026 二日目の始まり
監禁生活二日目の朝。オレが目覚めたのは、午前六時頃でした。
昨夜、眠りに落ちたのは一瞬でしたが、夜中と明け方近くに何度か目が覚めてしまい、熟睡できた、とは言い難い状況でした。
きっと、左足を自由に動かせなかったせいでしょう。寝返りを打つとき、左足がベッドのパイプ部分にピンと引っ張られてしまい、それで少し起きて、もぞもぞと身体を動かして、楽な態勢を模索して……といったことを、何度か繰り返していたのです。
伯父が起こしに来る、と言ったのは午前七時。
まだまだ時間がありました。とりあえず、放置されたままだったペットボトルの水を少し飲み、あとはひたすら身体を横たえていました。
眠れなくても、横になって目を瞑っておくだけで、いくらか体力が回復するはず。
「おはよー。よく寝れた?」
宣言通り、午前七時に鍵が開けられました。伯父はまるで、ペットの様子を見に来たかのような、柔和な声と表情をしていました。
そういう「いつもの」伯父の表情を見ると、もうこれで帰してくれるのでは……と、性懲りもなくそう思うんです。そんなわけないって分かっていても。それから、昨夜の仕置きを思い出し、「いつもの」様子を豹変させるわけにはいかない、「良い子」にならなくては、と、決意を新たにしたのです。
「朝食、適当に買ってきたぞ。食うか?」
どうやら、近所にあるコンビニへ行っていたようです。そこのビニール袋をさげていました。
そして、朝食を食うかどうかを質問されたので、オレはこう答えました。
「いらない。あんまり、おなかすいてない」
「まあ、遠慮せず食っとけよ。今日一日、体力もたないぞ?」
ほらね。そうか、少なくとも今日一日は、監禁調教されるのか。何を、されるんだろうか……。そうした怯えを、伯父はしっかりと見抜いていました。
黒い瞳をぱあっと輝かせ、彼は笑いました。ふふっ、楽しそうでしょう? そろそろ分かってきたんです。伯父は生粋のサディストなのでしょう。獲物が怯えようが、悦ぼうが、反応はどちらだっていいし、もはやどうでもいいのです。
本当に、伯父って、子供みたいに可愛い人ですよね。
そして、とっても気配りができる、大人の男性でもあります。
「貴斗にさー、お前の息子、朝食は米派なのかパン派なのかシリアル派なのかって聞いたら、わかんないって言うんだよ。一緒に住んでるくせに、それくらい知っとけよな」
ちなみに父は、朝食自体をそんなに食べません。それで母に叱られることもあります。オレが告げ口したので、伯父からも叱られることになります。
「しょうがないから、スティックパン買ってきたわ。お前が実際、何派かは知らないけど、ガキはみんな好きだろ? 少なくともお前は好きだったぞ? 好きだったよな?」
そう言って伯父が見せたのは、確かにスティックパンの袋でした。袋は透明で、茶色い棒が何本か入っています。よく見ると、十本入りと書かれています。透明な袋に、ウサギだかクマだかわかりませんが、とにかく幼稚園のバスとかに描かれていそうな、そんな動物たちがプリントされています。
「ごめんなさい、好きだったかどうかわかんないです」
おそらく、本当にオレが幼稚園児だった頃は食べていたのでしょう。記憶はないですけど。
「そっか。小さかったから、覚えてないよな。それでな、覚えていないことは仕方ない。だから、謝るなよ? 覚えてない、わかんない、聞いてなかった、そうやって正直に言ってくれたらいいんだから。な? わかった?」
「わかった」
「そういや、昨日の朝食、何だったんだ?」
「……ゼリー」
「うわっ、そりゃ想定外だった。明日は何がいい?」
明日もあるのかよ! あ、心の中です。心の中でツッコミました。少なくともあと二日コースです。
「何がいいかって聞いてるの。素直に希望を言えってば」
そんなことを言われても、今朝の朝食もまだなんですが? そうした思いが通じた……というより、伯父は自分で自分にツッコミを入れてくれたようです。
「あ、悪い。今朝の朝食がまだだったか。食べ終わってから聞くわ」
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