第4話 ナヨナヨ君×厳しいちゃん

 「君!なんだそのネクタイの形は!だらしない!ちゃんと直せ!」


 「あっ、ご、ごめんなさい」


 「そこっ!スカートが短い!」


 「チェー!なんだよ。このくらいで」


 「こらっ!音楽の音がデカい!もう少しボリューム下げろ!」


 「すいませんっしたぁー」


 「おいっ!頭髪がどう考えても長すぎるし、染めているだろ!アウトだ!」


 「ちっ!生徒会はだりぃなぁ!こんくらいでごちゃごちゃ言いやがって」


 色んな人からヘイトやら愚痴を投げられても堂々と校門で待機し、学校に来る生徒達に厳しい指摘を浴びせる女子生徒がいた。


 「こらっ!制服が乱れているぞ!」


 「こらっ!ピアス禁止!」


 「君、自転車のスピード出し過ぎ!歩行者に衝突して怪我したらどうする!」


 その厳しさから、色んな人に恐れられていてはウザがられる事もある。


 しかし彼女はそんなものに決して屈しなかった。


 相変わらず今日も厳しい。


 生徒会会長3年の曽山愛美。成績も優秀なのは学校で認知されており、教師達からも絶賛されている。


 「こらっ!そこの君!」


 「は、はい!」


 どうやら俺にも指摘が来たみたいだ。


 俺は會川光太郎。愛美の同級生である。


 相変わらず怖い形相でこちらに視線を送っている。


 朝から色々と叱られるのは面倒な事。


 でも学校内では彼女に逆らえる人は誰もいない。


 教師の中にも逆らえない人がいるくらい厳しいのだから。


 「ネクタイぐちゃぐちゃだろ!キチンと結び直せ!だらしないぞ!」


 「は、はい!すみません!!」


 俺はその場でネクタイを締め直す。


 「よし!」


 学校内に入って良い許可が出た。


 俺は彼女を通りすがりに横目で見つめる。


 (……愛美)


俺は愛美に声を掛けたかった。


 でも言えなかった。


 俺の弱虫な性格が、この行動を妨害したのだ。


 (くっそ…今日こそ言いたかった…)


俺は何も伝えられずに教室へ向かうのだった。


 愛美は俺と三年間ずっとクラスが離れたことはなく、ずっと一緒だった。


 愛美は教室にいる時も、部活中も、そして生徒会の仕事中もずっと……素敵だった。


 俺は愛美を三年間見続けてきたが、周りの評価と違ってとても素敵だった。


 だから言いたかった。素敵ですと。


 そして俺はずっと告白をしたかったのだ。


 『好き』と伝えたかったのだ。


 (どうやって告白したら…)


授業中もずっと愛美の事を見ていた俺は、勉強なんか頭に入らない。


 彼女とどうにかしてくっつきたいのだ。


 俺はそんな事ばかり考えるのが学校に来る理由である。


 そして俺は今日、何があっても自分の想いを彼女にぶつけると決意した。


 


 放課後の教室




 「……何だ光太郎君。こんな所に呼び出して」


 「放課後色々忙しい所ごめんなさい」


 「別に今日は何もない日だから、私は構わないが」


 「ありがとう。愛美さん」


 (俺は今日この日まで愛美に伝えたかった事を言う!だから落ち着け!俺!)


自分に言い聞かせた後、俺はゆっくりと息を鼻から吸い込む。


 相手の目をじっと見つめる。


 「……愛美さん。愛美さんにも色々考えがあると思うが、遠慮とかせず、正直な事を言ってくれたらいい。俺も今から、愛美さんに自分の気持ちを伝えるから、最後まで聞いてほしい」


