019 父と伯父
伯父がそのとき話した、父との馴れ初めは、こうです。
伯父のことなので、オレには嘘をついたり誇張したりしている部分があるはずだ、と思って読んでくださいね。
まず、伯父は女性も好きでした。というより、本来は異性愛者だと自負しているようです。「ちょっとした例外」が産まれてしまったので、伯父も自らの性的嗜好については悩んだ時期もあったそうなのですが、「基本的に女好き、例外は無くもない」ということで落ち着いたみたいです。
父と伯父が、二人で部屋で飲んでいた日は、伯父がかつて付き合っていた女性の結婚式の日だったそうです。
女性の結婚相手と伯父との間では、まあ色々あったそうです。いわゆる三角関係ですかね。
伯父は、身をひこうと思って、あいつのこと飽きたからお前にやるわ、と言ってボコボコにされたらしいです。何やってるんですかね、あの人。まあ、本当のところはどうか知りません。
それでも、女性の結婚相手とは、ライバル同士気が合ったのでしょうか? それからも、なぜか仲が途切れなかったそうです。
そして、彼は彼女と結婚することを、伯父に直接告げたそうです。
「どうせ、結婚式は来ませんよね、さすがにおれもそこまで性格悪くないです、とか言われてさ。誰が行くか、って答えたら、あいつ、じゃあ欠席に丸してください、って。招待状持ってきてたの。まあ、丸してやったけど、そのせいで結婚式の日を知っちゃったわけよ。……あいつ、やっぱり相当性格悪いな」
それでその日は、当時の自分の家で、朝から一人で飲んでいたそうです。
結局伯父は、彼女に未練があったのでしょう。本人は、その辺り、あやふやにしたいみたいですが。
そして、酔っぱらってきたので、父を家に呼んで、二人で飲みはじめたそうです。
父は、祖父母の血のせいでしょうか、酒を飲んでもなかなか酔えない方でした。なので、シラフのまま、伯父の愚痴を聞き続けていたようです。
酔いつぶれて、伯父はソファで眠りこけてしまったそうです。その時に、父に襲われたのだということでした。
「俺、貴斗のことはいい男友達としか思ってなかったから、マジで油断してたわ。でもさー、いつから俺のこと好きだったのか聞いたら、高校のときからって言うんだよ。その頃、あいつは俺に触らないよう、神経張りつめながら友達してた。まあ、過去視が大きな理由だけどさ。ほら、オレもまだ、あの頃は制御がきかなくて。あいつがずっと我慢してたんだって思うと、すっげーいじらしくて、可愛くなってきてさ……」
そんな感じで、オレは相槌さえ打たないのに、伯父はあまりにもデレデレとしながら、そんなのお構いなしで父について語るんですもの。正直、一人で部屋に放置されているときより長く感じました。
ちなみにその頃、父は母と正式に付き合っていました。つまり、この話は、母が過去視を制御できるようになってからのことらしいのです。
「俺、あいつに、絵理子のこと幸せにしろよって言ったらしいのね。酔ってて全然覚えてねーけど。それであいつ、俺への気持ちは、一生隠し通そうって決めて、それでもまあ最後の思い出にとか、そんなこと思ったんだろうな。俺が酔いつぶれたから、バレないようにキスしようとしたらしいんだ。けど、そこで俺が気付いちゃって、なんかよくわかんなかったけど、途中でやめんなよーって俺があいつに舌絡ませて」
オレは、そこでようやく、伯父の話に初めて口を挟みました。
「……それ、伯父さんから襲ってない?」
「いや、襲ってない。あいつからじゃん」
実はこの辺り、父とは意見の相違があるようです。
「えっ? あれは勝也からでしょ? だからあなたが勝也を襲ったと聞いて、僕はあんなに我慢していたのに、と怒鳴りそうになりましたが、父さんは優貴の父親なので我慢しましたよ? 僕は襲っていないと言っておいてくださいね」
なんだろう。この二人、今でもずっと、こんな感じなんです、おかしいでしょ。もっとおかしいのは、伝書鳩させられているオレですけど。
もしかしたらナオさんは、オレと父の現在の関係について、心配されているかもしれませんね。それはまだ、この時点では詳しく明かせません。
ただ、二人の馴れ初めの認識違いを、伝言させられる程度に、会話はできるのだと思って安心してくださいね。
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