第8話 異世界で学んだ事。

盗賊ギルドでも勇者タケルの情報はあまり手に入らなかった。


逆に昔の勇者の話は幾つか入ってきた。


今入ってきた情報は


1. 正面切った戦いではまず勝てない。


  これは過去の勇者がドラゴンを倒した、魔王を倒した、その事からわかる。

  実際に盗賊ギルドの当時のエースが戦いを挑んだが瞬殺されたらしい。

  その殺されたエースは騎士団長位なら簡単に殺せると言われていた。


2.その反面内側からの攻撃には弱いかも知れない。


  これは過去の勇者の中に病気に掛かった者が居た。

  そういう話からきた話。



3.勇者の能力は常に未知数


   召喚された勇者の力はその都度違っていた。

   火を使う魔法にたけた物から、剣術に優れた者まで毎回違う。

   共通して言えるのは、この世界の人間では持ちえない素晴らしいスキルを持っている。

   それだけだけしか解らない。

   ちなみに、この世界の人間でもスキル持ちはいるが、似たようなスキルでも威力が全然違うらしい。


4.絶対無敵 そういう訳では無い


   あくまで強大な敵、魔王やドラゴンと戦う時は回復役の聖女や、遠距離魔法の得意な魔導士を連れていた。

   回復役が必要な事から絶対に無敵では無いという憶測。


5.聖剣を持っている。


   これは代々の勇者が持っていた物。



それに加えて、勇者タケルのスキルは「風関係なのではないか」しか解らない。


今の勇者はまだ、お城から出ていない。


考えて見れば、俺の召喚も勇者絡みだとしたらまだ修行の期間の筈だ。


そして、もしかしたら10年後に俺の様に元の世界に帰るのかも知れない。


そう考えたら、殺しても向こうに帰るだけ..それじゃ意味が無い。


つまり、手詰まりだ。


しかも、今回の事件が元で勇者が旅立つのは「常識を身に着け、ある程度強くなってから」だそうだ。




「すまないな、どぶネズミ、こんな情報しか手に入らねぇ」


俺はターナルの字を「どぶネズミ」に変えて貰った。


本来は字なんかは勝手に変えられない...だが、俺が仲間を大切にしていた事と、「ドブねずみパーティの生き残り」の為認めて貰えた。



「まぁどっちも臭いから良いんじゃないか?」


そうギルマスは言うが..今の俺は臭くない、この臭いが薄れるにつきミーシャとの絆が無くなって行くような気がして寂しくて仕方ない。



時間が経てばたつほど、勇者は強くなり俺は変わらない..



一泡ふかせるにしても早いうちじゃなくてはならない。



勇者タケルの似顔絵を書いて貰った。


この憎しみを忘れないようにするために..





俺は処刑人をしながら、どうすれば殺せるか考えた。


目はどうだ、恐らく駄目だろう、歴代の勇者の中には龍のブレスに晒された者もいた。

龍ほど火力直撃なら解らないが、その余熱でも耐えた以上は目すら強いそう思った方が良い。



結局行きついた先


1.「喉」それも内側からならという条件付き


2.「肛門」


この二つが恐らく弱点になるだろう...


口からナイフを突っ込み喉を内側から裂く、恐らく此処は強化などされていない、加護何かない筈だ。


そうで無ければ、人間的に声やら何やらが可笑しくなる



肛門、うん絶対に鍛えられていないだろう..



