第6話 忘れていた裁き

相手は王族の為、衛兵では判断がつかなかった。


その為、三人は直ぐに王城に連れられていった。


輸送中の衛兵は気が気でなかった、こんな鎖など勇者であるタケルなら簡単に引き裂ける。


恐らく、聖女が止めなければ勇者は必ず、そうするだろう..


ビクビクしながらの連行だった。



王は連絡を事前に受けて困っていた。


魔王や魔族への対抗手段の勇者..手放す訳にはいかない。


よりによって、一番、権力から遠い場所にある、盗賊ギルド。


ここは、王の権力がききづらい。


これが、冒険者ギルドなら、仕事や素材の買取をしている。


ある意味上客だから、圧力が掛けられる。


騎士や貴族なら自分の命令に渋々かも知れないが確実に従う。


商人ならその権利、市民なら生活を握っているからどうにでもなる。


だが、盗賊ギルドは、その圧力がきかない。


彼奴らは「国が何も保護していない」その状態なのに必要な情報や、斥候の仕事に欠かせない人材を握っている。


つまり国に対して「貸しはあるが借りは無い」そういう人間だ。


これが、裏なら金だけで済んだ。


あっちに非があるならいい訳が出来る。


聞けば聞く程、頭が痛い。


どう考えても、こちらが悪い。


しかも、最初に殺したのは当事者でなく、仲介人だ。


「仲裁に入った者を殺した」 もう何も言い訳ができない。



「お父様聞きましたわよ? フローラがやらかしたそうですわね!」


「マリアーヌにマリアか..」


「あの子には勇者を率いる等、荷が重かったのです」


「だから、私は常識をお教え終わるまで外出は控えた方が良いとお伝えしたのに..」


「マリアの苦言を無視して、お忍びで出かけた事がこの結果です」




「もう、起きてしまった事だ..お前等の意見を聞きたい」



第一王女のマリアーヌと第三王女のマリアは実は仲が良い。


この国に王子はいない。


マリアーヌが女王になった時には、マリアは副女王の地位を与えられ共に国を治めて行く。


後ろ盾も含み全てで話が終わっている。


フローラに勇者を任せたのも、魔王討伐が終わったら勇者を侯爵にし、そのまま妻として与え、侯爵である勇者の妻に落とそうと考えていた。



「お姉さまはもう目が見えない..なら政略結婚や勇者に与える事もできません、盗賊ギルドに引き渡したら如何でしょうか?」


「王族の一生と貧民2人なら充分ですわ、悲しいですがそれが一番かと」



引き渡したら最後、恐らく怒りから「娼婦」にされる事もあり得る。


彼奴らにとって姫を貰う価値が無い。


もしかしたら、血の粛清にひっかかり、かの有名な「処刑人」により残酷に公開処刑されるかも知れない。


流石にそれは忍びない。





王であるカミアール6世は世間一般的には賢王と言われている。


「慈悲深く民想い」そうも呼ばれていた。



結局、王が出した決断は、



1.フローラをギロチンで処刑しその首を届ける。


2.勇者は本来魔王を倒した後は公爵を与える約束をしていたが侯爵にし領地も王都から離れた場所にする


3.聖女は勇者と旅立つまでの間、教会にて治療師として無料奉仕


4.殺された者1人につき金貨10枚 合計20枚をパーティーに払う。



だった。



だが、これは王族のしたたかさも含まれている。


1.については、両目を失った王女に等、価値は無い処分しても痛くない


 (これについてはマリアーヌとマリアが押した)




2.については元から侯爵の予定であったがそれを知る者は王族しか居ないからバレない。

 更に勇者みたいな戦力とカリスマのある人物を近くに置く等危うい..だから遠くの領地に送る言い訳に出来る。良い事づくめだ。



3.別に 聖女に実戦を積ませるつもりで教会で治療をさせるつもりだったから問題ない


4.金貨20枚など痛くは無い。



懐を痛めずに..最大限の謝罪を伝えられて、尚且つ自分が依怙贔屓などしない王なのだと国民に伝わる。


最大の方法だった。



だが、衛兵が伝えなかった事が..この後大きな問題につながる。



もし、「あと金貨10枚出していれば」この後ある男に付け込まれなかったかも知れない。


もし「金貨10枚出していれば」盗賊ギルドは彼を押さえられたかも知れない。


足りなかったのだ。




俺は盗賊ギルドに呼び出された。


「裁きが終わって、お前への償いの品が届いた..俺から説明する」



~この度は王である儂の娘が迷惑を掛けた~




「そうか、要はこの王女の首と金貨20枚でトムとオルトを殺した事を許せ、そういう事だな」



「ああっ、王女が処刑されたんだ、ここまでの判決は過去には無い、お前の気はおさまらないだろうが..」


「良いよ、この王女の首と金貨でトムとオルトを殺された事を許せ..そういう事なんだろう?」


「良いのか? 受け入れたらもう復讐は無しだ..蹴っても良いんだぜ!」


「それじゃ、ギルマスも困るだろう..受け入れる」


「そうか、済まないな..ここにサインしてくれ」


「解った」


「本当に済まなかった」


「何でギルマスが謝るんだ、こんな良い条件で纏めてくれて」


「おい、どういう事だ!」


「復讐の為の準備金まで用意出来て、復讐を諦めないで良いんだ..」


「サインしただろう! もうそれは出来ない、復讐したいなら契約なんてするんじゃねぇよ!」


「いや、だから、トムとオルトの復讐はしない..(同じだがな)それしか契約書に書かれていない」


「だったら..あっ」


「そうだ、俺の女ミーシャの分が入ってねぇよ! 入っていたらサインなんてしない!」


「...入ってねぇな..」


「つまり、これにサインして、お金を貰っても復讐は辞めなくて良い...そうだろう?」



ミーシャは混じり物だから、衛兵の奴が人数に加えなかったのか..馬鹿な事したもんだ。


ちゃんと加えていたら、止められたのに。


普通は混じり物なんか数には加えねぇよな...だが、此奴が女にしていた事は盗賊ギルドや貧民街の人間なら皆が知っている。


つまり、盗賊ギルド的には正当な復讐だ。



俺は金貨20枚とフローラの首を受取りギルドを後にした。


広場に台を設置してフローラの首を置いた。


その周りに囲いを作り、石を置いた。


この首は俺の物だ、何をしようと勝手だ。



俺は「大罪王女の成れの果て...ご自由に石をお投げ下さい」そう書いた高札を書いた。


このまま腐っていく首..王族や貴族に恨みのある者は石を投げるだろう..


腐って醜い姿をさらせ..


俺は近くでそれを眺めていた。




暫くすると俺は盗賊ギルドに依頼を出しにいった。


ギルマスは何も言わなかった。



そして、その足で貧民街でも最低の場所に「ある者達を探しにいった」




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