8.14章 戦艦対戦艦

 空母の戦いが行われている頃、比叡と金剛が第四水雷戦隊と共に全速で西方への航行していた。三航戦に付き従っていた4隻の最上型重巡洋艦も同様に西方に後続してゆく。


 三川中将が比叡の艦橋で先任参謀の有田中佐に話しかけていた。

「米戦艦は恐らくサウスダコタ級だろう。つまり、敵は40センチ砲で圧倒的に有利だ。速度は我々が上まわるが、慎重に戦わないと痛い目に合うだろう。インド洋では我々は、砲撃戦で敵戦艦を沈めた唯一の我が軍の戦艦となった。今回も勝つためには、砲戦と雷撃をうまく組み合わせる必要がある」


 有田中佐が答える。

「艦偵からの報告によると、米軍の戦艦は既に被害を受けて速度が20ノット以下に落ちているようです。速度は圧倒的に我々が有利です。敵艦隊の頭を押さえてT字を描いて砲戦に持ち込みます。その間に水雷戦隊で雷撃をしかける作戦で行きます」


 三川中将は良かろうと、小声で言ってうなずいた。


 ……


「第三戦隊から米軍の戦艦部隊の追撃を要求してきました。三川さんは敵戦艦を夜戦で沈めるつもりです」


 黒島参謀が山本長官に報告に来た。

「敵は新型戦艦だろう。比叡と金剛だけで大丈夫なのか?」


「3隻の米戦艦は、空母部隊の攻撃により手負いですが、いずれも40センチ砲が9門です。しかも竣工してからまだ時間の経過していない新鋭戦艦で防御も堅いでしょう。主砲で撃ち合えば、比叡と金剛では手に余る可能性が大です」


「ならば、我が軍も40センチ以上の戦艦で対抗しようじゃないか。今から第一戦隊が米戦艦攻撃に向かう」


 慌てて、渡辺参謀と黒島参謀が止める。

「長官自らが戦闘に参加する必要はありません。我が軍にも多数の戦艦があります。それを応援に向かわせれば充分です。長官を危険にさらすわけにはいきません」


 山本長官は言うことを聞かない。

「敵は新鋭戦艦だと君達は言ったではないか。ここは、我がが軍の新型戦艦がどれ程優れているのか試してみようじゃないか。それに、日ごろ諸君はこの艦を不沈艦だと言っているな。それが真実ならば、決して危険などないはずだ。この艦が出て行って勝てる戦いならば、そうしようじゃないか」


 山本長官の決断により、第一戦隊の大和、武蔵、長門、陸奥が米艦隊に向けて全速で南下をすることになった。


 ……


 暗くなってから、全力で西方に進んでいた比叡の電探に反応があった。金剛の電探にも同じく水上艦の反応が出た。直ぐに、三川中将に報告が上がる。有田中佐がメモを見ながら三川中将の報告に来た。

「電探が水上艦隊を探知しました。南西の方向に50浬(93km)です。反応の大きさから複数の艦による艦隊です。敵艦隊の位置を山本長官に伝えます。こちらに向かっているようです」


「了解だ。我々の艦隊は少し速度を落として、南西の方向に向けて進んでくれ」


 有田中佐が意外な顔をする。

「接敵する時刻を後ろにずらすのですか?」


「ああ、第一戦隊がやってくるからな。但し、あまり長くは待たないぞ、我々が先制して攻撃したい」


 三川中将が艦橋の奥にゆくと、既に状況表示盤には、敵艦隊の駒が張り付けられていた。艦長の西田大佐が話しかけてくる。

「敵艦隊に向けて我々の進路を変えました。艦隊の速度は25ノットです。後方から接近してゆく形になります」


 三川中将が首を縦に振る。

「うむ。それでよい。敵艦隊のやや北側を追い抜いた後に、取舵で敵艦隊の頭を押さえる。それと零観を上げてくれ。戦いが始まったら照明弾を落としてもらいたい」


 ……


 ワシントンでも日本艦隊を発見していた。艦隊の最後尾で警戒していた重巡ルイスビルがレーダーで大型艦の接近を探知したのだ。直ぐにスプルーアンス少将に報告が上がる。

「やはり、日本軍はそう簡単には見逃してくれないようだ。敵の方が優速だ。速度を生かして、我々の頭を抑えにかかってくるだろう。ベンソン大佐、取舵だ。敵艦隊と同航戦に持ち込みたい。敵艦隊との距離が20マイル(32km)に近づいたら、星弾を打ち上げてくれ。この戦艦のレーダーは破壊されたからな」


