転生勇者の幼女は勇者パーティーに追放させたので百合ハーレムを目指します

佐藤コウ

第一章 幼女の俺が仲間と出会うまで

第1話 『俺が勇者パーティーから追放された件』

「本日を以て君を勇者パーティーから、罷免させてもらう」



 謁見の間にて、皇帝ユリアノスは何か苦虫を嚙み潰したような顔をしながら俺にこう告げた。周囲にいる大臣や勇者パーティーの元仲間たちも皆同じような表情で俺の事を見つめていた。



「わかりました。 お役に立てずに済みませんでした……」


 対して、俺は瞳に一杯の涙を浮かべつつ、その冷酷な宣告を素直に受け入れたのだ。



 怒りや失望、はたまた侮蔑と言った感じではなかった。どちらかと言えば申し訳なさそうなそんな感じの空気感がその場を支配していた。


 俺の瞳から大粒の涙が頬を伝って床に落ちていった。実際はこんなもん噓泣きでしかなかったし、『ついにこの時が来たか』などと心の中でガッツポーズを決めていた位だった。



「いや……、うん、実に残念に思っているんだよ。 だが、君も知っての通り我々のパーティーも魔界の深部に挑めるようになった。 だから、もう君を守り切る自信がないんだ……」


 俺の涙を見たリーダーのユリウスがしどろもどろになりながら、そう弁明の言葉を述べると、俺の心は少し痛んだ。



 これは別に理不尽な仕打ちではなかったからだ。何故なら、神の神託によって俺が勇者パーティーに招かれてから一年と少しの時間が過ぎていた。


 その間、俺はずっと三人の仲間の後ろに隠れていて、殆ど何もしていなかったのだ。だから『この無能が!』なんて罵られても文句は言えない立ち位置だ。


 時折、死角から三人のアシストをする事はあったが彼らは実に優秀だったので、それ以上の事をする必要がなかったからだ。



「ううん、リーダーさんは悪くないです。 わたしが能無しなのが悪いんです……」


 手で涙を拭いながら白々しい事を言いつつ、やはり、俺の心は痛んだ。



 周囲を見回すと彼らの顔は薄っすらと隈を浮かべていて憔悴しているようだった。恐らくは今日の宣告をする為に何時間も議論を重ねていたのだろう。


 俺の嘘泣きに彼らは相変わらず困ったような表情をしながら俺の周囲へと集まり「キミは悪くない」、「我々の力不足で済まなかった」等の慰めの言葉を掛けてきた。



 こいつらはいい奴だった。強く、逞しく、そして優しい。正に勇者だった。俺としても彼らになんら悪い印象はない所か、好意を持っていた位だ。


 自分でこうなる様に仕向けておいて実際にその時が来てしまった事を少し後悔する。



――お前らは俺なんていなくても十分強いさ。



 こんな事を考えているゲスい自分に少し腹が立った。


 だが、俺は今世は戦いなんて忘れて平凡に生きたかったんだよ。だから、お前らには悪いが、いや、お前らのその優しさを利用して、こういう流れを作って来たんだ。



「それでは支給されていたアイテムは全てお返ししますね」


 流石に居心地の悪くなった俺はこう言うと装備類が入れられたマジックバッグと『勇者』級の冒険者証をリーダーに渡す。


 中にはこれまでの分配品も入れられていたが、これから平凡に生きていく俺にはもう必要ないものだったし、後で何か言いだされたらそれはそれで困る。だから、そんなもんに未練などなかった。



「別に返却義務なんてないんだよ?」


 皇帝はそう言ってくれたが俺は「今まで迷惑かけていたのに高価な物を貰うわけにはいきません」と、返しこれを辞退。


「では、記念に冒険者証だけは持ち帰りなさい。それと、これは退職金だ」


 こう彼は言うと大臣に冒険者証と可愛らしいデザインのピンクのリュックを俺に渡させた。


「何か困った事があったら、ここを訪ねなさい。 力になる事を約束するよ」


「ありがとうございます」


 要らないなんて言うと何かこじれそうな気がしたので素直にそれを受け取ることにした。リュックを背負ってみると重さを殆ど感じなかった。これは退職金とやらが少額だと言う意味ではない。これが単にマジックバッグであると言う事だ。



 そして、俺はその場の全員にぺこりとお辞儀をしつつ別れの挨拶をした。


「アンリちゃん、元気でな……」


 その場の皆が言葉は違えど同様の言葉を俺に投げかけてきた。



「皆さん、本当にお世話になりました!」


 俺はもう一度ぺこりとお辞儀をすると、城を後にした。



 そう、今の俺の名はアンリ。孤児なので姓はない。今年、九歳になったばかりの女児である。




「ああ、皇帝陛下のご慈悲に感謝します」


 俺は思わず天を仰いで、そう呟いた。


 前にいた孤児院に戻る訳にもいかないので、これからの事を考えようと、取りあえず宿を取ろうとしたら店主に断られたのだ。


 よく考えてみると俺はまだ九歳な訳で、そんな小さな子供はいくら金を持っているとは言っても単騎で宿にありつくことが難しいなんて事を忘れていた。


 今までは仲間が全部やってくれていたせいで、そんな簡単な事を忘れてしまっていたのだ。


 だが、冒険者証があると話は変わるのだ。これがあると身分は国が保証してくれるので俺の様な女児でも金さえ払えば宿に泊まる事が出来るのだ。



 俺は部屋に入ると途中の露店で買ったお菓子と蜂蜜水をニッコニコで食べながら持ち物の確認をした。と言ってもリュックとお財布しかないわけだが……。


 財布の中身はかなりの額が入っていた。俺が泊っているのは中の下くらいのランクの宿なのだが、ここなら約三年くらいは住む事が出来そうな感じ。


 当面は生活費の心配をしなくて済みそうだが、思えば俺は持ち物全てを城に置いてきてしまった訳で最低限度、服や下着、その他の生活用品は買いなおす必要がある。


 それに出来るだけ金は残しておきたい。出来るだけ早く、住み込みの仕事を探そう。こんな事を思いつつ新しい生活にわくわくしながら俺は眠りについた。



 その日、夢を見た。昔の自分の記憶だった。


 


――何時間が過ぎたのだろう?


