第5話 お別れ

「ミーシャが、5年位一緒に居て欲しいって言ってたんだが、常識的に5年って何かあるのか」


「そうか、マモルは知らないんだな..」


「何かあるのか?」


「いや..」


「トムは言いにくいだろう、俺から言うよ..マモル、それが恐らくミーシャの寿命だ」


「そんな訳ないだろう、ミーシャはどう見ても若いだろう」


「マモル、良く聞け..ミーシャは15歳位だあくまで大体だが.」


「ならこれからじゃないか? 病気って事はないだろう?」


「元気だな、だがミーシャは混ざり物だ..」


「それがどうかしたのか?」


「良いか、混ざり物で20歳まで生きた奴は殆ど居ない..」


「...どういう事だ」


「俺は口が悪い..許せ、化け物と人間のハーフなんだ、運が悪ければ生まれてすぐに死ぬことも多い、無事に生きれても短命なんだよ」


「そうか..」


「気にするなって言ってもお前は気にするだろうな..だけどよ、恋人がいた混ざり物なんてミーシャ以外聞いた事も無い」


「だから」


「ミーシャは何時も幸せそうに笑っているだろう!」


「そうだな」


「時間は短いかも知れないが、明日明後日死ぬわけじゃない、盗賊なんて明日死ぬかも知れない仕事だ、毎日を楽しく過ごせば良いんだよ」


「トムにしてもオルトにしても大人だな」


「お前が子供なんだよ」



彼奴、長く生きられないなんて..知らなかったな



俺は悲しい顔しちゃ駄目だ..


彼奴が楽しんで生きれるようにしてやる、それしか出来ないんだから。



だが、最悪の日は..もっと早く訪れた。


楽しい日々は簡単に壊れる事がある..そんな事も俺はまだ気が付いていなかった。





その日ミーシャはトムとオルトと一緒に買い物に出ていた。


生まれて初めてプレゼントを貰った、だからお返しがしたかった。


だが、男が喜びそうな物なんてミーシャには解らない。


それに店によってはミーシャが入るのを嫌がるお店もあった。


だから二人にお願いしてついてきて貰った。


「しかし、銀貨5枚とは随分奮発するんだな」


「私はさぁ..二人と違って遊ばないし、酒も飲まないから余裕があるんだよ..それにせっかく男が出来たんだから、少し位貢ぎたいんだ」



「あのよ、ミーシャ、貢ぐなんて言葉使うと、マモルは真面目だから嫌がるぞ! プレゼント、そう言った方が良いぞ」


「そういう物なんだ..」


「まぁ、彼奴は真面目だからな、そういう所は固いだろうから」



「まぁどっちでも良いんだけど..私は自分のお金でマモルにお返しがしたいんだ」


「解った、解った..それじゃ見に行こうか?」




前から三人の男女が歩いてきた。


服装を誤魔化しているが、どう見ても盗賊やスラムの人間ではない。



「ちょっと、そこの貴方そのペンダントを見せて頂戴」


「これは私んだ見せる筋合いはないよ!」


「それは家から盗まれた物かも知れないのよ...良いから見せなさい!」


「いやだ、これはミーシャの物だ、触らせない」


間にトムが入った。


「お嬢さん、あんたがどんな人か知らないが、これは市場で此奴の彼氏が此奴に買ってやったもんだ、元が盗品でももう関係ない!」



これは当たり前の事だ。


買ってしまった後なら元が盗品であっても関係ない、所有権は新しい人間に移る。


それは常識だ、まして此処は盗品市場だ、もしその商品が欲しいなら新しい持ち主から買い戻すのが当たり前だ。


「売られてしまったら仕方ない」そういう暗黙の了解があった。


誰が聞いてもトムが正しいというだろう..だが..


「語るに落ちたな、それは盗んだ物と言う事だな」


「誰も盗んだなんで言ってない..お前は馬鹿なのか? 最初に市場で買ったと言っただろう?」


「盗品じゃないなら見せられるだろう?」


「だから、もしこれが盗品だとしても買ったらもうおしまいなんだ..」


トムが話をしている最中に、男は剣を抜きトムを斬った。


トムだって「どぶネズミ」という字がある人間だ一般人に斬れるわけが無い。



「貴様、よくもボスを」


オルトは男に斬りかかると見せかけて、連れの女を斬りつけた。


狙いは目..そしてその思惑は的中する。


「きゃあああっあああああああ! 目が私の目が..」


相手が怯んだ隙に走り出そうとする..


