコはささやいた。博子がチラッと見るとマリコの言葉通り、細面の儚げな静奈は満面の笑みで苦み走った男に甘えるように話しかけている。男はただニコニコとうなずいている。


静ちゃんにもいい人がいるのね。

静奈は30才になろうとしている。親が亡くなってから小学生の弟の敦人の面倒をみてきたけれど敦人ももう高3。奨学金に自分たちが少し援助すれば、もう静奈は敦人の面倒をみるのを卒業できるのではないか?


このことを博子がマリコと佳代に話すと二人共、賛同してくれた。

「姪っ子ちゃんもいい年なんだから、不倫じゃないなら早くお嫁に行かせてあげなきゃ。」

「まだ不倫を疑ってるの、佳代は?でもその点は親がいないんだから叔母さんのヒロがちゃんとしてやんないといけないわね。」

博子がもちろん、とうなずいた。


三人がおしゃべりしていると博子が腕時計を見た。

「あら、あたしそろそろ行くわ。高速バスに乗る前にデパ地下でお弁当買わないといけないから。」

「今夜の夕食?」

「しゃべりすぎてご飯なんか作る気しないもん。」

「そのアイデア、我が家もいただくわ。」

三人は揃って東京駅地下のデパートへ繰り出した。


弁当を買った三人は東京駅の八重洲口に向かった。

「今日はありがとうね。また集まろう!」

博子はマリコと佳代に手を振って、バスの切符を買いに行こうとした。だがいきなりマリコに腕をつかまれた。

「ちょっと!あそこにいるの、姪っ子ちゃんの彼氏じゃないの?」

マリコが顎で指し示す方向を博子と佳代が振り返ると柱の前に独りで人待ち顔で立っている男がいた。博子がスマホの写真を再び見ると、服装も髪型も同じ。苦み走った笑顔も同じ。男は目の前にやって来た静奈よりずっと若そうな女の腰に手を回し歩き出した。

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