017 最初の屈辱
伯父への気持ちを吐き出し終わり、泣き疲れたオレに、伯父はこう声をかけました。
「俺も腹減ったから、飯作るわ」
伯父は、そのときのオレから見て正面にあった壁掛け時計を指しました。
「いま、十一時三十分だな。三十分で作って持ってくるわ。俺は時間を守るから、安心しろよ。手の拘束はそのままな。ベッドの上にいろよ。ここ、ベビーモニターつけてるから、お前の様子は外からわかるからな。大人しく待ってろよ」
そう言って部屋を出た伯父は、外からドアの鍵をかけました。
伯父が多少、優しい調子に戻っていたので、オレは拍子抜けしました。もしかして、これで解放してもらえるのだろうか、そう思ったのです。
部屋に一人にされてしまってから、オレは同じ場所に三角座りをしたまま、首だけを動かして、部屋の様子を探りました。伯父はベビーモニターをつけていると言いましたが、多少ベッドを降りてすぐに戻るくらいなら、バレないのではとも思いました。
というか、処分してなかったんですね、ベビーモニター……。物凄く最悪な再利用方法です。
料理中は常に見ているわけではないはずだけれど、例え一瞬でもベッドを降りたことが伯父にバレたら、どうなるかわからないな、と思ったので、彼の言う通り、オレはベッドの上にいることにしました。
オレは、こんなことをされた後でも、変わらず伯父のことが好きな重い男でした。そして、好きな人には優しくされたいんですよ? 基本的にはね。
三十分間、オレはベッドを降りずに待っていました。十二時ぴったりに、ドアの鍵が開かれる音がしました。
「よーし、言いつけ守ったな」
伯父はチャーハンを作って持ってきてくれました。
「久しぶりに作ったわ、これ。卵たっぷり入れて、ソーセージを切って入れたやつ。お前これ、好きだったもんなー。覚えてる?」
それは確かに、覚えていました。見た目でなく匂いで、すぐにそうだと気付きました。
「うん、覚えてる」
オレがそう言うと、伯父は目を細めて笑いました。
「よし、口開けろ。食べさせるからしっかり食えよ。腕の拘束は外したくないからな。ほどいたらまた、殴られるかもしれねーし」
「そんなことしないよ」
「まあ、口だけでは何とも言えるよな。お前が俺のこと信用してないように、俺もお前のこと信用してねーから。さっきの、全部演技かもしれねーだろ?」
あんなに一生懸命に伯父への想いを伝えたのに。オレは愕然としました。
「とりあえず、食えよ。あーんして?」
オレは大人しく、伯父にチャーハンを食べさせてもらいました。
昨日から、ろくに食べていませんでした。オレはガツガツとそれに食いつきました。伯父は時折、ペットボトルを直接、オレの口にあて、麦茶も飲ませてくれました。
「はい、これで最後。全部食べたねー? そんなにおいしかった?」
「すっげー、おいしかった。伯父さん、作ってくれて、ありがとう!」
「ごちそうさまは?」
「伯父さん、ごちそうさまでした!」
まるで、五歳くらいの子供に親がするようなやり取りでした。
本当に、五歳だった時の記憶は、正確には思い出せません。けれどきっと、このように、微笑ましい光景だったはず。
伯父が手の拘束を外さなかったのは、もしかして、伯父がそうしたかったからなのかもしれない。そう思いました。
オレもそのとき、昔の優しい伯父に再び会えたようで、すっかり気が緩んでいたのです。
「そろそろおしっこしたい?」
「あ、うん」
「おしっこだけ?」
「うん」
伯父がオレに与えてくれたペットボトルの麦茶は、残りわずかになっていました。オレに質問し終わった伯父は、残りを自分で飲み干しました。
そして、空になった五百ミリリットルのペットボトルを、オレに突き付けたのです。
「じゃ、こっちに出そうな」
「えっ? なんで? 普通にトイレ行かせてよ」
そんなオレの物言いに、伯父は顔をしかめ、舌打ちをしました。