「逃げるぞミーシャ..」


「トムが、トムが..」


「良いから、今は逃げるんだ」


「解った」



「何処に逃げようっていうんだ、盗人野郎..よくもフローラを傷つけてくれたな..」


「先に斬りつけてきたのは、そっちでしょう..トムは何も悪い事してないのに..」



「だから、なんだ、フローラは王族だぞ、お前ら貧民とは違うんだ!」



「そう? だから何だ? 王族だからってここでのルールは絶対だ..王様でも守っているんだぜ」


「そうだよ、可笑しいよ」



「な、何を貴様ら..たかが貧民の癖に勇者である俺に逆らうのか? もう良い面倒だ、風よこいつ等を切り裂け」


「いけません、タケル様..」


「それは不味いです..」



痛みを押さえながら、フローラともう一人の女が止めに入ったがタケルは止まらなかった。



男が剣を一振りすると、オルトもミーシャも紙のように切り裂かれた。



「お前、絶対にゆるさねぇ..地獄に行ってもよ..絶対に殺してやんよ...」



「私達は何もしてない..それなのになんで、なんで、(マモル..ごめんね..)」




「不味いです、タケル様、幾らスラムでも魔法を行使してはいけません」


「だが、レイラ、此奴らが..」


「言っている事は向こうの方が正しいです..それに此処は...仕方ありません、ルビーの回収をして逃げましょう」



「この女、ネックレスから手を離さないぞ..くそ、死んでまで..えっ只のガラス玉じゃないか..」



「どうするんですか? せめてこれが「炎のルビー」ならまだしも、これじゃどう考えてもこっちが...ああっもう」





「見てたぞ、お前ら、お前は勇者タケルだな、第二王女のフローラに聖女のレイラ.」


「此処のルールは、そいつらが言ったように絶対だ..どうするんだ..」


「人殺し..何が勇者だ」


「俺たちが殺してやる..」




不味い、話が大きく成れば問題になる。


まして、勇者を嫌っている貴族もいる、下手すればフローラ様の失態になる。


第一王女や第三王女に話がいけば、必ず大事にする。



「待って下さい..罪は認めます..衛兵を呼んで下さい、自首します」


「おい、俺は勇者だぞ..こんなゴミを殺したって問題は無い筈だ..」


(良いから黙って下さい..盗賊ギルドを敵にまわしたら、優秀な斥候が手に入りません、さらに情報も貰えなくなります)



「罪は償います..こちらも王女の両目が潰されました..自首するチャンスを下さい」



そうこうしている間に、衛兵隊が駆けつけて、勇者やフローラ、レイラを連れていった。





俺は何時も処刑が終わり部屋から出るとギルマスが居た。


何かの注意事項か?


だが、何時もと違い顔が強張っている。


「どうかしたんですか? 顔が怖いですよ..」


この位の冗談は言える位の中にはなっていた。


「良いか、良く聞け..どぶネズミが全員殺された」


「冗談..」


「こんな事冗談で言えるか..本当だ..」



急に目の前が暗くなった..何を聞いたのか解らない..


ミーシャとは朝まで抱き合っていた...


トムとオルトは朝帰りして、女の自慢話を聞いた。


それなのに、それなのに..死んだなんて信じられるか!



「嘘だろう」


「本当だ」


「そうか? だったら誰が殺したんだよ、そいつらは必ず殺す、残酷に殺す」


「それが出来ない...相手は勇者達だ」


「勇者だろうが何だろうが盗賊ギルドの縄張りで起きたんだろうが..殺して良い筈だ」


「自首したんだ..衛兵相手に自首した..だからもう俺たちは手が出せない」


「そうかよ..だけど、自首したんなら裁いてはくれるんだろうな..」


「ああ..」


多分、真面に裁かれる訳は無い..だったら俺がやるしかない..




家に帰ってきた。



昨日までは此処にミーシャが居た。


もう少しすればトムとオルトが帰ってくる..


その場所に、布で覆われた死体がある..


多分、盗賊ギルドの仲間が気を利かせてここ迄持ってきてくれたんだろう。


周りには花が沢山置いてあった。


布をはぎ取った...そこには変わり果てた姿のミーシャが居た。


トムも、オルトも居た。


俺は初めてあった時のように川の字で寝た。


暖かくない、冷たいだけだった..


明け方になり寒くて起きた..



俺はいたたまれなくなり外に出た。


気が付くと、初めて過ごしたボロ小屋の前にいた..


俺は、一心不乱に穴を掘った..



「お前何しているんだ? なっターナルか..そうか」


「....」


「ほらよ、穴ほるならこれ使え..」


シャベルをくれた。


「ありがとう..」



「しゃーねぇーな俺も手伝ってやるよ」


「俺も良いかな?」


「私も手伝うわ」


沢山の人が手伝ってくれたから、穴は簡単に掘り上がった。


そして、掘り終わった後に後ろを見ると三人が居た。


「俺たちで連れてきてやったぞ」


「悪いな..」



皆んなが手伝ってくれて埋め終わった。


「なぁ..ターナル」


「ありがとうな、俺泣くわ..わぁぁぁぁぁあぁぁっぁぁあっぁ、うわあああああああああああああっん..あああああああああっ!」


悲しさが止まらなくなった..


泣いても泣いても涙が止まらない。


周りの人間も泣いてくれていた..


全員が居なくなっても俺は涙が止まらなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る