7.6章 珊瑚海の戦い 日本軍第二次攻撃隊

 給油艦シマロンとシムスを撃沈した攻撃隊が母艦に帰還してきた。ほぼ同時に祥鳳から零戦と彗星が、それぞれ8機飛来した。直ちに、瑞鶴に収容して、補給を行ってから、サラトガとワスプへの第二次攻撃隊を出撃させた。


 第二次攻撃隊は、零戦13機、彗星13機、九七式艦攻5機により構成されていた。この攻撃隊に先行した二式艦偵が、再び射撃管制レーダーに妨害電波を放射して攻撃隊を支援した。


 第二次攻撃隊が米艦隊上空に到達した時点で、排水量の大きなサラトガはかろうじて海面上に浮いていたが、既に飛行甲板が海水に洗われるような状態だった。一方、ワスプは既に海上から消えていた。残った艦は、戦艦ノースカロライナを中心として巡洋艦と駆逐艦が前後に続いて、東方に避難を開始していた。ほとんどの上空警戒の戦闘機は、空母に着艦できないので海上に不時着した。日本の艦隊を攻撃した機体も戻ってきて、駆逐艦のかたわらに着水した。


 第二次攻撃隊の中本大尉は、上空で米艦隊の状況を観察して、サラトガは沈没すると判断した。東方へと飛行すると、まもなくノースカロライナと巡洋艦群を発見できた。艦隊で目立っていたノースカロライナとジュノーに噴進弾攻撃を零戦が仕掛けた。上空から、雲に隠れて接近していた4機の零戦は、急降下するとノースカロライナの右舷上空で急激に引き起こした。ノースカロライナの40mm機関砲が1機を撃墜した。零戦が斜め側方から噴進弾を発射した。66発の噴進弾のうちの20発以上が舷側から上構側面に命中して、2基の高角砲を破壊した。


 ジュノーには8機の零戦が降下していった。16門の高角砲が射撃を開始した。光学照準でも激しい射撃により1機が撃墜される。左舷と右舷に分かれて接近した零戦が150発以上の噴進弾を発射した。半数の対空砲が沈黙する。


 その時、ラバウルを離陸していた8機の銀河が上空に到着した。当然のように最大のノースカロライナを狙ってゆく。


 隊長の伊藤少佐が、全機突撃を命令した。新型の120番4号爆弾を搭載した銀河は、上空から降下を開始する。降下開始で銀河の速度は既に350ノット(648km/h)に達した。周囲で高射砲弾が爆発し始めるが、まだ至近ではない。銀河は、さすがに単発の急降下爆撃機ほどの角度ではないが、それでも60度で急降下した。過速にならないよう主翼下面の急降下ブレーキを降ろす。降下してゆくと高射砲に加えて、40mm機関砲の射撃が始まった。2機が40mm弾を食らって墜落する。


 6機が魚雷を短くしたようなやや細長い形状の爆弾を投下した。爆弾前半部が分厚いニッケルとクロムを含む合金鋼となっている徹甲弾だ。爆弾倉の誘導稈に保持された爆弾が、まず爆弾倉の外部に振り子のように、付け根を支点にして振り出された。爆弾が機外に、出たところで爆弾を投下した。爆弾は機体から離れると、一瞬の後、推進剤に点火した。約200kgの推進剤が3秒程度燃焼して、重力と合わせて爆弾をどんどん加速してゆく。推進剤を除いた1トンの弾体が時速1,000km近くまで加速して戦艦の装甲板に命中した。


 1発が後部煙突付近に命中して、甲板の2インチ(49mm)の水平装甲を破ると、その下の3.6インチ(91mm)装甲も貫通して、後部機関室で爆発した。機関の半分が一瞬で停止した。次の爆弾が第3砲塔の更に後部に命中した。2インチ装甲を貫通して更にその下の4インチ(104mm)装甲も破って、発電機室を破壊して艦底で爆発した。片方の舵が動かなくなって、船尾からの浸水が始まる。更に1発が、第2砲塔にほぼ垂直に命中した。7インチの(178mm)天蓋装甲を貫通すると水平隔壁を次々に貫通して、第2砲塔下部の弾薬庫に達して爆発した。主砲弾の炸薬が誘爆して第2砲塔が高く吹っ飛ぶと共に巨大な黒雲が、上空に吹き上がった。爆煙が晴れると第2砲塔付近の船体が半球形に削り取られて消失していた。やがて消失した付近の船体が逆への字に曲がると、そこから浸水が始まり新型戦艦は急速に沈んでいった。


