第2話 チェリー卒業

「おはよう、マモル昨日は眠れたか?」


「あまり眠れなかったな..」


「そうか?..まぁ直ぐにどこでも眠れるようになるって!」


「そうか!」


「ほら、朝飯だ食いな」


「果物か..美味しそうだな」


「ああっ、お前が腹を空かせていそうだから、盗って来たんだぞ、食え」


「盗んだのか?」


「当たり前だろう? 金なんてないんだからな! 今日は特別だ明日からは自分で盗るんだ」


「解った..しかし二人はまだ寝ているんだな?」


「当たり前じゃないか? 盗賊予備軍なんだからな..昼間から働く訳ないだろう?」


「そりゃそうか!」


「マモル、お前はもう少し常識を覚えた方が良いぞ」



この世界の事は何も解らない、常識位は身につけないとヤバイな。


「確かに俺は常識知らずだ..おいおいで良いから教えてくれ」


「解った、俺はボスだからな任せろ..少し二人が起きるまで話でもするか?」


「ああっ」



「マモルは人を殺した事はあるか?」


「ない」


「そうか? だからあんな事言っていたんだな?」


「何の事だ?」


「強くなりたい...そう言っていただろう?」


「言っていたな...」


「俺たち盗賊は強くなりたいなんて考えない..なぁ強くなってどうするんだ?」


「守りたい人間が居るし、復讐したい奴がいる」


「それで、何で強くなる必要があるんだ?」


「戦ったら負けるからだろう?」


「本当にガキなんだな! 戦う必要は無いだろうが、食べ物に毒を盛れば良い..寝ている間に油を掛けて火をつければ良い? 睡眠薬を飲まして寝ている間にナイフを胸に突き立てる..それだけで充分だろう? それとも正々堂々決闘して勝たなくちゃいけない理由はあるのか?」


「ない」


「もしかしてお前はチェリーか?」


「女と経験があるかどうか?話す必要はあるのか」


「確かにそれもチェリーと言うらしいが違う! 人を殺したかどうかだ?」


「無いな、平和な村に居たから」


異世界からきたとは言えないからこんなもんだろう。


「そうか? ならチェリーを卒業したら、少しは自信が付くかも知れないな」


「なぁ、皆んなは.そのチェリーじゃないのか?」


「ああ、俺たちは全員卒業している」


「ミーシャも?」


「当たり前だ」



そうか、人を殺す、そんな経験を積めば、確かに強くなれるな。



「そうか..俺はそういう経験をしなくちゃいけないんだな..」


「そうだ、ちなみに俺もオルトも女なら経験はあるぜ? マモルは無いのか?」


たしかに俺と同い年位だ、こういう世界なら当たり前か..


「無いな..女には縁のない生活を送っていたからな..」


「そうか、マモルはミーシャと違うから金でも手に入ったら娼婦でも買うと良い」


「ミーシャ? ミーシャはそういった経験は何で出来ないんだ?」


「お前、混じり物見るのは、はじめてなのか? マモルから見てミーシャはどう見えるんだ?」


「少し臭いけど、可愛い女の子に見えるが違うのか?」


「あのな...ミーシャが本当に可愛い女の子なら、娼館で働くはずだろう? 盗賊よりはましだぞ」


「娼婦にならない、意地とか誇りがあるんじゃないのか?」


「違うぞ..娼館でも断られる、貧民や乞食でもミーシャを抱こうなんて思わない、奴隷にすらしたくない..それが混じり物なんだ」


「混じり物って何だ?」


「そんな事も知らないのか?化け物と人間との間の子供の事だ..ミーシャの父親は解らない..だがあの体臭は間違いなくそうだ、普通は金貨を詰まれても抱かない」


「確かに臭いけど可愛いだろう?」


「お前、責任取れないなら、そういう事余りいうなよ?」


「何でだ?」


「あいつ、本気になるからな!」


「解った」


あの匂いは混じり物だからか? 臭いけど凄く可愛いんだが..まぁ俺は10年で居なくなるから責任はとれないな。



「もう起きていたんだ? マモル、おはよう!にひひっ 昨夜はお愉しみでしたね」


「女の子なのに...そういう事言うんだな」


「男の子に抱き着かれるなんて久しぶりだからね..からかってみました」



普通に可愛いよな..



