025 一日目の終わり

 伯父が後片付けをしている間、オレは再び、手足を縛られていました。今度は服を着せられていたから、多少マシでしたけどね。

 このときくらいから、申し訳なくなってきたんですよ。夕食はカレーを温めただけとはいえ、皿洗いや、洗濯なんかも伯父が一人でせねばなりませんし。

 けれども、それを口に出すのはかえって失礼かと思い、やめました。ガキの世話を昔もこうしてしてくれたんです。昔と同じです。だからいいんです。

 片付けが終わると、もう今日の調教は終わりだと告げられました。時刻は夜の十時頃でした。


「もう寝ていいけど、左足だけ縛っとくよ」

「えっ? どういうこと?」

「手はほどいてやる。左足だけ、ベッドのパイプ部分にロープでくくりつけとくわ。大丈夫、寝返りは打てる長さにしとくから。でも、部屋のドアまではたどり着けない程度だ」


 これは、後から気付いたことですが。伯父は知っていたんです。片足の自由を奪われた状態でも、人は眠れると。

 伯父は宣言した通りにオレの左足首に手錠をかけ、それとロープをベッドに固く結びました。どう頑張っても素手ではほどけそうにありません。

 アウトドアとか、嫌いな方なので、伯父は……。わざわざ覚えたんでしょうね。そういう縛り方。勉強熱心な方です。

 部屋を出ていく前に、伯父は言いました。


「お前さ、この部屋が何なのか、ちゃんとわかってる?」

「色んな部屋……でしょう?」

「そう。貴斗の部屋でもあるからな?」


 オレが最も聞きたくないことを、伯父は懇切丁寧に説明してくれました。

 汚れたベッドでそのまま寝るのは嫌だけど、片付けるのもしんどいときのために、寝室とは分けていた。

 こちらでがっつりやって、シャワー浴びて、寝室で一緒に寝て、父が帰ってから掃除する。そんな、お決まりの流れがあったらしいんですよ。

 最後に伯父は、薄手のブランケットを投げてよこし、言いました。


「おやすみ、甥っ子」


 その時オレは、約束を破ってから、一度も「優貴」と名前を呼んでもらっていないことに気付きました。




***




 一人ぼっちにされた後、考えていたのは父のことでした。

 あんな話をされた直後でしたからね。そういえば、視えた記憶の場所もここだったのか? きっとそうでしょう。今でもよくは思い出せませんがね。

 ナオさんなら、よくご存知でしょう。男性二人だけで入れる施設なんて、そうそう無いんですよ。お金もかかりますし、父と伯父の会瀬は「仕事や家族との時間の合間に」行われていたでしょうしね。

 しかし、そういった思いもすぐに泥のように沈んでいきました。前日からろくに寝ていませんでしたし、身体がもう限界だったんです。

 夢を見た気がします。あまり覚えてはいませんが、気持ちの良いものではありませんでした。

 縛られた左足を気にする必要がありましたし、それでなくても全身に「感触」が残っている。痛みの方がその時は勝っていました。心の痛みもね?

 こんな夜など過ごしたくなかった。オレは夜中に目が覚める度、伯父に殴られた痕を撫で、自分自身を固く抱きしめました。

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