 しばらくして、ルイスビルが接近してくる日本艦隊の上空に向けて星弾を打ち上げた。日本艦隊の上空をゆらゆら揺れながら落ちてゆく5発の星弾が海上を照らしだす。ほぼ同時に比叡が発艦させた零式観測機が米艦隊を照らし出すように次々と吊光弾を落とし始めた。ワシントンとサウスダコタ、インディアナは、北東方向から接近する日本艦隊に対して、南西方向に転舵して、平行して航行する陣形に持ち込もうとしていた。


 日本艦隊は左舷前方に米艦隊を見ながら、更に航路を南に変えて頭を押さえながら接近してゆこうとする。三川中将は、インド洋の戦いから、25,000m以上の距離では戦艦でも主砲の命中率がよくないと学んでいた。電探を利用した射撃でも、長時間かけて夾叉もできなかったのだ。


 今までサンガモンとスワニーの護衛をしてきた重巡ウィチタと軽巡ホノルルが、6隻の駆逐艦を従えて、米艦隊の後方から進み出て日本艦隊の間に割り込んできた。更に、重巡ルイスビルとオーガスタも3隻の駆逐艦を従えて北東側の日本艦隊に接近してくる。ほぼ同時に日本艦隊からも第四水雷戦隊の由良と8隻の駆逐艦が米艦隊に向けて進んできた。米軍の重巡洋艦の接近を見て、熊野、鈴谷、三隈、最上が縦列になって南側に航路を変えて出てきた。


 雷撃を目的とした4隊はそれぞれ33ノットを超える速度で航行しながら、お互いを妨害しようとの意図で接近していた。主砲の射程におさめたウィチタの8インチ(20.3cm)砲とホノルルの6インチ(15.2cm)砲が四水戦の由良に向けて射撃を始める。続いて、ルイスビルとオーガスタも8インチ砲の射撃を開始する。日本側も、第七戦隊の熊野、鈴谷、三隈、最上が20センチ砲の射撃を開始した。巡洋艦の主砲射撃により、夜戦の幕が上がった。


 由良の艦橋では西村少将に瀬戸参謀が相談していた。

「相手の重巡から撃たれっぱなしです。反撃しますか?」


「無論、反撃するがこの距離では14センチ砲の我々は不利だ。取舵でもっと近づいてくれ。その後に主砲射撃、続いて隠密雷撃だ。まずは、敵の水雷戦隊を雷撃する。その後は魚雷の次発装填を行って、もう一度、戻って雷撃だ」


 熊野の艦上でも参謀の鈴木中佐が栗田少将に進言していた。

「四水戦を支援するためには、少し距離が遠すぎます。もう少し南に寄せましょう。そうすれば、敵戦艦への雷撃の機会も生まれてきます」


 栗田少将は躊躇した。

「いや、敵の第二陣の重巡の一隊がこちらに向かってきている。2隻の重巡を引き付けるためには航路はこのままだ」


 鈴木中佐は、そんな戦い方は消極的過ぎると思ったが反論しなかった。


 四水戦は航行する方向を若干左に変更して、ウィチタの一群との距離を縮めてゆく。由良が射撃を開始すると後続の駆逐艦も撃ち始める。米軍の駆逐艦も一斉に射撃を開始した。既に由良の周囲にはウィチタとホノルルの8インチと6インチ砲弾が至近弾となって落ち始めた。ついに由良の艦尾近くに1発が命中した。艦後方のマストが吹き飛ばされ、艦尾側の2門の14センチ砲が破壊されて沈黙した。搭載していた水上機も破壊されたが、幸いにも火災は発生しなかった。続いて、後続の五月雨の艦首にも5インチ砲弾が命中する。艦首が破壊されて急減速しながら右舷に回頭しだした。後続の春雨は五月雨の急回頭が被弾によるものと判断して、先頭の由良に続く航路を選択した。ウィチタにも駆逐艦の砲弾が1発命中するが、装甲板で遮られて甲板上で爆発した。後続のホノルルの船体後部にも1発が命中して、後部砲塔に損害を与えた。


 一方、第七戦隊の巡洋艦は、一気に米艦隊に接近することもなく、中途半端な位置でルイスビルとオーガスタの戦隊と砲撃を繰り返していた。それでも徐々に距離が詰まってくると、オーガスタに熊野の20センチ砲の1弾が命中して火災が発生した。ほぼ同時に鈴谷の後部にも1発が命中する。しかし、次第に砲数の多い第七戦隊が圧倒してゆく。ルイスビルに1発が命中し、オーガスタにも1発が命中すると、米艦側の火力が目に見えて衰えてきた。