 続いて、第二次攻撃隊の5機の彗星が噴進弾で対空砲火が弱まっていたジュノーを狙った。彗星は、5発の80番4号爆弾を投下した。1発が艦尾近くの格納庫を貫通して機関室で爆発する。更に2発が艦の中央部に命中して、艦底で爆発すると、残っていた機関は全て破壊されて、船底にも大きな亀裂が発生した。3発の爆弾による破壊は軽巡洋艦の船体が耐えられる限度を超えていた。ジュノーは左舷に傾くと急速に沈み始めた。


 4機の彗星と5機の九七式艦攻は、残った艦の中でもっとも大型に見えた重巡タスカルーサを狙った。巡洋艦の高角砲と機銃の反撃により、1機の九七式艦攻が撃墜された。2発の爆弾と1本の魚雷がこの巡洋艦に命中した。80番爆弾は、水平隔壁を次々と突き破って缶室を抜けて海中で爆発した。船体の底部で爆発して機関室や缶室に多量の浸水が始まる。中央部に命中した魚雷は右舷側の隔壁を突き破って爆発した。これにより艦の中央部の浸水が更に増加して右舷から沈み始めた。


 米艦の対空砲の射程外では、2機の二式艦偵が攻撃隊の様子を偵察していた。過去の戦いの分析から、攻撃隊自身の報告だけではなく、客観的に敵に与えた損害を判定するために、この偵察機には戦果確認の任務が与えられていた。二式艦偵は敵戦闘機の攻撃を避けながら、時には被害を受けた艦隊の写真を撮影していた。


 もう1機の二式艦偵は本土から隼鷹が積み込んできた最新型だ。電探を搭載しない代わりに爆弾倉の中には各種周波数の電波を受信する装置が積み込まれていた。後席の通信員は忙しく表示管を見てメモを取っていた。時には表示管の波のような波形の写真を撮影している。彼らはこの海戦で取得した電波に関する情報は母艦に持ち帰るように厳命されていた。


 ……


 スプルーアンス少将は日本軍からの攻撃後、大きな被害を受けたサラトガから重巡ウィチタに移乗していた。東方に向けて航行しているウィチタからもノースカロライナの爆発煙は良く見えた。


 スプルーアンス少将は通信士官から渡されたメモを読んでから、ムーア大佐に話し始める。

「太平洋艦隊司令部からの通信だ。ポートモレスビーに日本船団が近づいて来ている。まもなく日本軍の上陸作戦が開始されるだろうとのことだ」


 ムーア大佐が意見を述べる。

「我々には、日本軍の上陸作戦を止めることはできません。もはやこれ以上この海域に留まることは不可能です」


「そうだな。残った戦力では、は何もできないのは自明だ。我が艦隊は全速で退避する。これ以上被害を拡大してはならん」


 ……


 五航戦司令部は、翔鶴が被害を受けたため、旗艦を瑞鶴に移していた。第二次攻撃隊からの報告により、ワスプとノースカロライナ級戦艦を撃沈したことと、サラトガもすぐに沈没しつつあることを確認していた。損傷した翔鶴と護衛の駆逐艦夕暮は、五航戦とは分離して横須賀に向けて既に回航されていた。


 参謀長の大橋中佐は攻撃隊の編成を進言していた。

「残った巡洋艦が東進しています。第三次攻撃隊をすぐに出撃させて戦果を拡大すべきです」


 一方、瑞鶴艦長の横河大佐は慎重な意見だ。

「今までの二次の攻撃で艦載機の被害が拡大しています。帰還できた機体も被害を受けた機体が出ています。既に敵空母は2隻と戦艦も撃沈できたのですから、無理に第三次攻撃隊を出す必要はありません。しかもこれから攻撃隊を出せば、戻る時間は夜になります。搭乗員の練度を考えれば、薄暮の攻撃はすべきではありません」


 そこへ、第四艦隊司令部からの電文が入る。草鹿少将が読んでいる。

「井上中将が、敵機動部隊からの攻撃の可能性がなくなったので、上陸作戦を予定通り実行すると言ってきた。今更だが、我々はポートモレスビー攻略を成功させる必要がある。敵艦隊が撤退している状況では、深追いすることなく上陸作戦の支援をすべきと考える。ポートモレスビーにも米陸軍の基地があって、そこには米陸軍の戦闘機や爆撃機が配備されている。今後、米陸軍機との戦闘が想定される以上、今は艦載機を消耗すべきでない」


 原少将も首を縦に振っている。

「上陸作戦を成功させることこそ我々の任務だ。敵艦隊を撃退したからには、我々の艦隊は井上さんのポートモレスビー攻略部隊に協力することとしたい」


 草鹿少将もさすがにこの案に合意した。

「私も原司令と同じ意見です。明日になって、再度周辺海域を偵察します。その結果、何も発見できなければ、我々は、攻略部隊の上空支援に専念することとします」

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