 「あぁ。わかった。じゃあ、光太郎君の今から言う事に、私も嘘偽りなく答えてやろう」


 腕を組んで、俺の伝えたいメッセージを待っていた。


 俺は今、こんな事をしてまで彼女の時間を借りている事を改めて自覚した。


 もう後戻りは出来ない…


俺は口を開くと同時に息を吸い込んだ。


 そして覚悟を決める。


 「愛美さん…。好きです。ずっと、三年間クラスが一緒だった。それで愛美さんの事がずっと好きだった。でも、いつまでも想いが伝えられずに時間だけ過ぎていって、今日初めて目の前で俺の想いを伝えたんだ」


 危うく視線が逸れそうになった。だが、俺は耐えた。


 俺の手には尋常じゃない程の汗が出ている事に気づくが、そっちには視線を向けなかった。


 「愛美さん、よくクラスの人から近寄りがたい雰囲気があって、みんなとあまり楽しそうに学校にいる印象がないんだ。笑った顔とか見た事ないし、楽しそうに誰かと会話している所も見た事ないし。でも俺は、貴方がいつも生徒会会長と呼ばれるだけの仕事をこなして、学校に貢献している姿をよく見ている。その時の貴方は…物凄く素敵です!」


 「………………」


 「ずっと好きでした!俺は貴方程の素晴らしい人ではないですが、貴方が好きです。色々迷惑をかけてしまうかもしれませんが俺とどうか、お付き合いしてほしいです。貴方のお返事をこの場でお聞かせ下さい!」


 俺はずっと顔が熱くなっており、自分でも真っ赤になっているだろうと自覚している。


 でも想いはしっかり伝えられた。


 あとは…彼女の返事を待つだけ!


 「……………」


 一向に話す気配がない。


 「……………」


 「………愛美さん?」


 「……………」


 「………あのー、愛美、さん?」


 「な、なな、な、なっ、なっ!何を言い出すのよ急に!私の事が好き!?こ、こんな所で、きゅ、急に告白なんてしないでよ!この馬鹿っ!」


 (あれ?なんかいつもの愛美じゃない?え?誰?誰この人?さっきまで堂々としてた彼女。あれ愛美だったの?アレ?)


「ち、ちなみに…いつから好きになってたのよ」


 唇を尖らせながら、急に女の子らしくなってしまった愛美。


 なんか思ってたのと違うのだが…


「え?あっ、一年の頃から好きでしたよ…」


 「な、なんでその時告白してくれなかったのよ!」


 「あっ、いや、ごめんなさい。なかなか勇気が出なかったもんで…」


 「そんな…2年越しになって言うなんて!このアンポンタン!」


 まさか愛美からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。


 「だから!お、俺は勇気出して今日言ったんじゃないか。で?返事下さいよ!」


 「そ、そんな急に言われても…」


 「俺、言いましたよね?正直な事を言ってほしいって。だから今の気持ちを言って下さい」


 「だから急にそんな事言われても困るって!明日返事する!」


 「なんで延長させるんですか!それじゃあ意味ないですよ!今日、今、この瞬間言って下さい」

 

 「えぇ!?そんなぁ!……2年越しじゃダメ?」


 「いやなんでタイムカプセルみたいな事するんですか!」


 「だ、だって!光太郎も2年越しに…」


 「え?光太郎って…」


 さっきまで俺の事を君付けで呼んでたのが急に無くなったのに気づいた。


 「!?。な、なによ!こ、光太郎で…別に…いいでしょ?」


 「……う、うん。わかった。で、返事お願いします」


 「…………」


 「…………」


 「……よ、よろしく、お願いしましゅ…」


 (!!!!!!。よっしゃぁぁぁぁ!」


 俺の想いがようやく伝わり、そして最終的な返事が返って来た。

 

 確かに彼女の言う通り、告白するのが遅かったかもしれない。


 だが気持ちは何も変わらなかった。


 そしてお互いの気持ちが繋がって、俺は2年越しの告白に成功した。


 だから後悔などしていない。


 ありがとう!ただその想いに俺は包まれた。


 「はい!よろしくお願いします!愛美!」


 


 

 

 


 

 

 


 


 

 

 

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