第4話 楽しい日々

処刑人の仕事は大きく2つに分かれていた。


1.残酷に殺す。


 これは裏切者や粛清の意味を込めて楽に殺してはいけない。

 ギルドの敵はこうなるのだという見せしめの為に


2.一瞬で楽に殺す


  これは、自白した者や、やむない事情からギルドを裏切った者の殺し方。

  ある意味、温情のある殺し方だ


この二つを使い分けなくてはならない。



前の処刑人だったジム爺さんから俺はこれらの作業を教わった。


教わったと言ってもたった1日だ。


最も、ジム爺さんが殺した人数はたった2人、それに対して俺は6人。


その理由は「残酷に殺す」は簡単だったが「楽に殺す」がなかなか出来なかった。



「これは慣れんとな、喉を掻っ切ったり、首筋にナイフを当てて一気に切るんじゃ..躊躇えば躊躇う程相手は苦しむ..あとはそのうち慣れる」


それがジム爺さんの言葉だ。


ジム爺さんはもう引退する、そして後釜に俺が入った。


引退した後どうするか聞いたが


「それはマナー違反じゃよ...まぁ良い、爺は殺すのに疲れたから、少しは真面な余生を送らせて貰うだけじゃ」


それだけ言って立ち去った。



ギルドマスタ―から


「これでお前が正式な処刑人だ、まぁ壊れないように頑張んな!」


「ああっ頑張るよ!」


初めて殺した時と違い、話せる位の余裕はあった。


吐きもしなかった。


精神的に少し滅入ったそれだけだ。



「帰ったな、どうだ仕事の方は?」


「初日だから半分、引継ぎみたいな物だったな、まぁ6人位殺してコツが掴めたよ」


「そうか? 何だか疲れてそうだな」


「まぁ、初日だからな」



「俺はトムと一緒に飲みに行ってくる...明日の朝まで帰ってこないからな」


「まぁそう言う訳だ」



何だか気を使わせてしまって悪いな...



