第11話 不穏な予感①
病院のロビーで敦人は博子とユカリに会った。久しぶりに会う博子はブラウスにスカート姿。ちょっとそこまで来ましたというような雰囲気。そしてユカリはラフなシャツにデニムのパンツ。対して敦人は白いポロシャツにベージュのチノパン。以前、那津に会った時によく着ていた服装だった。
幸彦の小学校に勤務していた時、いつも朗らかな博子はまるで本当の息子のように接してくれ、敦人は博子に母を重ねていた。懐かしい博子の姿を認めると敦人は駆け寄り、深々と頭を下げた。
「叔母さん、すみませんでした。」
博子は最初、固い表情であったが間近に敦人の顔を見ると、思わず敦人の背中をさすった。
「もう、あっちゃんたら。アンタのことだからなんか理由があるんだよね。わかってるよ。だから後で聞かせてよ。」
敦人が上目遣いに下から博子を見上げると、博子は何度もうなずいて今にも泣きそうな顔で敦人を見ていた。
「あっちゃん、先に那津さんのところ行こう。」
ユカリの声かけで敦人、ユカリ、博子の三人はエレベーターに乗った。
「あっちゃん、元気だったの?」
博子の問いに敦人は小さくうなづいた。
「そう、なら良かった。那津さんとどういう関係なのか知らないけど、那津さん、最近になってようやくヤケドの方、落ち着いてきてね。あたしは浦原の奥さんに頼まれて入院中の那津さんの面倒をみてきたんだけど、なんか変なのよね。」
「お母さん、そりゃ無理ないわよ。入院するほどのヤケドしたんでしょ。火事も怖かったと思うよ。あっちゃん、那津さんを励ましてあげてよ。」
「そんなものかねえ。まあ、あのドケチな浦原の奥さんが那津さんをずっと個室に入れてるのも不思議なんだけどね。」
納得できないもののユカリに言われて博子は口を閉じた。三人はエレベーターを降り、浦原と書かれたネームプレートの部屋の前に来た。
「あっちゃん、あたしとユカリはエレベーター前の自販機のところでお茶してるから那津さんと話をしておいで。ついでにこの荷物、病室のロッカーに片付けといて。」
博子は敦人に洗濯した着替えの入ったバックを渡すと、ユカリとともにナースステーションの面会者名簿に名前を書きに行ってしまった。
大ヤケドを負った那津は初めに運ばれた病院で手に負えないと言われて規模の大きいこの病院にまわされて来た。一時は生死の境をさまよったものの最近になり、ようやく落ち着いてきた。
高層階にある病室からの眺めはなかなかに見晴らしがいい。高いビルのあまりないこのあたり、市街地をぬけると畑が広がり、その向こうに海が広がる。水平線が空と海をかろうじて分けている。溶け合うようなエメラルドグリーンが美しい。
私、これからどうなるんだろう?
ベッドを起こしてもらいボンヤリと窓の外を眺めていた那津は思った。不安だが、もうどうでもいいような気もする。那津はただこの景色を見つめていた。
敦人は深呼吸を一つして病室のドアをノックした。
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