「馬鹿か、マモルはノーマルだよな..おはよう..今日からは俺の方でも良いぞ..」


オルトは話をぼかしているが、成程、よく見るとミーシャは普通の人間とは違う所がある。


八重歯に見えるが良く見れば牙だ、目の色は金色で耳も少し尖っている。


明るい所で見ると肌も少し青みがかっている。


確かに人間じゃ無いんだろうな?..だが俺から見たら、ハロウィンで仮装している女の子にしか見えない。



「いや、男より女の方が良いからミーシャで良いや」



「えっ、私で良いの?..へぇー変わっているねマモルは..だったらサービス..」


「女の子はそんなこと言わない」


僕はミーシャの頭を叩いた..


「酷い、ボス、オルト、新入りがミーシャの頭を叩いた」


だが、本当に文句を言っているのではなく笑っているように見えた。



「マモル..お前..」


「気をつけろマモル」



二人して何でそんな目で見るんだ..



「にひひ、マモル、ミーシャは心が広いから怒らないよ! 優しいからね」



「マモル、後で話がある..」


「俺もな..」








「それじゃ、盗賊ギルドへ行くぞ」


4人で盗賊ギルドにむかう、近くになるにつれ更にガラが悪くなっていく。


さっき迄が浮浪者のたまり場だとすれば此処は犯罪者のたまり場、そんな気がする。


「あまりキョロキョロすんなよみっとも無い」


「慣れて無くて」


「目は合わせるなよ..それが一番トラブルに会わないコツだ」


「そうだよ..下を向いて歩いてれば今日は良いよ..ミーシャの足を見て歩けば問題無いからね」



《どぶネズミが来たな..》


《あいつ、どぶネズミの仲間になるのか?》


《真面に食えて無いだろう、あのパーティー》




「おや? どぶねずみ達じゃないか! 今日はなんだ?」


「登録と、パーティーメンバーの申請だ」



「そうか? お前文字は書けるか?」


「試しに書いてみても良いか..かなり田舎から来たんだ」


「そうか?」



翻訳の加護のせいか、文字も読めるし書ける。


「へぇー大したもんだ..文字も俺より綺麗だな」


「それなら良かった..これで良いんですか?」


「ああ、大丈夫だ」



「凄いな、マモルは文字が読めるし書けるんだな」


「まぁね」


「やっぱりお前良い所の出なんだな..」


「凄いね、マモル」




かいてある内容はこうだ。



1.ギルドからの依頼を受け、達成するとお金が貰える。


2.失敗して死んでもギルドは責任はとらない


3.仲間同士基本争わない


4.大きな仕事を受けた場合は報酬の3割をギルドに出す事で保証が受けられる


5.盗品の買取も行っている


6.ギルドに上納金を月に銅貨2枚払う事。



そんな感じだ、やっぱり冒険者とは違う。



ちなみに「どぶネズミ」はトムのパーティーの名前だった。



「マモルはこれでギルドの仲間だ、歓迎するぜ」




「これで正式な仲間だパーティへようこそ..マモル」


「頑張れよ新入り」


「いっひひひ、これで本当の仲間だねマモル..頑張ろうね」




「マモル、これからは普通にしてて良いぜ、もうだれもお前を襲ってこないからな!」


「どうしてだ? ボス」


「ボス?」


「正式にパーティに入ったんだから、けじめだ」


「そうか? 簡単に言うともう、お前は盗賊ギルドに入ったから、仲間なんださっきと違うという事だよ」


「そういう物なのか?」


「仲間には優しいのが此処だからな」





盗賊ギルドとは言うが、大きな仕事は無い。


いや、実際にはあるが、塩漬けになっているか、一部の上級者が受けるだけだ。


殆どの者は小さな犯罪をしながら生きている。


かっぱらいに恐喝等だ、盗賊ギルドに入っていれば仲間が邪魔する事は無い..気まぐれで助けてくれる事もある。


つまり、助け合いの組織としての意味の方が大きい。



そして、俺は主に「盗み」をして生活している。


そんな、大した事はしてない、食い物や日常品を盗みながら、僅かな上納金を納めて生きている。


「どぶネズミ」とは良く言った物だ..大きな仕事をしないでこうやって生活している..



