016 告白

 伯父に挿れてみたいと考えたことがある、と白状させられた後、オレが今まで伯父とのセックスをどう想像していたのかを、正直に言えよ、言わないとまた石鹸振り回すぞ、などど言われながら、ネチネチネチネチと質問されました。

 こういうのを詰問というんですね。言葉の意味を知っているのと、実際体験したことがあるのとでは、言葉の「重さ」が違ってきますね。

 オレは監禁から解放された後、何でもかんでも「貴重な経験だった」と言い換えて生きてきましたが、これはどう考えてもただのトラウマになりました。あ、もちろんボトル式のボディーソープしか使えなくなりましたよ?

 さて、先ほどのことがありましたので、オレはなるべく、回答を遅らせないように注意し、スピード感を大切にしながら、あけすけに正直に答えていきました。

 その時のオレは、こんな形で伯父と話したくなかったと思い、昨日のことを激しく後悔していました。本当は、優しく抱きしめてもらいながら、ゆっくりと少しずつ、互いの気持ちを確認したかったのです。

 オレは伯父に、恋をしていましたから。

 伯父との性行為について、そこまで明確に考えがあったわけではなかったんです。

 ただ、最低限の知識くらいはありました。仮に伯父とそういう関係を結べたとして、オレは伯父のしたい方に合わせよう、と思っていました。

 そして、どちらでもいいように、想像していました。だから、オレは、一度でも考えたことがあった、と回答したのです。

 そういう意味なんだと、言葉を尽くして丁寧に伝えたいと考えていたんです。こんな風に、尋問されながら聞き出されたくなど無かった。

 オレは泣きそうになりました。そして実際、終わった頃には涙をこぼしていました。


「お前、マジで、俺のこと好きなのな……」


 どうやら伯父は、呆れかえっているようでした。


「何回も、言ってるじゃん、本気だって」


 それからオレは、聞かれてもいないのに、伯父への感情を一方的に吐露しました。


「ずっと好きだった。伯父さんしか見てなかった。でも、それがバレたら、絶対嫌われると思って、伯父さんに会わないようにしてた。会えないより、嫌われる方がこわかった。けどさ、父さんと、やってるって知って、嫌だったけど、嬉しくて、わけわかんなくなって」


 この時の伯父は、とりあえずオレに全てを吐き出させるため、口を挟まず黙って聞くことにしていたようです。


「あんな風に、伝えるはずじゃなかった。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。でも、好きなんです。あんなに散々殴られて、伯父さんのこと、すっげーこわいのに、それでもオレは、伯父さんのことが好きなんです、今も、好きです、大好きです」


 オレが吐き出し終わってからも、しばらくは伯父は黙っていました。その沈黙が、とても長く感じたことを、今でもよく覚えています。

 伯父は次に、何を言うのか、オレに何を質問するのか、想像すらできませんでした。

 そのときの伯父は、こう考えていたそうです。一番めんどくせーパターンになったわ、と。




***




 ここからは、後から伯父に聞いた話です。

 オレが父に、「伯父に迫って殴られた」ことをぶちまけた日の夜。つまり、監禁前夜ですね。父が伯父に電話しました。

 伯父はあえて、自分の方から父に連絡はしていなかったそうです。帰宅したオレが、顔面を腫らしている理由を、父や母にどう説明するつもりなのか、わからなかったからです。なので、自分からは動かず、待っていたそうです。

 オレは父に、全て正直に話してしまっていたので、伯父は頭を抱えたそうです。素直なんだかひねくれているのかどっちなんだと。父もパニックになっており、どうやら誤魔化すのも難しそうだと判断した伯父は、優貴の言っていたことは全て本当だと告げたそうです。

 その時の二人には、一つの大きな疑問がありました。オレが果たして本当に、伯父が好きなのかということです。

 オレは他人に触れている間、勝手にその人の過去が視えるせいで、他人とセックスすることができません。実際、オレがやってみたことはないんですけど、絶対無理だと思います。けれど、過去視ができる者同士なら大丈夫。

 なので、優貴は自分の伯父のことを、本気で好きではないけれど、どうしようもなくなった性欲を発散させてもらうためだけに、襲ったのではないかと二人は考えました。父の記憶から、伯父が男を抱けることを把握していますしね。

 伯父が電話で言った、「どっちか確かめたい」というセリフには、色んな意味が込められていましたが、その内の一つが、「伯父のことを男として本気で好きなのか」ということでした。


「もし、お前が俺に本気じゃないってわかったら、もっと早く解放するつもりだったんだ。あんだけ殴ったら、もう十分だったからな。けどさーお前、涙と鼻水で顔グシャグシャにしながら、好きだ好きだって言ってくるから、やっべーこれ長期戦だって思ったわけよ。なんなの、お前。重いよ」


 伯父にそう言われたのは、監禁が終わった後でしたから、重いと言われた直後のオレは、あんな風に伯父への気持ちをぶちまけておいて、本当に良かったと思いました。

だから、その後のことも、オレは後悔していません。伯父に監禁されて良かった。今では本当に、そう思っているんです。あれはオレの人生で、最も幸せな日々だったのかもしれません。

 こんな気持ちをわかってくれるの、きっとナオさんだけでしょう?

 だからオレは、あなたの存在を知った時、この監禁生活のことを思い出しながら断片的なメモを書き、それをいつかまとめて、こんな「ラブレター」に仕上げようと思いついたのです。

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