第2話 気になる君×気になっているちゃん
俺は済馬真司。とある高校に通う一年だが、最近クラスのとある女の子にストーキングをされている気がする…。
廊下をただ歩いていた俺はフィッ!と軽く後ろを確認すると、例の彼女は俺の後ろ姿を廊下の曲がり角にある物陰から隠れながらじっと見つめていた。
(じーーーーーっ……)
(な、なんなんだ……?)
気配を感じると思ったら、やはり俺を後ろから見ている気がする。
俺はスマートフォンをウチカメにしてバレないように確かめてみる。
(じーーーーっ……)
やはり見ていた……
そんな彼女の名は三崎明那。同じクラスの同級生である。
俺は立ち止まって彼女の方を振り向き、声をかけてみる事にした。
「お、おい」
「はっ!?」
ドキッとした表情でいきなり目があった瞬間、顔の赤さが増した。そしてストーキング行為を誤魔化すかのように口笛を下手くそな口笛を吹きながら俺から離れて行く。
これもいつもの事だ。
(なんなんだよ。マジで……)
気になる…。
俺は、彼女に何か特別な事をした覚えもない。だが、何か当たり障りの悪いような事をしたのかもしれない。だからずっと気になっていたのだ。
思えばここ最近も…………
『なぁ明那。この前貸してたノート、次のテストの予習の為に返してほしいんだが』
『え?あ、あぁ〜、ノートね!ごめんごめん。…………… ど、どうぞ』
彼女は俺と話す際、必ずと言っていいほど顔を赤らめている。しかも目も合わせず、なんだか落ち着きのない様子である事が多い。
『お、おう……。確かに』
手を小刻みに震わせながら、ノートを渡してきた。
『…………』
『………なぁ、明那…』
『は、はいぃぃぃ!』
『…あ、いや、俺のノート勉強になったかなぁと思って』
『え?あっ、あぁー!物凄くぅ勉強になったよぉー。いやー、真司のノートは馬鹿な私にも分かりやすくて助かったわー。アハハハハ』
『……そ、そうか……』
(いや、俺のノートすごく汚いって有名だぞ?先生に散々読めないと言われているのに)
『じゃあ、何問か復習するか』
『え?いや!復習とかはいい!もう大丈夫だからさぁ!』
『いや、お前の勉強を先生から何故か頼まれたから、俺はお前にノートを貸したんだ。復習だったらお互い理解しているかどうかわかるだろ?だからやろう!明那』
『んーーーー!いいっていいって!詰め込み過ぎたらパンクしちゃうから!アタシ!』
慌てた態度で彼女は、両手をピーンと伸ばして遠慮するように手を振って断った。
『そ、そうか。じゃあ、必ず赤点は免れるくらいの点数は取れよ。じゃないと俺の時間が無駄になってしまうし、何より明那の為にもならないし。がんばろうな!お互い!』
『う!うん。勿論だよ!』
(しかしなんでそんなにそんなに俺を避けるんだ?)
という事があった。その他にも、図書室にいた時…
『うーーん。うん?』
『!?』
(え?明那だよな?なんで普段図書室に来ない明那がこんな所に?っていうか、さっき俺の事を本棚に隠れて見てなかったか?)
『お、おい…明那?』
『あわわわっ!し、真司じゃん。偶然だねぇ!こんな所で何してんのぉぉ?』
また顔が赤い…。しかもこっちを見てたのバレてるし。明らか偶然じゃないでしょ…。
『え?いや、現代文の小説紹介の本でも探そうかと思…』
『あぁぁぁ!ぐ、ぐぅーぜぇーん!アタシもぉー!み、見つかったぁ?紹介出来そうなの』
『いや、まだだけど…』
『そ、そうだよねぇ。どんなのがいいかなぁってアタシも色々探してるんだぁ。し、真司はどんな本が好きなの?』
『俺は、ホラーやミステリー。まぁ、ゴシックホラーものとかを読むなぁ。今回もそういうのを選ぼうと思って…』
『へぇー!そ、そういうのが好きなんだねぇ!アタシもなんかそっち寄りかなぁって!』
『例えば何が好きなんだ?』
『え?え!?あぁ…。えぇとねぇ…。ちょっとぉ、今は、思い出せないかなぁ?アハハハッ』
『そ、そうか…。なぁ、明那。お前、ここんとこよく俺と変な所で絡む事が多くな…』
『あ!アタシ!こ、これにしよーっと!』
図書室は声を上げてはいけない場所なのに、彼女は動揺が混じった声でそう言った。そして俺の話を遮った。
(マジでなんなんだ?最近…)
とまぁ、そんな事がありすぎるこの頃。俺は一体彼女が何が目的なのかそろそろ聞き出したいのだ。気になって気になって仕方なく、同じクラスという事もあってか、視線も気になるし。
だから俺は決めた。今日こそ吐いてもらうと!