あくまで憶測だ。


ここに至るまでの処刑の経緯は言いたくない。


だが、俺の処刑を見た者は「流石の俺でもあれは見たいと思わない」そう言わしめた。





「ギルマス、聖女の事で何かあったか?」



「聖女は行方不明らしいぜ、だがきっぱりと言っておいたぜ! 聖女が王が贖罪で下賜した物を盗みに来たから武力行使したとな..その後は知らんと言っておいた」


「大丈夫なのか?」


「さぁな? 表向きは文句は言えんだろうな、あの首はお前が貰った物で書類迄あるんだ..裏は解らんが」


「そのうち暗殺でもされるか?」


「あり得るが、此処にまで来れる暗殺者はまずいねーよ」


「そうか」


「まぁ、聖女の事がはっきり解れば、一生恨まれるぞ..世界中から」


「まぁ良いや」


「お前、死ぬ気か?」


「なぁ..トムとオルト...ミーシャは俺の凄く大切な仲間だったんだ..」


「そうだろうな」


「死なないで敵をとれるならそれが良い..此処は居心地が良い..」


「そうか」


「だが、死なないと勇者が殺せないなら、死んでも良い」


「そうか」



「ギルマス、そうかばっかりだな..俺が勇者を殺しちまったら世界が終わるんだろう」


「終わらねーよ..この国は無くなるかも知れないが、俺たちは盗賊だ、他の国に逃げれば良いそれだけだ」


「そこにも魔族が来たら?」


「そこからも逃げるな」


「大丈夫なのか?」


「ああ、多分、これは俺の推測だが、魔族も人間を皆殺しに出来ないんじゃないかと思うんだ、何しろ勇者が負けた時もあったが人間は滅んでいねぇ」


「そうだな」


「ああ、逆に魔王が滅んでも魔族は滅びねえ」


「言われて見ればそうだ」


「勇者が負けたり、居なくなっても、次の勇者が5年もすれば呼ばれる、魔王だって復活する」


「そうだな」


「まぁ5年間人間は地獄を見るが、俺たちには関係ねぇ..魔族から一番遠い場所に逃げるだけよ、それによ」


「まだ、何かあるのか?」


「魔族に情報を売れば良い金にもなるし、人間の女を売りさばいても金になるかもしれねぇしな」


「そんな事出来るのか?」


「俺の代では無いが過去にあったらしいぜ..ともかく、お前は気にしないで良いぜ..もし勇者を殺せたら皆んな喜ぶんじゃねえか?」


「そんな物か?」


「ああ、此処は身内には甘いからな」






結局、打開策は見つからなかった。


勇者はもう魔法騎士より強くなったらしい。


今しかチャンスは無い。



金貨10枚で「身がくれのマント」を買った。


これはある貴族の家宝だったが、お金を払ったら売って貰えた。


最も、「頼んだから、盗んできたのだろう」



これにナイフに小奇麗な服を買った。


残りは金貨5枚。


この金貨5枚はギルマスにある依頼をした。


依頼内容は墓掃除だ..


「ああっチビ達には良い仕事だ10年間は約束してやるぜ」


「じゃーな」


「どぶネズミ..帰って来いよ..」


「ああ、帰れたらな」






俺はそのまま城の近くに来ると「身がくれのマント」を使った。


これで俺の姿形は見えない。


勇者のいる部屋は、おおよその位置までは解る。



騎士やメイド色々な人に出会ったが誰も気が付かない。


あっさりと勇者の部屋の前にきた。


だが、流石は勇者タケル気が付いた。


「誰だ、貴様! 魔族か?」


「待ってくれ、僕は次郎..日本人だ」


(咄嗟に偽名を使う..これも伏線であり、俺の切り札だ)


「えっ、日本人なのか? 懐かしな、どうしたんだ?」


(やはり、この切り札は使えたな...ただ、同じ日本人、それだけで信じた)



「僕は、普通にこの世界に迷い込んだんだ、そうしたら勇者の名前がタケルって言うじゃないか?逢いたくてきたんだ、他にも日本人は居るの?」



「居ないな! 俺があった日本人は次郎だけだぞ」


(日本人ってだけで仲間意識..馬鹿だ此奴、日本人だって悪人は居るのに)


「そうか..日本に帰れる方法の手掛かりを知らないか?」


「俺は女神の召喚で此処に来たんだ次郎は違うのか?」


「違う、迷い込んだんだ」


「そうか? なら俺が魔王を倒すか死んだ時に女神に会えるから頼んでやろうか?」


「お願い出来るかな」


「ああっただどうなるかは..えっくはあああああっ..なあおするんだ」



喋っている口からナイフを突き立てた..そのまま押し込む



「うがえっぐほぐぼぐぼおぉおおおおおおおおおっ」



普通ならこれで死ぬ筈だ..



だが、勇者のせいかタケルは死なない..いきなり殴りつけてきた。


可笑しい、余り効いてない..仮にも勇者が殴りつけてきたのに、そんなに痛くない。





マモルは気が付いていなかった。


この世界の異世界人にはレベルがある、そしてそれは人を殺しても上がる。


毎日の様に人を殺していた「処刑人」のマモルはかなりのレベルになっていた。


逆にタケルはまだ戦っていない..つまりマモルの方が遙かにレベルが上だった。



ナイフを押し込み続けてとうとうナイフは内側から突き破り喉から顔を出した。


だが、タケルは右手をマモルに触れた..ただ、触れただけ、その瞬間にマモルは炎に包まれた。


女神からスキルを貰えた者、貰えなかった者の差が此処ででた。



「勇者タケル様、これはいったい..急いで治療師を呼んで来い、曲者に勇者様が襲われた..」


「はい只今..すぐに」



(届かなかったか..多分、勇者は助かる..俺は..駄目だな)





