第3話 先輩×後輩(百合)
「ねぇ、舞先輩」
「うん?なぁーに?」
「先輩って、彼氏とか欲しく無いんですか?」
「うーん…いらないかなぁ。男に興味ないし」
「へぇ。じゃあ今まで彼氏とかいた事ないんですか?」
「うーん、そうだねぇ。っていうか、そもそも男子と会話した回数って、マジで指で数えられるくらい少ないよ」
「え?そうなんですか?舞先輩、男とかに評判良さそうなのに。特にウチのクラスの男子から大絶賛ですよ。顔も綺麗で、スタイルも良くて、文武両道で、しかも中身も堂々としててカッコいいって噂ですし」
「男子とかどうせやらしい目でしかアタシの事見てねぇんじゃないの?だから好きじゃないし。それになんかウチラの学校に通う男子ってみんなナヨナヨしててダサい。アタシが堂々としてるんじゃなくて、変態男子共がしっかりしてないだけだよ。優香もそんな噂あてにしちゃダメだぞー」
「はい。わかりました」
酒井舞先輩。私の一つ上の高校の先輩で、先程の会話でも言った通り、男子達にモテモテなのは学校内では有名なのだ。
私は先輩と同じバスケ部に所属していて、よく指導してくれている。
先輩はみんなからも慕われており、女子バスケットボール部だけでなく、他の部活でも愛されている。
「さてと。さっさと部室に行って着替えますか」
「はい!先輩、鍵開けてくるんで先行ってますね!」
「え?あっ、あぁ。うん!」
「どうしたんですか?何か変なこと言いました?」
「いや、なんでもない。ありがとう、優香」
私達練習場である体育館の整理を任されており、他の部員は先に出て行ってた。その為今女子バスケ部で居残り扱いされ、先輩と私だけになっていた。
私は鍵を先に上がった部員から貰っていたので急いで部室に向かった。
(なんだったんだろ、さっきの先輩)
『え?あっ、あぁ…』
さっき部室に向かう際の先輩は何やら戸惑いを露わにした表情になっていた。
私が変な事を口走ったのだろうか?それとも先に部室に行かれたら困る用事でもあったのだろうか?
とにかく私は部室のドアを開けた。
「ふー。部室涼しいー!」
部室は外に比べてやや涼しかった。その為私は、練習で溢れ出た汗をタオル拭きながら、部屋の冷たい空気に触れ、汗を乾かしていた。
「ありがとう。優香」
錆びついたドアの音が聞こえ、先輩が後から入ってくる声が聞こえた。
「ふー。やっぱ部室涼しいなぁ」
「そうですよねぇ!」
そして先輩も私と同じ行動に出た。
「あっ、そういえば話戻すんだけど…」
「はい。なんですか?」
「優香は…彼氏とかいんの?」
「いや、いませんけど」
「へ、へぇー。そっか。優香は可愛い奴だから、彼氏とかいそうなのに」
「本当ですか。嬉しいです!」
先輩は服を脱ぎ始めた。
「ねぇ舞先輩」
「うん?何?」
「…さっき、なんで私が部室に向かおうとした時、一瞬戸惑うようなリアクションをしたんですか?」
「え?あぁ…」
私も服の上下を脱ぎ捨て、ひんやりボディスプレーを持っており、それを体にかけて一人気持ちよさそうになっていた。
すると後から先輩もその光景に反応する。
「それはだなぁ…おぉ!ねぇ、それ貸して!」
「はい。どうぞ」
そして先輩も、早速同じように衣服を脱ぎ捨てた。
そして私のすぐ側で汗がまだへばりついた体にかけた。
「あぁ〜気持ちいぃ!しかも、めっちゃいい香りするし!」
「でしょ?それ一番私の好きな匂いなんです!」
「本当…いい匂いがする」
急にいつも通りな先輩に戻り、私の貸したひんやりスプレーのパッケージをじっと見つめた。
「先輩?」
「あぁ、ごめん。ずっと前から優香からいい匂いがすると思ったら、これだったんだ…」
「え?私スプレーの匂いしてました?」
「うん…本当、いい匂いだ…」
「そ、そうですか。つけすぎなのかなぁ?私」
「いや、別に…そんな事ない…ぞっ!」