「お前さー、人の話聞いてた? まあ、お前のパパも人の話聞かないから、仕方ねぇか。もう一回説明しないとな。俺、言ったろ? お前がどうしたいかじゃなくて、俺がどうさせたいかを考えろって。俺がここでしろって言ったら、お前は言うとおりにしなくちゃいけないだろ?」
排泄も自由にさせてもらえないことに、ここでようやく気付きました。そして、伯父はまだ、オレを帰す気など全く無いことも。
「や、やだよ」
「ズボン脱がすから大人しくしろよ。一回ベッドから降りてくれ。はい、たっちしてー」
「えっ、ちょっ、伯父さん」
「……やっぱり、さっきの演技だったか。油断ならねぇガキだな?」
「違う! 違うって! 本気だよ! 演技なんかじゃない!」
「言ったろ? 行動で示せってことだよ」
オレはどうしても、伯父のことが本気で好きだって分かって欲しかったんです。なので、言われた通り、ベッドから降り、床に立ちました。
そりゃ、何度も何度も、脱がされる妄想はしていましたよ? でも、そういうことじゃない。
ただ、考えてみれば、オレが子供の時は、当然のようにオムツを替えてもらっていたわけで。恥ずかしがる必要なんて、全くない。だって、相手は伯父なんだから。
そういう風に考えながら、ズボンのボタンを外され、ズボンとパンツをすっかり脱がされてしまう一連の動作に、オレは必死に耐えていました。
実際、伯父は小さな子供に対してするように、とても淡々としていましたから、下半身を全て露出させられるまでは、まだなんとかなりました。
ただ……伯父に手伝われ、ペットボトルの中で排泄をすることは……。
その時のオレには、この上ない恥辱でした。何せそのとき、手は拘束されたままでしたから。
そして、一方の伯父は、なんだか酷く楽しそうにしていました。
「よくできたなー! これからも、したくなったらすぐに言えよ? ガキの頃はできてたろ? お前、オムツ外れるの、早かったもん。双子はなー、いちいち聞くの面倒だったし、はかせといた方が楽だったから、割と長いことオムツだったっけ……」
一体伯父は、オレを辱めることができて喜んでいるのか、甥が上手に小便ができたので褒めているのか、何もかもが分からなくなりました。
そして、これから尿意を催す度、こんなことをしなくてはならないのだと思うと、胸が詰まりました。
「よーし。片付けで行ったりきたりするし、足も縛っとくな?」
もう何も、言い返す気は起きませんでした。口を開けばまた、怒られるかネチネチと文句を言われるかのどちらかだと思ったので。
オレは下半身に何も身につけないまま、ベッドに座らされ、壁に背をつけ、三角すわりをした状態にさせられました。手の拘束はもちろんそのままです。
その状態で、足を縛られましたので、もうズボンとパンツを履かせてくれる気などないことも分かりました。そういや言ってませんでしたね、そのとき若干大きめの半袖Tシャツを着ていたので、いくらか肌が隠せました。それでも心細いし情けない。
そうして、伯父が、昼食と排泄物の片付けをしているのを、オレはただぼうっと眺めていました。
「そんな泣きそうな顔すんなよー。本当にガキの頃はおっきい方のオムツも替えてやってたんだぞ」
「こんなの酷いよ。やりすぎだよ。伯父さんがこんな人だなんて知らなかった」
この男が、こんな本性を隠しながら、何年も甥や姪の世話をしていたという事実を、オレはまだ受け止めきれずにいました。
「貴斗は知ってたよ。お前が産まれる前からな。知ってて俺に躾を頼んできたんだよ」
「伯父さんが父さんを脅して、そう言わせたんでしょ?」
「そっか。お前、そう思ってたのか。じゃ、パパに電話してみるか? 俺が良いって言ったときだけ喋れよ」
そんな事態になりました。
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