世界が暗転した。




「どうやら、死んだようですね!」


「女神なのか?」


「そうですよ..何ですか? その目は前に会った時はあんなにキラキラしていたのに今の貴方はまるで腐ったドブのような目をしていますね」



「勇者はどうなりますか?」


「聞きたいのですか? 恐らく、勇者タケルは貴方のせいで魔王はおろか、魔族の幹部に負けるでしょうね..満足ですか?」


「ああ、満足だ」


「聖女を汚して能力を奪い、勇者は詠唱が出来なくされて大きな魔法は使えない..これから何万という人間が死ぬでしょう..貴方のせいです」


「だが、人間が滅ぶわけでは無いのだろう?」


「ええっそうですね..ただ数年間は人間にとって辛い歴史となるでしょう?」


「なぁ女神様..俺はただ3人の人間を救いたかっただけだ..もし、勇者がその3人に手を出さなければ俺はただ薄汚く処刑人として生きていた」


「そうですか..」


「もし、貴方があの瞬間に現れて3人を生き返らせてくれたら、俺は感謝したと思う」


「そうですか..だが私にはそんな事をする事は出来ません」


「解りました..それで勇者であるタケルは何時こちらに帰ってきますか?」



「それを聞いてどうするのですか?..まだ何かするつもりですか!」


「やり過ぎたから謝りたい、そう思っています..流石にここまではする気が無かった」


「謝罪をするのですね..多分彼は貴方を許さないでしょう..一生憎まれていきなさい..天上タケル、貴方の隣町に住んでいます」


「許しては貰えないと思いますが謝りに行きます..それで何時彼は戻るのですか?」


「彼にはスキルを与えているので1か月貴方と時間軸がずれて戻る筈ですよ..贖罪の人生を送りなさい」


「はい」


(案外チョロいな..)



