番外編1 『アンリ7歳。 それは目覚めの時』 



 俺は大の字に寝転ぶと、魔神を倒した達成感を覚えながら目を瞑る。既に痛みを感じなくなっていた。これでは回復魔法はもう間に合わない。


 自分の体から決定的な何かが剥離していく。こんな感覚を覚えながら俺の意識は途絶えた。



 俺は目覚めた。まどろんだ意識の中、ぼんやりと思うのだ。


――俺は死んだはずだが?


 見慣れない簡素な部屋に、簡素なベッド。


 意味が解らずに俺は取りあえず起きようと体を起こした。


 妙に反応が悪かった。


 何故か痛みは感じなかったが、まあ、死ぬほどの大怪我をした後なのだから仕方がないか。


 俺はやはりぼんやりとしながらベッドを出る。



 コケた。


 ベッドを出ようとすると俺は妙な違和感を感じたのだが、構わずそれを行ったのだ。そして床に転がってしまうのだ。


「痛てててて……」


 今度は痛みを感じた。転んだ拍子に右肘を擦り剝いてしまったようだ。


――ん?


 そこで俺は気が付くのだ。俺の右腕がやたらと細くなっている事に。いや、細くなっているのは腕だけではなかった。左腕も、両足も、胴回りも、まるで子供の様に小さくなってしまっていたのだ。


 痛みのお陰か、やがて俺の意識は覚醒していくのだ。


 自分の体をペタペタと触りながら確認していく。様にではなく俺の体は正に子供のものだった。



――ああ、もしかして『転生』したって奴か?


 俺は魔神の最後の言葉を思い出しながら、そこに思い至る。そうなると気になるのは俺が絶望するほど、得たかったものが得られない呪いって奴だ。


 俺は座禅を組んで考える。


 裕福層ではないが、それでも絶望的でもなさそうなこの部屋を見てみる限り、人類滅亡のピンチって事は無いだろう。そもそも魔族は人類を滅ぼそうなんて基本的には考えない。


 それでは平穏無事な生活か? それも大丈夫そうだ。 状況的に俺は平穏無事に生きているっぽい。


 ああ、そうだ。そもそも俺は何者なんだ?俺はこう思い記憶を漁る。


「俺の名はユリシーズ……。 いえ、わたしの名前はアンリです」


 そして、俺の中で徐々にユリシーズとアンリの記憶が混ざり合っていった。



――は? アンリだと!? 


 俺は慌てて自分の股座に手を突っ込む。


 やはり、それは無かったのだ。


 ああ、そうだ引き出しに手鏡があったはず。俺は焦りながら思い手鏡を取り出すと自分の姿を確認した。


 安物の銅鏡はぼんやりとしかそれを写してはいなかったが、それでもとびっきりの美幼女がそこにはいるのだ。



「おのれ……、あの邪知暴虐な魔神め……。 貴様も生まれ変わっているのなら必ずぶっ殺してやる……」


 俺はその時、理解した。呪いの正体って奴をだ……。



「ヤロー、童貞卒業できない様に女に転生させやがった!」



 俺の慟哭が辺りに木霊した。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る