004 過去視
そうして、オレが中学二年生になったときです。
突然、変なものが視えるようになりました。
同級生に腕を引っ張られたり、肩を回されたりしたとき。今現在、起こっているのではない、何か別のイメージが、頭の中いっぱいに広がってしまうのです。
そしてそれは、誰かと触れている間だけ視えて、身体が離れるとパッと消えてしまう。それが一体何なのか、理解できるまでは時間がかかりました。
こんなことを言うと、これから書くことも全部、オレの創作に思われるのかもしれません。けど、伯父によると、純粋なナオさんなら絶対大丈夫らしいんで、思い切って書きますね。
オレは、誰かに触れている間、その人の過去が視えるようになっていました。
正式な言い方はわからないんですが、「過去視」と伯父は呼んでいます。
その頃のオレは、過去視を制御することができませんでした。どんなに視たくないと願っても、身体が触れれば、触れている間は勝手に過去が視えてしまうんです。
オレは誰かに触れるのがこわくなりました。友人を避け、家族を避け、誰かと触れなければならない全てのことから逃げました。
誰にも相談なんてしませんでした。こんなことを打ち明けたら、精神科か何かに連れていかれ、カウンセリングを受けさせられると決めつけていました。
それでも高校にはきちんと通っていました。名前だけでも登録してくれと言われ、廃部寸前の文化部に入りましたが、一度も部室に行ったことはありません。
友人付き合いは煩わしかったけど、勉強は嫌いでは無かったので、高校生活はそこまで悪くはないと思ってはいました。そこはほら、やっぱりオレは父の子なんだと思います。あとは、大学まで行きたかったですしね
ちなみにこのテキストは、大学生になってから書き始めました。その頃は断片的なメモのようなもので、ここまでまとめるにはかなり時間がかかりました。
そして、徐々に過去視と付き合うことができるようになってきたオレは、実験を始めました。この力は一体何なのか。あらゆる方法を試しました。すると、たった一つですが、わかったことがありました。
母の過去だけは、視れなかったんです。
父と妹たちの過去なら、視ることができてしまった。少し触れただけで、強制的に過去が視える状態だったオレは、それを奇妙に思いました。母は、この力をもってしても封じている、何か恐ろしい過去があるのではと想像し、震えました。
肩でも揉もうか、と母に言い、長い間触れてみたこともありました。それでもダメでした。優貴くんがこんなことしてくれるの久しぶりだね、と母に言われ、罪悪感でいっぱいになったことを覚えています。
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