大好き便り
森ノ内 原 (前:言羽 ゲン
第1話 根暗君×天真爛漫ちゃん
僕は中学二年の冴えない男子。戸塚大介。自分で『冴えない』と断言する程落ちこぼれだ…。
「………」
周りの男子友達は皆彼女が出来て楽しい日々を過ごしながら生きている。
「………」
いつも見る度に同じ学年の女の子と一緒にいる。移動教室になれば横に二人並んで廊下を歩き、部活帰りは同じ帰り道を並んで歩き、中には自転車通学の場合ニケツで楽しそうに下校している姿も見かける。
「……はぁ…」
僕はついため息を漏らした。
(いいよなぁ、みんな…。そりゃ彼氏彼女がいたら学校も楽しいだろうな。授業なんてつまらなくって、鬱陶しくて、何のためにこんな所に来てんだか。どうせ僕なんか………僕なんか……)
僕は昔から異性に対して冷たくあしらわれる事が多かった。その理由は多々あった。
『大介君って本当キモい!』
『大介君って面白くないもん!』
『大ちゃーん!!ギャハハハハッ!大ちゃーん!ホラホラ!いつも大介君のお母さんからそう言われてるんでしょ?アハハハッ!キモーーい!』
僕も中学生になったらそんな過去とおさらばできると思ってたのに、未だに小学生の頃の同級生に馬鹿にされ、中学でも持ち込んでいた。それがきっかけで、他校の異性からもキモがられていた。
(僕も…こんなんじゃなくて、もっと楽しく中学三年間を過ごしたかった……)
そんな事を思いながら下校する。
ひたすらいつも通る道を真っ直ぐ歩いて帰っていた。ただ一人きりで。
(僕に彼女が出来るなんて雲を掴む話だ…妄想だ…どうせ僕には……この先ずっと……)
周りを見れば同じ通学路を帰る男女が、楽しそうにくっついて下校する姿が数多く見受けられる。
(この先ずっと…ずっと………みんなのような青春なんて来ないんだ……)
僕は地面に転がっている小石を蹴りながら帰路を進む。
すると前方から女子達が楽しそうに会話しながら下校しているのが視界に入った。
同じクラスメイトの女子達だった。三人が僕の前の道を塞ぐかのように横に並んで口喋っていた。
「アハハハ!馬鹿じゃん!」
「アハハッ!でしょ?本当うちの弟って馬鹿だって思ってさぁ!」
「結衣の弟が馬鹿だってのはもうクラスで話題だよ!」
僕と同じ学年のクラスメイトの子達だ。その中でも僕が注視してしまう子が一人いる。
天野結衣ちゃん。
僕とは違う小学校の子で、中学で同じクラスの女の子だ。いつもテンション高く、明るくて元気だ。
僕とは正反対だ。会話したのは数秒くらいしか覚えてない。
「結衣は弟がいるの羨ましいなぁ」
「いやぁ、馬鹿の世話するの大変だぞ?」
「そう言う結衣も色々馬鹿っぽいところあるじゃん!」
「どこがだしぃー!」
また楽しそうに会話していた。
弟か。僕にも姉や妹が欲しかった。こんな身分になるのなら一人や二人欲しかった。
でも実際は一人っ子だ。だから兄弟の仲の良さ等が僕には分からないのだ。
「じゃあ!また明日なぁ!」
結衣ちゃんが他の子に手を振って、一人だけ違う方向に帰っていった。
そして僕の視界から見えないくらい遠くへ消えていった。
いつも見慣れた帰り道はつまらなかった。学校でも友達が彼女とつるんでいたら一人、帰りも一人、そしていつも家でも親が仕事で夜遅いため一人。
こんなのがあと二年も続くのかと思うと、客観的に見た自分がちっぽけに見えてくる。
「……何が青春だよ…。何が貴重な三年間だよ…」
別に吐き捨てた所で何も変わるわけでもないのに、思わず愚痴を吐いた。
「どうせ僕には……僕には…………」
「大介くーーん!」
誰かが僕の事を呼んでいるのが聞こえた。女子の声だった。
僕は最初、自分ではなく聞き間違いだと思い声のする方に反応を見せなかった。だけどその声は段々とこっちに近づいてきては大きくなっていることに気づく。
「大介くん!ちょっとーー!だーいーすーけーくーん!」
(……え?僕?)
僕はゆっくりと後ろを振り向いた。
「あっ!やっぱりそうだ!同じクラスの大介君だよね?」
「……うん」
その声の正体は天野結衣ちゃんだった。
「いつもこっちの道を通って帰ってるよね?」
「……うん」
「こっちの道工事終わったばっかりだからどんなのか見に来たんだ」
「ヘェー…」
確かにこの道は工事をやっていた。
しかし一週間のうちにもう倒れるようになっていた。
「ねぇねぇ。家ってどこ?学校から近い?」
「…え?あぁ、まぁ、近いっちゃ近い所だけど…」
小学校も違うので小学生の頃の話とか聞かされた。
「っていうか、いつも一人で帰っているよね?友達とかと帰らないの?」
「いや、実はこの道通るの僕だけ…」
「え!そうなの?なんで?」
「なんでって、僕の住んでる地区から通うの僕だけだから。小学生の頃からずっと僕の住んでる地区で同級生が一人もいなくて、いつも僕の学年は僕一人だけだったから」
「そうなんだ!いやぁよく帰り道が同じでさ、途中から違う道を通って帰るからさ。よく見かける度になんで一人なんだろうって思ってたんだ」
「そ、そうなんだ…」
彼女はこんな僕に対して積極的に話しかけてくる。
「クラス内で同じ小学校の友達が大介君の事色々と話しているの知ってる?」
「え?あぁ…まぁね」
(どうせ僕の事を嘲笑うような内容なんだろ。全部知ってるよ)
「大介君ってみんなから頼りにされてるんだなぁって。みんなに愛されてるんだね!」
「あぁ、頼りにされ…って!ちょっと待って!それどういう意味?」
「ん?男子達がみんな大介君の事を真面目ないい人だって言ってるよ」
「え?え!?嘘!」
「嘘じゃないよ。大介君も耳に入ってるんじゃなかったの?その話」
「いや、思ってたのと違うなぁって」
「え?違う?」
「いや、僕…みんなから馬鹿にされてて周りからいじられキャラとして確立しているからさ、そんな話だと思ってたんだよねぇ」
「あぁー、でもその話クラスの殆ど飽きてるよ。中にはそんな事ばっか言うなって言ってる人もいたし。ウチから見ても、いつもクラスでの大介君は皆に優しくて、困ってる人を助けてあげたり、あと先生達からも評判が高くて。何より時々見せる友達と会話とかしている時に見せる笑顔が素敵だなって思うよ」
「…そう、ですか…」
「大介君は皆から『アイツがいてくれて助かるよ』とか『いい人だよ、大ちゃんは!』とかって色々耳にする事がウチは多いよ」
「そ、そうなんだ。へぇー。それは嬉しいよ…」
「だからさ!」
そして彼女は僕の前に立ち、嬉しそうな表情で僕の目を見つめてきた。
「もっと大介君の事を知りたいから。次も!一緒に帰ろ!」
「……え?」
彼女は満面の笑みを浮かべ僕の前で笑って見せた。
「ね?」
「……う、うん!」
僕も笑みを返す。
そして彼女は僕の顔に距離を詰めてきた。
(え?な、何?急に!)
「やっぱり素敵だよ」
「え?」
「大介君の笑った表情」
彼女の瞳を見つめる。僕に見せたその笑顔、僕はこの中学生活で忘れることはないだろう。
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