「うわぁ〜!」
突然急に先輩が、私の体に抱きついてきた。
本当にびっくりした私は変な声あげてしまった。
「ひぃ!ちょ、ちょっと先輩!は、離れてください!暑いです!ベタベタする!」
私と先輩の汗とスプレーの混じった肌が密着する。
「へへっ、だ〜め。もうちょっとこのままに…させて…優香…」
「えっ、えぇ!ダメです先輩。こ、こんな所誰かに見られたらぁ!」
「別に見られやしないって。だって…女子の部活で残ってるの…アタシらだけなんだし…」
「え?ちょっ!ちょっと?先輩…?どうしたんですか……?」
私は震えた声になって先輩の顔をまじまじと見つめる。
その時の先輩は私を壁へと追いやり、私の顔の横に手を添えて、私の顔をマジマジと見つめていた。
そして今までに見たことがないクールな先輩とは違う緊張と羞恥が混じった表情がそこにはあった。
「優香…目、つむって…お願い」
「え?な、なんでですか?」
「いいから。大丈夫…。痛いこととかしない。優香と二人きりの時にしか出来ない事なんだ…。だから今じゃないと出来ない…」
「先…輩…」
「目、つむって…」
「は、はい…」
私は先輩のいう通りにした。
「後ちょっとだけこっちに顔寄せて…」
「うぅ…は、はい。先輩…」
なんだろう、この気持ちは。
これから、何か恥ずかしい事が起きる予感がする…
お互い衣服を脱ぎ捨て、さっきまで抱きつかれていた私を、目をつむって欲しいと頼まれる…
私は、視界が真っ暗で何も見えないまま、先輩の言うままにされる。
この支配された感じ、そしてこの先の展開が何も分からない現状が私の心臓の鼓動を高ぶらせる。
とにかく暑かった。
涼しい部屋なのにも関わらず、なぜか体が異様なまでに火照っている。
「そのままだぞ…優香」
とにかく今、この状態が恥ずかしいと変なドキドキが合わさり、今すぐ逃げ出したくなる。
「そのままじっとしてて。優香…」
私の耳元で私の名前を呼ぶ先輩。
(何?なんなの?何するつもり?先輩…)
私は思わず両手の握力がおかしくなるほどぎゅうと握ってしまう。
さっきまでの流れから、私は変な事を想像してしまった。
彼氏の話…
体を密着させてきた先輩…
こんな距離で私を従順に従わせようとする…
支配しようとする先輩…
(はぁ…はぁ…せ、先輩…ダメです…こんな、こんな所で…ダメ!舞先輩!舞先ぱーい!)
『カチャ』
「よしっ!優香。もう目、開けていいぞ」
「……うん?」
「やっぱ似合ってる。優香にピッタリだわ!」
「あっ、どうも」
私の髪に何かついていた。それを触ってみると、プラスチック製の小さい何かだった。
「優香に似合うと思って買ったんだ!ヘアピン」
「え?あぁ…そうだったんですねぇ。アハハハッ」
私はてっきり先輩が私の唇を奪…
いやこれ以上はやめておくことにする。
「この前アタシのクラス修学旅行で海外行っててさぁ、部員にも何かお土産買っておこうと思っててさぁ。アンタにこれが一番いいと思ってて買っといたんだ」
「そ、そうだったんですね!あ、ありがとうございますぅ!」
「先に部室に行かれたら、お土産出しっぱなしだったからさぁ。見られたらサプライズにならないと思ってたんだ。でも、よく考えてみたら袋に入れっぱなしだし、中身は見えないからなんともない思ってたんだ」
「へぇ〜そ、そうだったんですねぇ。それで、さっき部室に向かう時に戸惑ってたんですねぇ」
「あぁ。でもやっぱ、それ似合ってるし。買っといて正解」
私は先輩と一緒に部屋の中で笑い合った。
「じゃあそろそろ着替えて帰るか」
「はい!先輩!」
私はあの時のドキドキを一生忘れることはないだろう。それでも私の一つのいい思い出になったのだ
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