「じゃぁな、慣れて来たらお前も一杯やろう」


二人はそそくさと出て行った。




「ミーシャは行かなくて良いのか?」


行く気はないだろうが聞いてみた。



「私は混じり物だから、店には入れないよ? それに男を癒すのも女の仕事だからね...いひひっ、ほら」


そのまま、ミーシャに覆いかぶさった。


慣れは怖い、生ゴミのような臭いも、腐った臭いのするキスももう慣れた。


ただただ、体を重ねた。







処刑人の仕事は無い時もある。


ただ、その場合はギルド待機だ。


ある意味サラリーマンに近い。


いちいち数えるのも面倒な位殺した。


もう、俺の中では何人殺したか解らなくなった。


「お前もようやく、本当の意味で仲間になったな!」


「なんだ、それギルマス...」


「昔は何かこう、キラキラして嫌な奴だったが、今はもう腐ったような目をしている」


「そうか..それは良かった」


「ほう、怒らないんだな!」


「俺の親友も女も全部盗賊だ、仲間になれたようで悪く無い」


「そうか、そうか、流石はターナルのマモルだな..」


「ターナル?」


「お前、ターナルを知らないのか?」


「知らないな..田舎に居たんだ」


「田舎の方がいそうだが、小さな動物だが..結構勇ましくてゴブリンやオークにも噛みついていくんだ」


「凄いな」


「ああっそして、物凄く臭い..どうだマモルにピッタリの字だろう?」


「何と言って良いか解らないな..」


「字があるって言うのは優れた奴の証だぞ..お前達の仲間じゃトムが「どぶネズミ」の字だ。そのままパーティーの名前にしてしまったが..」


「どぶネズミは普通嫌がるだろう?」


「まぁな..だが字があるという事は認められたっていう意味でもあるんだぜ」


「そうか? なら、俺は処刑人 ターナルとでも名乗れば良いのか?」


「名乗れるぜ」






処刑人の収入が良かったのと、足手まといの俺が盗みから外れる事で「どぶねずみ」の懐は随分温かくなった。


といっても木の掘っ立て小屋から、レンガ作りのボロ屋に引っ越しただけだ。


レンガ作りのスラム街の部屋..風が吹き込まないし、部屋数も4つあるし、内井戸もある。


まぁ、それだけが取り柄と言えた。


一部屋は台所件 全員の部屋、 一部屋は俺とミーシャの部屋、一部屋はトムとオルトの部屋だ。


他一つは倉庫だ。



少し、金回りが良くなったせいか、トムとオルトは夜遊びするようになった。



「好きだな、トムもオルトも」


「そりゃあな、禁欲していたからな」


「禁欲?」


「ミーシャの臭いが俺たちにもついてたせいか飲み屋は許してくれたが娼館は出入り禁止だったんだ」


「そんなに臭いかな?」


「部屋が別れてみたら..よくわかった」


「ほう」


「それで、部屋がわかれた事を説明してようやく解禁になったから..悪いな」


「その分の埋め合わせはする」


「まぁ良いよ..楽しんできてくれ」




そして、俺はと言うと..盗品広場に来ている。


盗品広場と言っても、普通の蚤の市に近い。


俺の目当ては..貴金属、と言っても買えるのは安物だが。



「よう! 処刑人ターナルじゃねぇか! 何か探しものか?」


「ああっ、赤い色のネックレスかブローチ無いかな?」


「ああっプレゼントだな..いいぜ、お前なら安くしてやる、これでどうだ?」


「へぇー...良いなこのペンダント、うんいい..幾らだ」


「銀貨1枚で良いぜ」


「安いな」


「馬鹿言うな、これはギルドの仲間相場だ、そして、俺はお前を気に入っている他の奴なら銀貨8枚は貰うぞ」


「そうか、恩にきる」


(仲間か良いな..)



「おばちゃん、串焼き6本とエール2杯をくれ」


「あいよ、なんだターナルか..相変わらず臭いね..ほら2本サービスで8本あげるよ..あとエール2杯だね」


「ありがとう、おばちゃん」



ミーシャは混じり物だから、外食をしたがらない、「ミーシャは行けない」と言っているが盗賊ギルドに入っているから行こうと思えば行ける。


だけど、それが迷惑になると解かっているからミーシャは必要最低限しか人とは関わらない。


俺たちを除いて。


だから、俺は食べ物を持ち帰る事にした。


「ただいま、ミーシャ!」



「お帰り、マモル..少しは仕事に慣れたか?」


「ああっまあな..ギルドマスターからも腐った目をしてきたなと言われる位にな?」


「そうか..でも慣れたらもう私は要らなくなるね..」


「そんな事無いぞ? お前は俺の女だろう?」


「マモルは良いのか? 混じり物だよ私」


確かに異形と言えばそうなのかも知れないが..臭い以外は、コスプレしているみたいで可愛く見える。



「俺は凄い田舎からきたからな、混じり物自体知らなかった..俺には普通の女の子としか思えない」


「そうか、マモルにとっては私は女の子で良いんだね」


「ああっしかも..トムにもオルトにも、もう俺の女と言う事になっているしな」


「いひひっ、そうかミーシャはマモルの女なんだね..そうか、そうか..うん女か!」


「そうだ、これ買ってきたんだ」


「なにこれ? ペンダント! くれるの?」


「ああっ..ミーシャに似合いそうだからな」


「そうか、ありがとうマモル..えへへ似合うかな」


「ああっ凄く似あっているよ」


「そうか似合っているんだ..」


「どうした?」


「何でもないよ..あのさぁマモルは10年位したら居なくなるんだよね?」


「悪いな..これは多分変えられないと思う」


「そうか...だったら5年で良いんだ、ミーシャの男のままでいてくれないかな? 駄目か」


「そんな期間で良いのか? 俺は10年一緒に居るつもりなんだが」


「そうか..あはははは10年..10年ね..うんありがとう..」


「何だ? まぁ良いや..串焼きとエールも買ってきたから食って飲もうぜ!」


「うん、今日はトムとオルトは帰ってくるのかな?」


「また午前様らしいぞ」


「だったら、朝までやれるよね? 今日はミーシャ頑張っちゃうよ」


「あははは..お手柔らかに」



やっている事は人殺しだ。


仲間は盗人..


恋人は臭い..


だけど、毎日が楽しい、これは本当の仲間が居るからだと思う。


こんな楽しい日々がずうっと続けば良い..俺はそう思った。


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