009 馴れ初めの真実

 さて、これからはちょっと、説明ばかりが続くんですが、これ以上短くできなかったので、勘弁してください。ナオさんって、コーヒー飲めますっけ? まあ、飲んだところで眠い話なんですが……。




 伯父が「過去視」について教えてくれたのは、次のようなことでした。

 伯父もオレと同じで、中学二年生の頃に、他人の過去が視えるようになったそうです。しばらくは制御できなかったけど、二十歳になる頃には、自然と調整が利くようになっていったそうです。

 今では、強く集中して触れないと視ることができない、と告げられました。まあ、この辺りは、ナオさんもご存じですよね。

 それから、過去視ができる者同士が触れ合っても、お互いの過去を視ることは絶対にできないと知らされました。オレが伯父の過去を視ることができなかったのは、そういう理由だったんです。

 あの頃オレは、過去視について一人で実験や考察をしていたけど、「伯父も過去視ができる」という可能性にまでは行きつきませんでした。そして、伯父はこの法則を利用して、オレも過去視ができることに気付いたというわけです。

 そして、伯父がこの法則に気付いたきっかけは、母でした。五歳年下の妹である母も、伯父やオレと同じ中学二年生の頃に、過去視ができるようになってしまいました。

 オレが母の過去を視れなかったのは、つまりそういうわけでした。

 母はそれを、伯父にだけ相談したそうです。二人はオレと同じで、自分の両親には相談できなかったようでした。オレはこのとき、自分が思っていたよりも、この兄妹の絆が深かったことを知りました。

 さらに、父もこれらのことを全て知っている、と伯父はいうのです。父と伯父は高校入学時に出会いましたが、伯父は四月下旬くらいにはもう、過去視のことを父に打ち明けたそうです。

 ナオさんは、二学年下の後輩と聞いていますので、伯父が初めて自分の過去視のことを話した相手は父なのだろう、という理解をオレはしています。

 最初にお話ししたとおり、母は父を一途に想い続けていました。実は、父の方も、徐々に母を憎からず思うようになっていたそうです。

 ですが、母は過去視のせいで、例え父が想いを受け入れてくれたとしても、お互いに触れることができない状態になっていました。

 母は伯父を通して、そのことを父に伝えたそうです。諦めようとしたのでしょう。両想いなのに、手すら繋げないなんて、辛いですからね。

 父は伯父に聞いて、すでに過去視のことを知っていましたから、そのことをよく理解したはずです。

 ところが父は、母が高校を卒業したらすぐに結婚すると宣言し、実際にそうしました。


「まさか、親の馴れ初めを聞かされるとは思ってなかったろ? まだ話は続くんだ。俺も疲れてきたし、そっち座ろう」


 伯父は、テレビの前にあるソファを指しました。

 オレと伯父は、テーブルからそちらに移動し、そこに並んで座りました。横並びになったことで、伯父との距離はさらに縮まりました。

 当然、僕はそのことを喜んでいました。しかし、きちんと聞かなければなりません。伯父の話が、これからどう展開していくのか、さすがのクソガキにも、察しはついていましたから。


「絵理子はまだ、やろうと思えば使えるはずなんだ。でも、自分で制御できるようになってから、絶対に自分からは使わないって言い出してな。貴斗も別に、絵理子には視られても構わないって思ってたみたいだけどな……」


 そう。ここからは、オレについての話になります。兄妹である二人が同じ力を使えるということは、彼らの血をひくオレと妹たちにも、過去視ができるようになってしまうのではないか。そういう不安は常にあったそうです。

 事前に説明しておいて、怖がらせることはしたくない。仮にできるようになったとしても、あの子たちなら自分から打ち明けてくれるはず。だから、それまで待とう。それが母の選択でした。

 母は過去視を封印することに決めてしまったので、確かめるために使うことすらできなかったのです。

 オレはこのとき、言えずにいた自分が恥ずかしくなりました。母は信じてくれていたのに、と。

 ただ、伯父は別でした。子供たち、特にオレの態度が明らかにおかしくなったので、ずっと疑っていたそうです。けれど、母は頑固な性格なので、一度決めたことを曲げはしない。確認するなら、自分でするしかない。

 それで、夕食会の日、伯父はオレたちに触れて、確かめていたのでした。ただ、妹たちは、まだこれからなのかもしれない。

 何かの理由で、オレとはタイミングがずれているのかもしれないからと、伯父はオレに、二人の様子を気にしておいてくれと頼んできました。オレはあいつらにとって、鬱陶しい兄のはず。これからはもう少し、優しくしてやろうと考えました。

 そして、この確認は、母には秘密で行われたことでした。


「母さんには内緒で来い、ってそういうことだったんだ」

「悪いな、優貴」

「……じゃあ、母さんには、オレの方から伯父さんに相談したことにすればいいわけ?」

「お! さすが貴斗の息子だなー、理解が早い」


 伯父は一気に気が抜けた様子でした。母への言い訳の口裏合わせを、自分からしなくても済んだからでしょう。両親には言いにくかったが伯父には言えた、ということにすれば、そんなに母を傷付けることはないだろうとオレも思いましたし。

 そして、母には伯父とオレの過去は絶対に視えない、というのがハッキリしたので、仮に母が自身の封印を解いて過去視を使おうとしても、今日の伯父との会話を視られて嘘がばれることは無いと、その時点でオレはしっかり認識していました。

 ということは、伯父とオレの間でも、過去視を使って嘘や隠し事を見抜くことはできません。このせいで、色々と、苦労しました。


「貴斗にはオレからテキトーに言っとくよ。お前、父さんとは話しにくいんだろ」


 伯父にそう言われて、オレは目を伏せました。父の秘密を視てしまってから、オレは余計に父と口をきかなくなっていました。

 ただ、両親の馴れ初めなんかを聞いている内に、もしかしたらあの時視えた過去は何かの間違いじゃないかと思えてきました。伯父の話では、父も母を想い続けていたということでしたから。

 あれは勘違いだった、とオレは自分に言い聞かせはじめました。それに、せっかくこうして、伯父と二人きりで話ができたのです。オレは、伯父に甘えました。

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