 その頃、四水戦はウィチタが率いている1隊の雷撃距離にまで接近していた。西村少将が大声で叫ぶ。

「雷撃開始!」


 由良が魚雷を発射すると、後続の駆逐艦も魚雷を次々に発射した。60本以上の酸素魚雷がウィチタ、ホノルルと駆逐艦に向けて進んでいった。由良は右舷に舵をとって、砲撃を続けながら距離を離していった。一度砲撃を避けて、魚雷の次発装填をしようとしたのだ。


 ウィチタに座乗した護衛戦隊司令のアーリー大佐は、この日本艦隊の動きを後方の戦艦部隊を雷撃するための航路の変更と解釈した。反射的に日本艦隊に向けて航路の変更を命じてしまった。後方のルイスビルとオーガスタもこれにならって航路を変更した。

「日本艦隊に近づけろ。面舵だ」


 ウィチタと駆逐艦隊が航路を変更したことにより、魚雷の命中率が変化した。四水戦の九三式魚雷は、米艦隊が直進する前提で、見込み位置に向けて発射された。米艦隊がしかし魚雷が向かってくる方向へと航路を変更したことにより、魚雷の航路と交差する時間が早まった。日本軍が想定した位置まで前進するよりも早く、魚雷の進んでくる航路とウィチタとホノルル、駆逐艦隊の航路が交差することとなった。結果的に駆逐艦隊の後続艦は魚雷が狙った範囲から外れることとなった。ウィチタとホノルルとフェルプス、モナハンに酸素魚雷がそれぞれ1本命中した。61センチ魚雷の爆発は、駆逐艦にとって限度を超えた破壊力を発揮した。フェルプスとモナハンは右舷にどんどん傾いてゆく。ホノルルは被雷により右舷に傾いたために注水により傾斜を修正しようとしたが、魚雷の浸水が大きく回復できなかった。速度も15ノット以下に落ちてゆく。ウィチタも魚雷の浸水により右舷に傾斜している。加えて、機関の損傷により速度が15ノット以下に低下していた。


 ウィチタの戦隊に続行していたルイスビルとオーガスタは、無傷の駆逐艦と合流して6隻の駆逐艦を率いて北方へと出てきた。第七戦隊の巡洋艦は、20センチ砲を米巡洋艦に向けて射撃しながら、米艦隊に向かっていった。


 この時、海上で大きな光が発生した。日本の戦艦を射程におさめたワシントンとサウスダコタ、インディアナが先に発砲を開始したのだ。40センチ砲弾が比叡と金剛の西側に落ちてきて巨大な水柱を吹き上げた。しかし、全て遠弾になって挟叉も発生しない。


 三川中将はこの時、25,000mからもっと距離を詰めようとしていた。40センチ砲に遠距離で撃たれると、比叡と金剛の装甲板は間違いなく貫通されるだろう。一方、40センチ砲の戦艦であれば、同口径の砲弾に対して対応防御がされているはずだ。つまり比叡や金剛の主砲では、通常の戦闘距離では敵戦艦の装甲は撃破できないことになる。それで、砲戦距離を詰めてゆけば、命中時の砲弾の威力が増して装甲板を貫通できる可能性が増す。従って、三川中将は、撃たれればこちらにも被害が発生するが、命中させれば相手にも被害を与えられる距離まで接近する必要があると考えていた。戦艦部隊の指揮をしていたリー少将はもちろん、そこまで接近させれば40センチ砲の優位性が崩れることがわかっていたので、砲戦距離を25,000m以上に開こうと考えていた。しかし、速度で有利なのは日本艦隊だった。比叡と金剛は速度を生かして近づいてくる。ワシントンとサウスダコタ、インディアナは主砲の威力を生かして優位な距離で砲弾を命中させようと砲撃を先に砲戦を開始したのだ。


 比叡と金剛は砲撃をされながらも、距離を詰めるために米艦隊に向けて左に回頭した。速度は既に全速の30ノットだ。当然、回頭中には命中を期待できないので砲撃は行わない。3隻の米戦艦からの砲撃はかなり遠弾となって、水柱を上げた。比叡は斜め左前方に米戦艦が見えるところまで回頭して、直進に移った。