 一進一退の攻防。この闇に包まれた空間では時間の感覚が狂ってしまう。


 俺は延々と続く魔神とのこの攻防に嫌気がさしていた。



――糞っ!


 俺は心の中で悪態を吐いた。


 実際の所、単純な戦闘力では俺の方がやや上だった。しかし、魔神の持つ『魔眼』の力により俺の行動が先読みされていたのだ。だから、俺は奴との果てしない消耗戦の末に覚悟を決めなくてはならなくなってしまっていた。



――糞っ! せめて、童貞くらいは捨てたかったな……。


 俺はもう一度、心の中で悪態を吐く。神の神託を受けて勇者に選ばれてから約二十年……、俺は――いや、俺たちは戦い続けた。何度も死にかけ、何度もの絶望を覆して戦い続けた。その結果、俺の仲間や他の勇者は全員死んでしまったのだ。


 彼らの犠牲のお陰で俺はここに立っているのだ。だから、覚悟を決めざるを得なかったのだ。



「勇者よ、逃げてもいいんだぞ?」


 魔神が王錫を俺に向けながら、そう告げる。奴もこの拮抗状態に焦っているのだ。


「『オーラセイバー』」


 俺はその問いに答える代わりに魔法を発動させる。俺の剣が眩い光を放った。



 俺たちは夢見ていた。魔神の討伐を成功させた後のバラ色の人生って奴を。ある者は権力を。ある者は財産を。ある者は名誉を求めた。もちろん、世の為人の為なんて義務感は持っていた。しかし、俺たちは聖人じゃあない。俗な欲望なしで続けられる程、甘い戦いではなかったのだ。


 だから、俺は夢見ていた。女の子にモテモテのヤリまくり人生なんてものをな……。



――だが……。


 今までの戦いで奴の魔眼の欠点を見抜いてはいた。正直な話、奴の勧め通りに逃げ出したい所だった。何故なら、奴の魔眼を破るには俺は命を捨てる必要があったからだ。


 ここで逃げだしたら、死んでいった仲間たちに申し訳が立たない。だから、俺は覚悟を決めた。



「魔神よ、これが最後の勝負だ。 俺は『オーラセイバー』に残った力の殆どを継ぎ込んだ。 これを凌げばお前の勝ちだ」


「よかろう」


 俺と奴はお互いに構える。


 俺は力を貯めるふりをして少し間を置いた。これは演出である。奴の虚をつくための演出だ。


 やがて、俺は眩く光る剣を大上段に構えると最後の攻撃を開始した。



「『テレポート』」


 瞬間移動の魔法だ。俺は奴の頭上に転移する。本来であれば東西南北と上の五択から回避を選択しなくてはならない。高速移動と違って転移では気配を察知して反応するなんてことは出来ない。だから、この方法での攻撃には相当運がよくない限りは回避する事などできないのだ。


 しかし、魔神は俺の行動を魔眼により当然の様に予測した。俺が消えるのと同時に王錫の先に闇の刃を発生させて自らの頭上に向かい力強く突き上げるとニヤリとした。


「勇者、破れたり!」


 頭上に現れた瞬間に俺の体は王錫によって正確に貫かれた。今までに経験した事の無い程の痛みが全身を駆け抜けた。背骨と大動脈を貫かれた俺は間もなく死ぬだろう。


「お前の負けだ!」


 口から血を溢れさせた俺は正確に発声できたかが怪しかった。それでも俺は力の限りそう叫ぶ。


 奴の魔眼には欠点があった。一度使うと数秒程、再使用に時間を有するのだ。俺は戦いの中でそれを確認していたし、もし、連続使用が可能であるとしたら奴も転移をして俺の攻撃をやり過ごしていたはずだ。


 奴は自分の魔眼に絶対の自信があった。そりゃそうだ。信じた結果、俺は間もなく死ぬのだから。だが、それだからこそ俺が何故、四方位ではなく頭上に転移したかを考えるべきだっだ。


 もはや脊椎を損傷した俺はまともに歩く事も出来ない。だから、上なのだ。


「『無限斬』!」


 俺は重力の力でそのまま奴に向かって落下していくと神速の連撃を放つ。そして、俺の体は奴の残骸と衝突すると無様にも地面を転がった。


「見事なり、勇者よ……。しかし、我も只では死なぬ。 貴様に呪いを掛けてやろう。 次の生で貴様の最も望んだもの得られない呪いをな……。 安寧の世なんぞは得られるものと心得よ……。 絶望せよ、ウハハハハ!」


 そう言い残すと魔神は消滅した。



 対して俺は『次の生なんてあるのかよ……』こんな事を思いながら一度目の生涯を終えた。



 

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