047 元凶

 オレは父に、これまで聞いた不可解なセリフの意味を、ゆっくり丁寧に、尋ねました。

 つまり、言葉の裏を取ったのです。本格的に、事情聴取めいてきて、一度二人とも車を降り、運転席と助手席の位置すら交代した方がいいのでは、なんていう気分になりました。

 ナオさん。オレはね、父のあまりの奇行の連続に、すっかり惑わされてしまっていて、彼が吐いたセリフ一つ一つの本当の意味を、「真心」では理解できていなかったようなんです。

 こうして、冷静になって、父の「真心」が指すものを、並べ替えて整理してみますと……「世界で一番美しいのは自分の息子、二番目が自分、三番目が勝也」という思想を、父は頑なに持っていたんです。

 びっくりでしょう?

 美しさという意味だけで言えば、彼の中では既に、キッチリと優先順位がついている。

 だから、さすがに、そのときのオレも、ドキドキしてきて……。


「父さん、その……オレのこと、好きなの?」

「好き。大好き。愛してる。やっと素直に言えた……ごめんなさい。一方的に吐き出して、一方的にスッキリして。もう、父さんのことなんて」

「あのね、オレも好きだよ? 父さんのこと、オレ真剣に考えてたし、ずっと会いたい、寂しいって思ってた。でも、我慢して? いちいち言わないでもわかるでしょ?」

「わかってる。我慢なら、慣れてるから……」

「あ、な、泣かないで」

「お願い。泣かせて。世界で一番美しい存在は、世界で一番残酷だってこと、僕のこの涙で、どうか理解してね……」


 そんなことを言われたんです。

 もう、オレも、ボロボロ泣いてて。だって、オレだって、息子としては、父を愛していますからね?

 好きなのに、突き放さなきゃいけない……まさか今日も、そういう涙を流すだなんて、思わないじゃないですか……。




 ……あ、ナオさん? ナオさん? 大丈夫ですか? あのー、もしかして、頭パンクしてフリーズしてたでしょ。オレ、知ってますよ。


 ナオさんの初恋の人って……うちの父でしょう?


 えへへー。そりゃあ、伯父に色々と聞かされてますからね? ナオさんの「先輩へのラブレター事件」のことも、ごめんなさい、この手紙を書く前に既に知っていました。

 思えば、そのとき、伯父がナオさんのラブレターを、本人の手に渡る前に回し読みしたのが、全ての元凶だったんですね。

 伯父は今でも、全く反省していません。ここまでくると、何の感情も起こりませんかね。甥として、本当に申し訳なく思います。

 ああ、この「ナオさんへの手紙」もね、「当時の関係者」であれば、回し読みして頂いて構いません。実は、そういう目的もあって、仮名をつけたり、面白おかしくしたり、そういう風に努力してみました。

 そんなわけで、オレからナオさんへの「先輩へのラブレター」も、同じ扱いで結構ですよ。

 さて……パトカー状態になっている、コンビニの駐車場に停めてある自家用車に視点を戻して下さい。

 警察官が容疑者に愛の告白をしたら振られてしまい、二人ともボロボロ泣いてるシーンを思い浮かべて下さいね? これは、比喩表現ですよ?

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