 比叡艦上の状況表示板上の駒が担当士官により移動させられて、せわしなく位置を変えてゆく。進路を固定すると同時に、三川中将が叫んだ。

「砲撃開始」


 艦長の西田大佐がほとんど同時に叫ぶ。

「テーッ」


 既に、比叡の砲術長は必要な射撃諸元の入力を終わらせていた。叫んだ声がまだ聞こえているうちに主砲が発砲した。まずはセオリー通り交互撃ちだ。直後に旗艦の発砲を見て金剛も射撃した。比叡が一番艦のワシントンを狙い、金剛が二番艦のサウスダコタを狙った。米戦艦もワシントンが比叡を狙い、サウスダコタとインディアナが金剛を狙っていた。日本艦隊の旋回が終わったことと、距離が近づいたことで、すぐに射撃は正確になっていった。比叡は交互撃ちを6回繰り返して挟叉弾を得ると、8門同時の斉射に移行した。一方、インディアナは爆撃により後部の第3砲塔が破壊されていて、第1砲塔と第2砲塔だけで射撃をしていた。しかもワシントンとサウスダコタにはレーダーが日本機の攻撃により破壊されたというハンディがあった。それでも米戦艦からも第6射の交互撃ちで挟叉弾がでた。


 ワシントンの第7射で、1発がついに比叡の船体後部に命中した。第3砲塔と第4砲塔の間に命中した40センチ弾は水上機カタパルトを吹き飛ばして、上甲板の76mm装甲板を簡単に貫通してその下部の隔壁を次々と破って機関室の19mm装甲の天井をも撃ちぬいて爆発した。このため、比叡の機関出力が半減してしまう。徐々に速度を落としながらも、比叡は7回目の射撃で8発の弾丸を斉射した。


 比叡の射撃は、ワシントンに2発の36センチ徹甲弾を命中させた。1発は第2砲塔の砲塔前面部に命中したが40センチを超える装甲の防盾を貫通できず斜め上方にはじかれた。もう1発は後部艦橋付近に命中して、甲板上の内火艇をバラバラにして1.45インチ(37mm)の装甲板を破って、船体内に突入した。強度甲板の3.6インチ(91mm)の装甲板を斜めに貫通したが、その下の36mm装甲板には亀裂を入れたが完全に貫通することはできなかった。下甲板で爆発した主砲弾により後部艦橋の電源が停止したが、発生したスプリンターを機関室天井の16mm装甲板が防いだ。


 一方、ワシントンは、8回目の射撃で1弾を比叡の船体中央部の舷側装甲に命中させて、199mmの装甲板を貫通してその後方の19mm傾斜装甲板をも貫通してボイラー室で爆発した。比叡の機関出力が更に減少して15ノットに速度が落ちてゆく。


 一方、2隻の40センチ砲戦艦と撃ち合った金剛は劣勢の中で戦っていた。比叡のように訓練戦艦の時代がない金剛は、昔から射撃訓練を繰り返してきた。そのため、第4射で米戦艦を挟叉することができた。第5射で1発をサウスダコタの第4砲塔に命中させ、更に第6射で1弾を舷側に命中させた。しかし、サウスダコタの艦上構造物に対して被害を与えるが、装甲板に遮られて致命傷を与えられない。一方、サウスダコタは第6射の射撃でいきなり金剛に対して1発の命中弾を得た。


 サウスダコタからの命中弾で船体中央の舷側部への命中弾が金剛の船体内で爆発して、缶室にも浸水して速度が20ノットへと低下した。2基の主砲塔で射撃するインディアナは、8射目で挟叉弾を得た。インディアナの第9射の射撃は1弾が第4砲塔基部に命中してバーベットを破壊して射撃不可能となった。


 第四水雷戦隊の由良に率いられた7隻の駆逐艦が魚雷の次発装填を行って、米戦艦へと突入してきた。この時、ルイスビルとオーガスが4隻の駆逐艦を率いて、四水戦の進路を妨害しようと前進してきた。しかし、それを遮るために、熊野を先頭とした4隻の巡洋艦が、20センチ砲の射撃をしながら全速で接近してきた。米艦隊も8インチ砲と5インチ砲により、猛烈な反撃を始める。それでも、20センチ砲の多い日本艦隊が有利となる。既に被弾していたルイスビルとオーガスタに更に砲弾が命中する。


 巡洋艦の主砲に狙われていない間に四水戦は、戦艦への雷撃はあきらめてルイスビルが率いている戦隊に向けて雷撃した。ルイスビルとオーガスタにそれぞれ1本の魚雷が命中した。20センチ砲弾の命中により既に浸水が始まっていたルイスビルは徐々に右舷に傾いていった。オーガスタは残っていた駆逐艦を率いて、戦艦部隊の方向に引き上げていった。