俺はいつも通りストーカーされることにした。
学校の帰りである。校門を出てすぐに俺は気配を感じた。
(じーーーーっ)
いる!相変わらず物陰に隠れてこっちを見ている!
よし!今だ!
「明那!」
「!?」
何故か今日はしらばっくれることなどせず一目散に逃げて行く。
「お、おい!明那!どこに行く!」
俺はとにかく彼女を追いかけて行く。
彼女が全力で逃げて行くのを今度は俺がしつこく付き纏うように追いかけた。
「明那!一旦止まれ!俺から話があるんだ!頼む!」
「え?は、話!?」
彼女が足を止めた。
荒げた息をお互い整える。
「お前、足早いな…」
「そういう真司だって…」
「で、話なんだが」
「!?。な、何?」
「俺はずっと気になっていた事がある。お前がいつも俺の後ろからじっと見ていたことについ…」
「は、はぁ?な、何のことかなぁ?」
(誤魔化し下手くそか)
「べ、別に後ろからじっと見ていたなんて、証拠でもあるの?」
「そうやってすぐに証拠を突き詰めてくる奴は十中八九怪しいんだよ。今までやっていたな?明那」
「や、やってないって!」
「やってたな!?」
「だからやってないって!」
「やってた!」
「いや、やってないって」
「やってた!!」
「やってない!!」
「やってた!!」
「やってない!!」
「やってた!!」
「やってない!!」
「やってない!!」
「やってた!!」
「今認めたな!」
「ちょっ!はぁー!?ゆ、誘導なんて最低!」
「とにかくなんでそんな事してたんだ?」
「だからアタシじゃない!」
「じゃあこれはなんだ?」
俺はスマートフォンから友達が俺の後ろから撮影された映像が届いていた。
「なっ!?」
「撮影してもらってたんだ。お前の尾行姿を!」
「と、盗撮とか卑怯!」
「こうするしかなかったからな。さぁ、白状してもらおうか」
そして彼女はモジモジしだし、少し頬を朱色に染めて、全て話した。
「だって…面と向かって会話するの…恥ずかしいもん…」
「え?」
「真司の事…ずっと前から…ずっと、前から…」
「……なんだ?」
「ずっと…………」
そのあと何か喋ったが、俺には殆ど聞こえなかった。
「……なんだって?もうちょっとボリューム上げてほしい」
「(ぼそぼそ)だったから」
「なんだって?もうちょっと!でかい声で喋ってくれ!」
「好き!だったって言ってんの!バカっ!」
「…………え?」
「もう!女の子にこんな恥ずかしい事言わせないでよ!本当バカっ!バーカバーカ!」
「あ、あぁ。ご、ごめんなさい。まさか、そんな事思ってたなんて」
「もう!真司のバーカ!こっちだっていうの恥ずかしいんだから!無理してまで言わせないでよ。……ほんと馬鹿…」
何回俺は『馬鹿』と言われただろう。
だがその間も俺は明那の告白に戸惑いを隠せなかった。
「ごめんな、明那。お前の事悪く疑ってしまって」
「フン!ほんと不愉快。女子に対してそんな強引に尋問させるなんて。その責任として………アタシと付き合ってよ!」
「え?い、いきなりだなぁ!」
「そうよ!いきなりよ!前から好きだったし!今でも好きだし!だからアンタの事をずっと追いかけてた。それでいきなりアタシを追いかけてきては尋問やら誘導やら盗撮やらされて、納得できないわ!……でも……」
明那はツンとした表情から段々と笑顔に戻っていった。そして上目遣いで俺の方に視線を向けながらこう言った。
「アンタのおかげで、面と向かって話せた」
俺も彼女の笑った顔をこんなに近くで見ることはなかった。
だから俺もこれでよかったのかもしれないと思った。
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