第10話 那津との出会い⑧
敦人はまず、叔父に黙って遠方の教員採用試験をいくつか受けに行った。そして運良く北海道の道東地方の採用試験に合格し、来春から小学校の教師として働けることになった。驚く叔父がひき止めるのを振り切って敦人は北海道へ行くことにした。
3月、敦人は北海道行きのチケットを二人分買った。終業式を目前にしたあの日、敦人はチケットを持って那津に会いに行った。
「いらっしゃい。」
那津は嬉しそうに玄関先で敦人を出迎えた。
「今日は敦人さんの好きなハンバーグよ。」
台所に味噌汁を温めに行った那津がコンロの火をつけようとするのを敦人は後ろから抱きしめた。
「那津さん、好きだ。」
那津を自分の方に向かせると敦人は我慢できないとばかりに唇を重ねた。
「敦人さん、お腹減ってないの?」
「減ってるけど、まずは那津さんを食べたい。」
敦人はもう一度那津を抱きしめると那津の寝室に入り、ふすまをしめた。熱く愛し合った後、余韻の残る布団の上で敦人は那津に封筒を渡した。
「これは?」
「北海道行きのチケット。羽田空港から釧路に行くんだ。那津さん、とりあえず僕と北海道に行こう。二人で暮らす部屋はもう用意できてるから那津さんは身の回りのものだけ持って羽田に来て。あとは向こうで少しずつ揃えよう。」
「でも叔父さんは、校長先生は納得してくれたの?」
敦人は心配そうに自分を見る那津の頭を抱き寄せた。
「那津さんはなんにも心配しなくていいんだよ。叔父さんには時間をかけて説明する。それに浦原さんとの離婚も弁護士と相談しよう。」
敦人は待ち合わせの場所と時間を那津に伝えた。
「那津さん、幸せになろう。」
那津は目を潤ませて敦人の胸で何度もうなずいた。
那津さん、火事さえなければ僕たちは今頃幸せだったのに。もう一度やり直そう。
敦人は心に固く誓った。
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