043 二人きりの秘密

 それからオレは、意地悪な質問をしました。


「ねえ、伯父さん。伯父と甥っていうことを、父さんが気にしないってもうわかってたら、あのときどうしてた?」

「ふーん、気になる……? なぁ、リビング行こうぜ。あの時お前、自分が何て言ってたのか、覚えてるよな……?」




 ごめんなさい、ナオさん。ここからは、あなたにも教えることができません。

 なんだか、あなたの甲高い叫び声が聞こえてきたような気がしました。伯父さんが、あなたの口真似をよくしていたから、なんとなく、想像できちゃって。

 オレはナオさんに、これだけたくさんの秘密を話しました。秘密を共有するって、楽しいですよね? この秘密は、他の人にも教えていい秘密です。

 だけど、この後のことは、オレと伯父の二人だけの秘密です。絶対に誰にも話さない、と二人で約束しました。オレと伯父に、過去視は通用しませんから、二人ともが約束を破らなければ、絶対に隠し通せる秘密です。

あ、でも、一つだけ破ろうっと。ナオさんには、伯父の性癖の壁を破いて頂いた恩義がありますから。伯父も礼儀にはうるさいですしね。



***




「なー、実はお前が産まれる前さ。勝手に俺一人で考えて、勝手に息子につけたいなーって思ってた名前があってさ……」

「もしかして、オレにそれ、つけてくれるの?」

「うん。あのさ。ゆうき、ってどうかな。優しく貴い。優貴。ね、良くない?」

「うん、うん……ありがとう」

「でさ、俺、呼び方はまだ、呼び捨てはさせたくねーの。伯父さんでいいの。ただ、お前さ、優貴のときは、自分のこと、ぼく、って言って? 小さい頃はそうだったろ……」

「ぼくは、優貴?」

「そう。優貴。可愛い。愛してる」

「伯父さん、ぼくも愛してる」

「そう。甘えたいときは、こっちな? 伯父さんもさ、優貴を甘やかしたいからさぁ」

「でも、辱しめたいこともある?」

「そう。結局、俺たちはこうなった。これからも、仮面、何枚も何枚も必要なの」




 あのー、こんくらいなら、伯父もデコピンくらいで許してくれますよね?

 だから、「優貴」って、名乗ったんです。

 これ以上のことは、本当にダメですよ? 教えませんよ? オレ、基本的には約束破らないし、伯父もそうでしょう?

 これは例外ですよ?

 だって、ナオさんだもん。

 それに、伯父は、できない約束は、最初からしないんです。

 あんなに嘘つきで、テキトーで、どうしようもなく意地悪な人ですけど、それだけは、間違いないんです。

 じゃあ、興味をひくような書き方をするなって? いじわるするなって?

 それは無理ですよ。

 オレはあの人と、血が繋がっているんですから。

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