003 両親の馴れ初め
ナオさんへ。
あなたのことを伯父に聞いてから、オレはこのテキストを書き始めました。ナオさんに伝えたら、絶対に喜んでくれると思って。
こんな内容を喜ぶような人は、伯父の他にはナオさんくらいだということは、オレもよくわかっています。
ただ、実際にお会いして伝えることができるのは、一体いつになるのかわからないので、とりあえずこうして、忘れないよう書きました。
オレにとっては、絶対に忘れたくないことだから、っていうのもありますけれど。
できるだけ、時系列に沿って、出来事をご紹介します。後から伯父に聞いてわかったことを、付け足している部分もあります。
まあ、伯父の言うことですから、どこまで本当かわからないんですが、ナオさんならその辺り、なんとなく理解してくれるのでは、と思っています。
まずは、オレの両親の馴れ初めから、書いておいた方がいいのでしょうか。
実を言うと、ナオさんがオレの家族のことを、どこまで正確に把握しているのか、わからないんです。なので、もう知っていることもあるかもしれません。
そして、家族の名前を仮名にする以上、ある程度整理しながら書きますね。
オレの母の名前は、「絵理子」としておきます。絵理子の五つ上の兄が、「勝也」。つまりオレの伯父です。
勝也の高校の同級生に、「貴斗」という人がいました。
彼はいわゆる日独ハーフで、ナオさんも知っての通り、背が高く、とても容姿が整っている人です。
髪の色は、栗色といったところでしょうか。瞳も明るい茶色ですよね。もちろん色白で、今でも日焼け止めを欠かさず塗っているようです。
まあ、息子が言うのも何ですが、カッコいいですよね。顔だけは。ちょっと、複雑な気分になるんですけどね。父親がカッコいいとね。
つまり、貴斗は、オレの父親になる人です。
勝也は貴斗と仲が良く、二人が高校一年生のときに、勝也は貴斗を自宅に呼びました。
そして、そのときたまたま家にいた絵理子が、貴斗に熱烈に一目惚れしたそうです。
貴斗にとって、長らく絵理子は、友人の妹でしかありませんでした。彼は女性によくもてましたから、一目惚れをされても、気にしないことがほとんどでした。
そして、絵理子が恋に落ちたのも、彼女が小学五年生のときでしたから、彼女の気持ちもただの憧れのようなもので、長続きしないだろうと高を括っていたらしいです。
ところが、絵理子はそれから貴斗を一途に思い続け、彼女が高校を卒業すると同時に、二人は結婚しました。
「初恋同士の結婚だよ。可愛らしいだろ?」
そう言って伯父は、自分のことを、「父の親友」であり、「母の兄」であり、「二人の天使」なのだと、小さい頃のオレを抱きしめながら、話してくれていたことが、ありました。
そして、結婚して一年後に長男の「優貴」が産まれ、妹で双子の「恵瑠」と「璃愛」が産まれました。妹たちの名前も、もちろん仮名です。
両親は、結婚した当初から、子供は三人欲しいと思っていたそうです。
結婚してすぐオレが産まれ、その二年後に妹たちが産まれたわけですが、双子は「想定内ではあったが希望ではなかった」ようです。
オレも小さかったのでよくは知らないのですが、二歳児と双子の新生児の世話は、それはそれは壮絶だったらしいです。
ただ、伯父が、オレが産まれたときから、ずいぶん可愛がってくれていましたから。オレはよく、伯父に面倒を見てもらいました。伯父が家に来ることもありましたし、オレだけ伯父の家に預けられることもありました。
伯父がそれだけオレに優しいのは、義兄弟である前に親友同士だからなんだと、父がオレに説明してくれたことが、何度かありました。
伯父は独身で、うちの家から車で十五分ほど離れたマンションに一人で暮らしていました。
時間の融通が利きやすい仕事をしており、両親がオレの世話を急に依頼しても、割と調整して何とかしてくれていたそうです。
伯父によると、自分は結婚するつもりもないし、働くのも好きじゃないから、金より時間を優先していた。その時間を、可愛い妹夫婦のために使うのは、伯父にとっては何よりも幸せなことだったらしいです。
ナオさんは、父と伯父の高校の後輩だと聞いています。
嘘つきの伯父が自分で言っていたことなので、あまり信用できないのですが、父共々、とても面倒見の良い先輩だったようですね。
ああ、父が面倒見がいい高校生だったことは、全く疑っていませんよ。
甥にとっての伯父は、優しく頼もしい男性でした。高校の頃は全くダメだったらしいですが、料理も作るし、育児についても、色々勉強してくれていたようです。
オレは伯父に、懐きました。
オレが自分から、伯父と距離を取り始めたのは、小学校高学年くらいからです。
伯父だけでなく、両親や妹たちにも、オレはよそよそしくなりました。自室で過ごす時間が増え、ぶっきらぼうな態度を取り始めました。
その位の年齢であれば、ごく自然なこととして、両親は心配こそすれど、さほどその理由を気にはしていないようでした。
妹たちも大きくなり、伯父に面倒を見てもらう必要も、無くなりました。
オレが中学一年生になり、新しい生活にも慣れた頃、母が働き始めました。本当は、もう少し早くパートに出たかったんだけど、と母は後から漏らしていました。
母は職歴がなく、それまでは専業主婦をしていましたから、パート探しも大変だったんです。
父は忙しい人でしたから、母がパートを始めた後も、家庭の事はほとんど任せっきりでした。
オレは中学では、特に部活にも入ることはなく、同級生たちとは必要最低限のやりとりだけをしていました。
あと、オレは父譲りの容姿のせいで、それについて後から何度も質問をされてしまうことが多く、かなりうんざりしていました。
今では自己紹介のときに、自分からクォーターだと言って背景を全部説明してしまう癖がついていますが、それを伯父に言うと、学生の頃の貴斗と全く同じことをしている、と笑われたことがあります。
もしかして、ナオさんにも、父はそういう自己紹介をしたのでしょうか。だったらちょっと、恥ずかしいですね。
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