世界は再び暗転する。



本条さんには黒田が覆い被さっている。


本条さんは手足を3人掛かりで押さえられて身動きできない。


「こんな奴庇うからこんな事になるんだよ..クラスの女もお前の事嫌いだからだれも助けにこねーよ」


「いや、いや、やめて、お願いだから..いやー」


「やだね! 俺がお前にこんなクズ庇うの辞めろって言っても、正義面して辞めなかったろう? 同じだ」


黒田は本条さんのブラウスに手を掛け破った。


「いやあああああああっ」




俺は黒田を突き飛ばすと本条さんに当身を食らわした。



本条さんは気絶している。


「お前、何してくれているんだ!」



「黒田さん、本条気絶しているよチャンスだ..これなら暴れられない、簡単に脱がせる」




「マモル、お前のせいでやりやすくなったわ..お前何で手錠が外れているんだ? おい、俺が終わったら、やらしてやるから先に此奴をもう一度ボコって転がして置け」


「めんどくせーな」


「仕方ねぇ 手間かけさせるなよ」




俺は何を持ってきたんだ...タケルの似顔絵かよ、あの女神絶対に根に持っているよな。


二人の間をすり抜け、黒田に近づく。




「手前、いい度胸だな、殺して..えっ..痛てええええええええええ目が目が見えねえええええええええええっ」


「黒田さぁ、殺すなんて言う奴は馬鹿だよ..本当に殺したいなら言葉に出さずにやれば良いんだ」




「おい、あれ黒田さん..目が潰れてないか?」


「そんな事無いだろう..そんな事喧嘩でやる奴はいないよ」




「目が見えるようになったら殺す、お前は絶対殺す..ぎゃあああああああっ」


「だから?」


俺は耳を千切って二人に放り投げた。



「何だこれ..嘘だろう、これ耳だ」


「冗談は辞めろよな..うわっ」





「あのよー黒田お前の目はもう見えないよ! えぐり取ったんだからさぁ、もうお前どうやっても俺には勝てないよ、目がねーんだもん」



「嘘だ..嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」


「現実は辛いな」


「もう片方もいっておこうか?」


「痛い、何でだよ、何でこんな酷い事するんだよ..此処までする必要はねぇだろう..ボコって終わりで良いじゃねぇか?」


俺は黒田の耳を千切った、案外耳は簡単に千切れる。


「うわああああっ、もう辞めてくえ、やめてくえ..」


「何で? お前が俺が辞めてくれって言って、辞めてくれた事はあったかな? 平田はどう思う!」


「俺は..やり過ぎだと思う..やめてやれ..」


「そう、平田は俺の敵なんだな、だったら良いや..お前も」



「やややややめろよ.な、俺はそんなに酷い事しなかった...あああああっ痛い、痛いよ..嘘だろう目が目が見えねー、酷い俺は黒田の命令を聞いていただけなんだ」



同じ様に両目を抉った。


「逃げようとしても無駄じゃないかな、城田くんよぉ...自分達で逃げれないようにドアをワイヤーでがんじがらめにしてちゃな」



「嫌だ嫌だ嫌だくるな、くるなって..そうだ、金を払うなぁそれで良くないか?」


「金だけか?」


「そうだ、バイク、バイクならどうだほぼ新車だぞ! なぁそれで良いだろうなぁ」


「あのさぁ、さっきの話しだけど誰が一番悪いと思う?」


「黒田だ、黒田が悪い..ああ全部黒田がわるい..」


「次に悪いのは?」


「平田だ、平田が悪い」



「いいねぇ..合格、だったら俺の代わりに二人に制裁してくれないかな?どうだ」


「解った..それで見逃してくれるんだな」


「ああ良いぜ」




「痛い痛い、医者に連れていってくれ頼むなな」


「いてぇよ、いてええ..俺が悪かった」



「黒田、平田、俺はお前らが気にくわなかったんだ..おらぁー」



「お前裏切るのか..」


「やめろ、やめてくれ痛いんだよー」



おーおー、凄い勢いで蹴りやがるの..こんな物か..



「助しゅけて、助しゅけて、殺しゃないでくれ、頼むおお願いだ、お願いしまふ、命だけうわ助しゅけて」


「オエは、黒田にいうわれて、やっていただけや..」



「解った、これで助けてやる..ただ、これは俺は関係ない、お前達が先に誰が本条さんと犯るか争って怪我をした、それで良いよな?」


「解ったようお」


「おでも解った」



「それなら良い、これで手打ちだ、ただ、もし少しでも俺の事を話したら、黒田、お前の姉ちゃんがもっとひどい目に遭うぜ、平田は弟だ、解ったな」



「「解りました...」」



俺は救急車を呼んだ、本条さんも多分トラウマが少し残るかも知れないが、大丈夫だろう。







黒田も平田も俺を恐れてか俺の言ったとおりに話した。


本条さんとの話もピッタリ合うからそれで話は終わった。



しかし、レイプ未遂犯で盲目..もう人生は終わったな..



城田には、そのまま黒田の後釜に座らせた、そして「俺を虐めるのは辞めるように」言わせた。


自由に使える傀儡だ。



そのまま城田に「天上タケル」について探させた。


俺はこの世界から消えていた事が無い..タイムラグが全く無い。




それに対してタケルは数日前から行方不明になっていた。


この辺の事は解らない。


多分女神の話なら3週間位後に帰ってくる。



タケルは両親と妹と暮らしている。


城田の情報では妹を溺愛していたそうだ。



俺は天上タケルの家族を皆殺しにした。


此奴らは俺に何かした訳では無い..だから自殺に見せかけて苦しまないように殺した。


タケルはきっと泣き叫ぶだろうな。



俺の中に彼奴らとの思いでや「処刑人」の技術は残っているが、力は元のままだ。


つまり、帰ってきた天上タケルはただの人だ簡単に殺せる...俺は家族を失い傷心のタケルを自殺に見せかけて殺した。


普通の人間のタケルはあっさりと殺せた。


俺の様に技術を身に着けていたら、そう警戒したがそんな事は無かった。





俺はもう正義ぶるつもりはない。


目を瞑ると




「本当にガキなんだな! 戦う必要は無いだろうが、食べ物に毒を盛れば良い..寝ている間に油を掛けて火をつければ良い? 睡眠薬を飲まして寝ている間にナイフを胸に突き立てる..それだけで充分だろう? それとも正々堂々決闘して勝たなくちゃいけない理由はあるのか?」



あの日のトムの言葉を思い出す。



俺は三人の様に生きる事に真剣じゃ無かった。


真剣じゃないから黒田すら怖がった。


仲間の為に命も張れないから、仲間が出来なかった。


勝つために手段なんて選ぶ必要は無い..それを3人が教えてくれた。


トム.オルト.ミーシャにはもうあえない。



だが、俺はどぶネズミを忘れない。



「どぶネズミ」と「盗賊ギルド」こそが俺に真剣に生きる事の大切さを教えてくれたのだから





FIN




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