 三川中将が参謀の有田中佐に話しかけた。

「敵艦隊に被害は与えたが、どうやら我々もここまでかも知れんな」


 有田中佐が答えようとしたとき、ワシントンの周囲に今までとは違う大きな水柱が上がった。比叡の36センチ砲とは段違いに大きく、ワシントン自身の40センチ砲にも優る大きな水柱だ。通信士官が司令のところに駆けてきた。

「連合艦隊旗艦です。第一戦隊の大和と武蔵がやってきました」


 三川中将が通信士官の持っていたメモをもぎ取るように奪った。

「山本長官がやっと来てくれたな。退避はやめだ。攻撃を続けるぞ」


 ワシントンを狙った大和の砲撃は早くも第3射で挟叉した。大和の主砲にとって25,000mは近距離だ。砲術長は光学照準で方位を定めてから、電探で測定した距離のデータと組み合わせて射撃諸元としていた。大和の砲術長は、夜戦では、互いに短所を補う組合せが有効だと、技研の電探技師からあらかじめ聞いていたので、少しばかり工夫をしてみようと考えていたのだ。


 比叡を狙っていたワシントンは、狙いを大和に移したが、新たな目標に照準を定める前に大和の砲弾が連続して着弾した。第4射の大和の斉射は9発の砲弾がワシントンを包み込むように着弾した。ワシントンの右舷に至近弾となった1発は、水中で被帽が外れると海中をワシントンの艦橋下の船腹に向かって直進した。舷側装甲の下端の150mm装甲を破って船体内に突入した46センチ砲弾は垂直隔壁を次々と破って缶室で爆発した。この1発でワシントンの半数の機関が停止した。船底にも爆発により亀裂が生じる。更に1弾が第2砲塔の天井に命中した。46センチ砲弾が7インチ(178mm)の天蓋をたたき割って砲塔内部に突入して砲塔基部で爆発した。直後に、第2砲塔内部の弾薬が一斉に爆発した。砲塔が十数メートルも吹きとんで、開口部から巨大な炎が吹きあがった。


 大和の第5射は、ワシントンの船体の前半部と中央部に2発を命中させた。第1砲塔下あたりの舷側から突入した砲弾は船底で爆発して大きな亀裂を発生させた。中央部への命中弾は機関室と発電機室を破壊して、まだ作動していた機関と電源を全て停止させた。やがて、ワシントンは浸水により艦の前半部が傾き始めた。艦橋の外壁も爆発により被害を受けていたが、ワシントンに搭乗していたスプルーアンス司令部の要員が退避する間は浮いていた。しかし、20分も波間に漂っていると徐々に傾きが増して急速に沈んでいった。


 同じ頃サウスダコタは、武蔵から砲撃を受けていた。武蔵の第6射で、交互射撃の1発が命中した。煙突基部に命中した1弾が、上部甲板と強度甲板の2枚の水平装甲を貫通して缶室で爆発した。舷側の隔壁にも亀裂が発生した。続けて武蔵の第7射で艦首よりの舷側に2発が命中して船体内で爆発して大量の浸水が始まる。既に速度が落ちていたサウスダコタは取舵で退避を始めた。しかし、方向転換する前に武蔵の第8射の2発が命中した。第1砲塔が破壊されて射撃不可能となった。右舷に大量の浸水が始まって、急速に傾斜が始まる。


 米戦艦3番艦のインディアナは、長門と陸奥から射撃を受けていた。長門の第6射が挟叉した。第7射で後部に40センチ砲弾が命中した。かろうじて船体内の135mm装甲板が斜めに命中した砲弾をはじいて、砲弾は甲板上で爆発した。続いて陸奥の第5射が舷側に命中した。305mm装甲板上で砲弾が爆発する。


 直後にワシントンを無力化した大和からの射撃が加わった。左舷の装甲帯に46センチ砲弾が命中すると、機械室まで侵入して爆発して完全に動力を停止させた。既に船体内に巨大な破孔が開口した2隻の戦艦はいずれも動力を失って、停止した海上で沈みつつあった。唯一、インディアナだけが、機関が破壊されて海上で停止した状態で海上に漂っていた。巡洋艦や駆逐艦はこの海域でこれ以上戦っても被害が拡大すると判断して全速で退避を始めた。逆に第一戦隊の艦艇がどんどん接近してくる。徐々に傾きつつあるインディアナはついに艦橋上に白旗を上げた。

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