第二章 陰謀渦巻く中、あえてそれに乗ってやろうと思う

第17話 『人が増えると言う事は、問題も増えると言う事だ』



「キー、詰まらないでござる!」


 依頼を片付けてギルドに戻るとカスミがキレ散らかした。


「今回もそうでござった。 師匠は弟子に花を持たせるとか、そう言った概念を持つべきでござる!」


「えとえと、でも……折角使った魔法が勿体ないですよ」


 カスミが何に怒っているのかは分かっている。今回の依頼はトロール十体の退治だった。俺は十本生成できる所、九本に抑えてマジックミサイルを放った。


 一応、気は使っているつもりなのだがな……。


「カー、カー、カー! そこでござるよ。 剣の師匠が何故魔法? そのお腰にぶら下げた立派な剣は何の為にあるでござるか!」


 剣を九回振るうより、下級魔法を一回使った方が早くて楽だからに決まっている訳だが、こんな事を言ったら更にこいつがキレるだろうと思い、口には出さなかった。


「それにトロール程度じゃあ、カスミお姉ちゃんの鍛錬にならないでしょ」


 数がいれば話は変わる訳だが、かと言って放置して障害の残る怪我でもされた日には目覚めが悪いってものだ。



 最近分かった事がある。こいつは冒険者ではない。もちろん登録自体はしているが、要は安全確実より、戦いにスリルを求めるタイプだって事だ。


 こういう奴は得てして早死にをしがちだ。だから猶更、彼女の師匠となってしまった俺にはそうならないように見張る義務の様なものがある訳だが、こいつはそんなものお構いなしだった。


 全く以って人間関係とは難しいものだ。



「お取込み中にちょっといいですか?」


 こんなやり取りをしていると受付嬢に声を掛けられた。何やら俺宛の手紙を預かっているらしい。


「アンリちゃん、何が書いてあるのです?」


 シルが興味深々な顔で尋ねてくると、俺は二枚あった内の一枚を彼女に差し出した。もう一枚の内容は見せる訳にはいかなかった。


「どうやら、わたしを指名しての依頼みたいです」


「へー、廃坑を占拠している魔物退治ですか」


「はい、報酬もいいので受けようと思いますがいいですか?」


「もちろん私は構いませんよ」


 シルは即答で快諾をしたがカスミはまだブーたれていた。


「分かりました。 カスミお姉ちゃん、今回わたしは攻撃魔法を使いません。 それでどうですか?」


「それは誠にござるか?」


「ただ、わたしより速く動かないと結果はあんまり変わりませんよ?」


「心得申した!」


 そう言ってニッコニコになるカスミを見て思う、めんどくせー奴だ、と……。



 本来ならこんな依頼は受けない。だって、怪しすぎるから。


 魔物退治をした後に別の場所のギルドで報酬を受け取ってくれとある。何らかの罠だと思うのが普通である。


 だが、俺が依頼を受けたのには二枚目が関係していた。それは以前のオーガの件で国に対して報告及び、調査依頼をしたものの第一報が記されていた。


 つまりは国からの依頼である。何故、こんな回りくどい依頼の仕方をしたかは分からないが、依頼そのものは信用がおけた。これが依頼を受ける理由である。


 まあ、兎にも角にも俺たちは旅の準備をその日に終わらせて。翌日、旅だったのだ。




――やはり馬車はいい。 宿屋は駄目だ。


 俺は夜になるといつもそう思うのだ。馬車はオートパイロットができるし、俺には結界魔法がある。だから、俺たちは夜になると川の字となって眠るのだ。


 宿屋ではこうはいかない。俺たちは基本的にツインルームを取る。ベッドはシルとカスミのそれぞれが使い、俺は気分次第でそのどちらかに潜り込む。つまり、どちらかしか味わえないのだ。


 それが旅の空ではこうなるのだ。『川』の真ん中は当然、俺。つまり、寝返りを打つ体で俺はどちらも味わう事が出来るのだ。


 まずはシルのおっぱいに顔を埋める。いつからか彼女は俺が意図的におっぱいを触っているのに気が付いていた。今日もそうだ。彼女は微笑むとその体制の俺の頭を優しく抱いてくれる。そして、「アンリちゃんは仕方のない子ですね」こんな事を囁きながら俺の額にキッスをする。


 恐らく、幼女の俺が母親を求めていると勘違いしているのだろう。


 そうやってシルが安らかな寝息を立てると今度はカスミの方を向く。俺は弟子には容赦はしない。彼女の襟元に遠慮なく手を入れると指でそれを弄ぶ。時折、上げるカスミの悩ましそうな声を楽しむのだ。


――乳に貴賎なし。


 うむ、名言だな。こんな事を感じながら幼女は眠りにつくのだった。




「さあて、こんなものかな?」


「うむ」


 ユリウスがそう呟くと、彼の横で備えていた男が相槌を打った。


 そこは不思議な空間だった。辺りは真っ暗なのに自信や仲間、そして自分たちを取り囲む敵がハッキリと見えるのだ。それに縮尺もおかしい。そう高くない所に天井があるはずだった。なのに数体の巨大な竜が飛び回っているではないか。


 敵は竜だけではない。彼らの眼前には数えきれないくらいの高位の悪魔たちが殺気を向けつつ、襲い掛かるタイミングを計っていた。


「次は私の交代の番だったか?」


「そうだな」


「ふむ、ではルウイを起こしておいてくれ」


「心得た」


 その言葉を聞くや否やユリウスは敵目掛けて駆け出すのだ。そして抜刀ついでに敵を切り伏せる。


「『フォトン・シールド』」


 彼がそう唱えると彼の周囲に四つの光る盾が生成された。


「さて……と、どうする、少しは残すか?」


「任せる」


 そう、ぶっきらぼうに答えた男に「ディノス、では君に楽をさせてやろう」振り返るでもなくユリウスはそう答えると光る盾を竜に向けて放つのだ。そして、それらは目まぐるしく回転しながら竜の体を切り刻むと彼の元に戻る。


「『シャイニング・レイ』」


 彼の剣が光の大剣へと変化した。そして、ユリウスは一度、タンっと上に跳ぶと次の瞬間に消えた。いや、超高速で敵の群れに飛び込んだのだ。


 一方的な殺戮ショーだった。彼が剣を振るうたびに彼に触れる事さえかなわずにアークデーモン達の体が四散していった。


 作り出した光が消える頃、ユリウスは剣を肩に担ぐと振り返って微笑むのだ。


「それでは私は休ませてもらうよ」


「ああ、ご苦労だった」


 そして、彼は仲間の元に戻ると眠りについた。


「ふわああ、よく寝たぜ。 久しぶりに三時間位か? まあ、兎に角よく眠れたぜ」


 ルウイと呼ばれた男が伸びをしながら起き上がった。


「次は俺の番だ」


 ディノスが短く、そう宣言するとルウイは「そうか、じゃあ俺はアップでもしてるよ」とケラケラと笑った。



 ここはアビス。


 勇者達のホームグラウンドであるそこは『ラストダンジョン』の深部にある。


 

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