「マモルは強くなりたいんだよな..今日依頼を受けておいた..後でギルドへ顔を出してくれ」


「解った」


結局俺は、周りに舐められないように俺は無口キャラになった。



そしてギルドに顔をだした。


「よく来たな、マモル、今日の仕事は殺しだ」


「俺、経験が無いんですが..」


「聞いているよ、トムからな..だからこれはお前がチェリーを卒業する為に頼まれていた事だ..既に捕獲してある人間を殺すだけだ」


「それは」


「縛ってある人間を殺す事..だれでも出来る..だから銅貨5枚だけの仕事だ」


「解った」


俺はその日、三人の人間を殺した。


20代の男女と子供の三人..縛ってあり猿轡しているから何も喋らない...ただ、憎しみを込めた目の2人と悲しい目の1人。


ただただめった刺しした。


血が飛び散り動かなくなるまで刺して刺して刺して..


返り血を浴びて、吐いて、吐いて..目の前の人間がグチャグチャになって..


流石にもう死んでいるだろう...



「マモル..終わったか? 何だこれ..うぷっ何て殺し方しやがる..まぁ良い確かめる必要もなく死んでいるな」



「....」


「ほらよ、1人銅貨5枚で3人で15枚、銀貨1枚に銅貨5枚だ」


「...」


「初めてでこれじゃ無理もないか..とっと帰りな」


俺はどうやって帰ったか記憶にない..気が付くと「どぶネズミ」の小屋に帰ってきていた。


「よう、マモル大丈夫か?」


「...」


「初めて人を殺したんだ、普通はこんなもんだな、俺もオルトも..同じ感じだったな」


「いひひっミーシャは違ったよ」



「...娼館に行く気力や酒を飲みに行く気力もないか..仕方ないなミーシャ今日はそのまま一緒にねてやれよ」


「私じゃ..駄目だろう..うん」



「いや、マモルはどうやら随分遠くから来たみたいだ、マモルは混じり物も知らない」


「本当に?..そうか可笑しいと思ったんだよね..私を女の子扱いするからさぁ」


「おい..幾らなんでも、こんな時に、したりするなよな..ミーシャ」


「うん、自分からはしないよ? だけどマモルから求めてきたら..良いんだよね?」



「おい..まぁ良いか?」


「おい、良いのか?マモルが可哀想だろうが!」


「オルト..今日は飲みに行こうか?」




「少しは落ち着いたのかな?」


ミーシャの顔が物凄く近い..


しかも、月明りで見たミーシャは服を着てなかった、そして俺はミーシャの胸に顔を埋めて泣いていたみたいだ。


「ごめん、ミーシャ」


「良いよ、マモル..私みたいな混じり物で役に立てるならさぁ」


「何だか恥ずかしいな..」


「初めて、人を殺すと皆んなそうなるよ...だから殆どの奴は娼館に行くか、仲間と一晩中酒を飲むんだ...普通の事だよ」


「ミーシャはどうだった?」


「私は混じり物だからさぁ..半分魔物だからかな..何とも思わなかったよ..あはは、余り参考にならなくてごめん」


「ミーシャは魔物じゃないよ...人間だよ」


「世間はそうは思ってくれないけどね」


「だって、凄く優しいから」


「そう思ってくれるんだね..なら私を好きにしても良いよ..」


「あの、それは...責任取れないから」


「大丈夫だよ...混じり物の私は..あははっ人間ですら無いんだ、半分魔物だからさ、だから妊娠もしないから責任なんて無いよ」


「あの、ミーシャはそれで良いのか?」


「うん、私何か..あははっ何でもないよ」


結局、その日俺は流されて、そのままファーストキスからもう一つのチェリーも卒業した。


初めてのキスの味は生ごみのような味で、初めての経験はゴミ捨て場のような匂いに包まれていた。


その分を差し引いてもミーシャは凄く可愛いと俺は思った。




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