第30話 『結局、俺は勇者の宿命からは逃れられないらしい (中)』




「拙者らは囮をする訳にござるな」


「うん、恐らく洋館にはボスがいるはずなんです。 お姉ちゃんたちが囮になっている間にわたしが倒します。 村人を巻き込まない様に戦いたいので、二人の役割はとても重要ですよ」


「うぅ……、百人単位での鬼ごっこですか……」


「危なそうな時は……、この際だから遠慮なく無力化しちゃってください」


 俺はそう言って二人にウインクをした。



「では、作戦開始です。 シルお姉ちゃんはわたしを抱えてください。 あ、後マントでわたしを隠してくださいね」


「分かりました」


 シルはそう言うと早口で何かを唱え俺を抱えて歩き出した。


 二人は村へ入って行く、虚ろな表情の村人たちはそれを一瞥しただけで自分たちの作業を再開する。


 どうやら、攻撃するには何か条件があるのだろう。俺はそう考えて周囲へ殺気をばら撒いた。


 案の定、それに反応した村人たちは手に鎌や棒などを持って立ち上がると俺たちの方にノロノロと歩き始める。


「走る出すのは勘弁ですよぅ……」


 まあ、そうだろう。シルが情けない声を上げたが現状の速度であれば誘導は容易いだろう。


 俺は魔法の為に集中に入った。



 そのまま、囲まれない様に村を速足で練り歩く。


「ちょっとずつ、足が速くなってません?」


「間違いないでござる」


 村人たちの速度は徐々に上がっていった。このままだとダッシュし始めるかもしれなかったが、まだまだだ。


「怖いなら、もう仕掛けますけど……。 百人と二百人、どっちがいいですか?」


「うぅ……、がまんします」


 俺が意地悪な問いをするとシルは涙目をしながら足を速めた。



「そろそろ、仕掛けます」


 これくらいでいいだろう。村人の群れが数百になると、それの気配を感じた俺はそう宣言した。


 彼らは律義に追ってきている。これなら全部巻き込めるかもしれない。


「では、一度ダッシュで距離を取ってください。 そして、振り向いたら開始です」


「心得た」


 二人が一斉にダッシュする。そして、後ろを振り向いた。



――よし、全員、いける!


「『ホーリーライト』 魔力変換『パラライズ』 ……エッ!」


「あっ!」


 俺はそう判断してマントの裾から両手を出し最大まで高めた魔法を放つ。


 しかし、俺の体は宙を舞った。振り返りざま勢い余ったシルが俺を放り投げたからだ。


 本来は集団全部を巻き込めるほどの極太レーザーではあったが照準の狂ったそれは群れの左側を眩い光を発しながら通過した。


 巻き込めたのは精々が三分の一程度だろう。


「てっしゅう! てっしゅうぅぅぅ!」


 俺は空中で一回転しながら華麗に着地を決めると、そう叫ぶ。


 何故なら、俺の魔法に反応して村人たちが戦闘モードに入ってしまったからだ。


「ごめんなさいぃぃぃ」


「仕方がありません。 今回は逃げ切って、次の手を考えましょう」


 『同じ手が通用するといいな』なんて俺は考えながら走る。


 まあ、無理なら無理でなんとかなるさ。



「『フォトン・チェーン・バインド』」


 その時だった。空から光が幾重にも伸びて村人たちを拘束した。


 そして、俺たちの目の前にピンクの物体が空から飛来するのだ。


「ハーッハッハ、危ない所だったね」


 それはピンク色の全身甲冑を身に包んだ戦士だった。それがドスンと地に穴を開けて着地するとそう言った。


 そして、俺はその声に露骨に顔を顰めた。当然の様に聞き覚えのある声だったからだ。


「危ない所を有難うございます。 あなたは?」


「私の名は『アンリ・ナイト』 アンリちゃんのピンチにはどこからともなく現れる、流浪のお兄ちゃんだ」


「アンリちゃんのお兄さんでしたか」


 いやいや、俺に兄などいない。


「アンリ・ナイト殿、ご助力かたじけないでござる」


「例には及ばんよ。 さあ、アンリちゃん、ここは任せて役目を果たすのだ」


「アンリちゃん、行きましょう!」


「いや、エルフのお嬢さん、待つんだ。 私はチェーンの維持に集中しなければならない。 そこでお嬢さんたちには警戒を頼みたい」


 お見通しって訳か。ってか、このタイミングの良さは……、どこかで覗いていやがったな……。


「心得申した」


「アンリちゃん。 では、頑張ってください!」


「ありがとう、お兄ちゃん!」


「ハッハッハ、その一言で全てが報われるよ」


 俺は投げやりにそう叫ぶと館へと向かった。



「『マジック・ミサイル』魔力変換『パラライズ』」


 俺は館の入り口で待ち構える冒険者たちを目もくれずに無力化すると、腹立ちまぎれに扉を叩き切り入館した。


 ホールにはケルベロスがいて俺が入るや否や三つの口から火炎を吐いた。


「『フォース・ジャベリン』」


 俺は高くジャンプして、それを避けると三本の光の槍を放つ。それらはケルベロスのそれぞれの頭を貫通した。


 魔物の倒れる音を気にもせずに俺は周囲を見回すと気配を探る。


 地下に強い気配を感じた。


「ふむ、ここだな」


 一通り一階を見回るとホールにある登り階段の裏に当たりを付け床を切り裂いた。


 そこには瘴気を発する地下へと続く穴があるのだ。



――待ってろよ。 お前らの無念を晴らしてやる。



 俺はその穴を下って行った。


 




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