第13話 不穏な予感③
敦人は叔母とユカリが待つと言っていたエレベーター前の自販機に行ってみたが、もう誰もいなかった。ユカリに電話をしようとしてスマホにメッセージがあることに気がついた。
「あっちゃん、お話が盛り上がってるみたいだからお母さんと一階の喫茶店でお茶してるね。」
敦人は慌てて喫茶店に向かった。
喫茶店はすぐわかった。敦人が入り口からのぞき込むと仲の良い博子とユカリの親子は楽しそうに話し込んでいた。
「すみません、おまたせしました。」
敦人はユカリの隣に座った。
「あっちゃん、長かったね。積もる話があったんだね。で、何頼む?」
ユカリがメニューを広げて敦人に渡した。那津と話し込んでお腹の減った敦人はカレーセットを頼んだ。
「あっちゃん、早速だけど叔父さんに会う前に聞かせて。那津さんとはどういう関係なの?」
博子は心配そうに敦人を見つめた。今後しばらく那津の病室に通うことになる。敦人は意を決した。
「叔母さん、那津さんは僕の恋人です。北海道に二人で逃げるつもりでした。」
一瞬、目を丸くしたものの博子はやっぱりとつぶやいた。
「東京育ちのあっちゃんだから、田舎が嫌で出て行ったのかと思ったら北海道の田舎に行ったでしょ?不思議だったのよ。でもさっきユカリからあっちゃんには好きな人がいるんじゃないかと聞いてね、もしかして那津さんと何かあるのかと思ったの。」
「だけどさ、お母さんとも言ってたんだけど、那津さんはあっちゃんの10才ぐらい上でしょ?子供もいなくて生徒の保護者でもないのにどうやって知りあったの?」
博子とユカリはそろって首を傾げた。
「去年、初夏の頃かな?旭のショッピングセンターで買い物して、帰りに山の中を通っていたら家の前で倒れている那津さんを見つけて家まで運んだんです。」
「救急車呼ばなかったの?」
敦人の説明に博子が質問した。
「救急車呼ぼうとしたら、浦原の奥さんに怒られるからやめてほしいと懇願されて。だから救急車を呼ばなかったんです。」
「ああ、なるほどね。あの奥さんなら大騒ぎするなって怒りそうだわ。」
うんざりした声で博子はうなずいた。すると今度はユカリが声を上げた。
「でもその時期はまだ体が慣れてないのに気温が上がるから熱中症とかヤバいんじゃないの?」
「だから、その日からこまめにラインで元気ですか?って連絡してたんだよ。」
「それで仲良くなったんだ。やるじゃん、あっちゃん!」
ユカリのツッコミに、照れた敦人は頭をかいた。
だが敦人の説明に博子はまだ納得できなかった。
「それで知り合ったのね。でも、那津さんはかなり年上でしょ?好きになったきっかけはなんなの?」
敦人は照れくさそうに困った顔で口を開いた。
「那津さんはどこか死んだ姉さんに似てるんですよね。だからかなあ、那津さんといるとホッとするですよね。」
博子とユカリはハッとした。確かに幸薄そうな面差しが敦人の姉の静奈に似ている。
「そう言えば那津さんも静姉ちゃんも細面だもんね。」
「ユカリちゃん、あんまり会ってなかったのによくうちの姉さんのこと覚えてたね。」
「そんなの当たり前だよ。昔、静姉ちゃんにすっごくカワイイヘアゴムをもらったんだよ。あれでツインテールにしてくれてさ、お母さんにやってもらうと微妙に左右差があるんだけど、静姉ちゃんがすると左右一緒で完璧だった。」
「そうだった。ユカリちゃんのツインテールいつもなんか微妙だったな。」
吹き出した敦人をユカリが小突く。二人は楽しげにおしゃべりを始めた。そんな二人からふと目線を外し、博子はあの日を思い出した。
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