021 選択
「お前が俺のことを好きになったこと自体は、別に悪いことじゃない。ただ、好きであり続けるかどうかは、別だ。こんだけベラベラ話してやったんだ。そろそろ理解はできてきたはずだ」
さすがのオレも、ここで伯父が何を言いたいのかは、もうわかっていました。
「俺のことを好きであり続けるということは、これからお前が貴斗と対立し続けるってことなんだよ」
薄々勘づいていたことでした。決定的な言葉を出され、オレは身震いしそうになりました。しっとりと熱を帯びた、あの声色を思い出して。
「お前さ、本気であいつを敵に回せるか? クソ重いぞ、あいつ。高校の時からずっと俺のこと好きなんだからな。年季じゃまず勝てないんだわ」
オレは、先ほど伯父のスマホから聞こえてきた、父のあの声を思い出していました。
父は、オレたち子供相手にも、あまり冗談が言えないくらい、真面目な性格です。父は大真面目に、伯父に自分を捨てないで欲しいと懇願していたのです。
あれは絶対に演技などではありません。
息子だから、わかります。
「今の時点で絶対無理っていうんなら、もう今日は帰してやる。俺のことはキッパリ諦めろ」
「えっ……?」
帰してやる、という言葉。
「けど、覚悟を決めたいっていうんなら、俺の言う事を聞け。俺に調教させろ。途中で一言でも、伯父さんのことは諦める、って口に出したら、その時点で終了だ。最後まで耐えたら、俺はお前を抱くよ」
伯父が提示しました。ギブアップの言葉を。「伯父さんのことは諦める」とさえ言えば、オレは家に帰れるのです。
そして、「最後まで耐えたら」という条件。さらに、その褒美を。
「ま、調教されたいかどうか、しばらく考えろ」
伯父は壁掛け時計を見ました。もうすぐ昼の三時になるところでした。
「オレもさすがに、ちょっとは仕事しなきゃいけないしなー。五時にはこっち戻るから」
考える時間は二時間でした。
「戻ってきたら、俺、お前に聞くな。調教されたいか、されたくないかって。されたくなかったら、絶対やだーとかそんな返事でもいいけどさ」
オレは、唾を飲みこみました。
「調教されたかったら、お前の口から、調教されたいって、ハッキリ言葉にして言うんだぞ?」
調教されたい。自分から、そう言えと。
「あと、どっちにしろ、一晩くらい泊まっていかないと、家出したことにならないだろ? 調教されたくないってお前が言ったら、どっか飯でも食いに行こうぜ。伯父さんとして、甥っ子の話聞いてやる」
確かに、それでもいいかもしれません。
「もし、調教されたい、ってお前が言ったら。まあ、後は、オレもゆっくり考えながら楽しませてもらうよ」
***
伯父が出て行ってしまってから、オレはベッドに横たわりました。これは、今までの人生で最も重要な選択になるのです。まずは、身体を休ませたかった。
それでいて、どうやったらここから抜け出せるのかも考えていました。
この部屋のドアは、体当たりすれば破れるのではないかと思いました。手と足は拘束されていたので、それをどうにかする必要もありましたけど。
それとも、次に伯父が入ってくるとき、ドアの陰に隠れ、彼を攻撃するか。そうして気絶でもさせてしまい、リビングかどこかにあるはずの自分の荷物を取り戻す。あるいは、伯父を身体的に屈服させる。
でもね、そんなの……できるわけがない。
オレは結局、伯父に抱かれたいという気持ちを消せなかったんです。
調教とは何だろう? なんとなくは分かります。けれど、果たして自分は耐えられるのか? 途中で諦めるくらいなら、普通の伯父と甥に戻った方がいいに決まっています。
時間は思ったよりも早く過ぎていきました。オレは焦りました。二時間あれば、もっとまともに考えをまとめることができるって信じていたのに。頭の中はぐちゃぐちゃ。それはきっと、伯父への恋心が強すぎたせいでしょう。
好き。やっぱり、好き。どんな形でもいい。彼と結ばれたい。
オレはまた、情けなく涙をこぼしていました。シーツに染みが広がっていきます。なぜこんなにも伯父のことが好きなのか、自分でもよく分かりません。彼の非道な本性、そして父の重すぎる嫉妬心。それら全てを考慮しても、恋心が揺らがないのです。
伯父は、五時きっかりに、ドアの鍵を開けました。
「じゃあ、聞くぞ。俺に調教されたい? されたくない?」
オレは真っ直ぐに、彼の瞳を見つめて言いました。
「……調教、されたい」
それは、オレに初めて、ちいさな被虐心が芽生えた瞬間でした。
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