5.6章 空母攻撃(後編)

 嵐のような攻撃を行った橘花改が去ると、それに入れ替わるようにプロペラ機から構成された日本軍機が飛行してきた。烈風に護衛された彗星の編隊が米艦隊への突入を開始した。機動部隊の上空では、橘花改によって数は減ったが、まだ多数の戦闘機がこの攻撃隊を待ち構えていた。ヨークタウンには元々35機のF4Uが搭載されていた。橘花改が10機以上を落としても、まだ20機以上が滞空していることになる。


 しばらくして、烈風隊が米艦隊の戦闘機群と接触した。15機の烈風が速度を上げて前方に出てくる。


 笹井中尉が命令した。

「2小隊は左翼。3小隊は右翼。それ以外は中央に続け」


 横に広がったF4Uの編隊に対して命令に従って、後続の最2小隊と第3小隊は方向を変えた。続けて噴進弾を発射する。もちろん、こんな遠距離から発射してもほとんど命中しないことはわかっている。空戦になれば投棄せざるを得ないから、もったいないと思って敵の方向に向けて撃っただけだ。それでも1発がうかつなF4Uに命中して爆発した。


 すると、F4Uも同様に翼下のロケット弾を発射した。日本軍の武器を研究して早くも2.5インチ(63.5mm)ロケット弾を装備していたのだ。この時、F4Uは両翼下のポッドにそれぞれ9発の2.5インチロケット弾を搭載していた。前方を飛行する8機から144発が発射されたが、運動性の良い烈風は全て回避した。


 左翼側の攻撃を命令された第2小隊の坂井一飛曹は、機銃を撃ちながら向かってくる敵機の下側にもぐりこんで射線をかわした。かわしながら、急降下により加速した。敵機とすれ違う瞬間に、そのまま一気に上昇して操縦桿を引き続けて背面となった。直ぐ前方にはすれ違った敵機の背中が上下逆転して見えた。そのまま20mmを射撃すると、機首から黒い煙を噴き出して落ちてゆく。2番機の西沢一飛曹も、同じ要領でやすやすとF4Uの背後につけると、近距離から一撃で撃墜する。背面のまま目ざとく斜め下方を飛行する別のF4Uに狙いをつけると急降下して、射撃するともう1機を撃墜した。


 既にその時、坂井機は上空に旋回もしないで、2機のF4Uに狙いをつけていた。死角の下方から一気に接近すると、敵機にぶつかりそうな近距離から20mmを撃った。ほとんどの弾丸がF4Uに命中して、F4Uが、がっくりと機首を落として落ちてゆく。3番機の本田三飛曹は、坂井機の後方からもう1機のF4Uを射撃して撃墜した。


 坂井一飛曹の小隊は一度攻撃をしてから、F4U編隊の上に抜けていった。上空から見ると、最後方を飛行する2機の烈風に向けて5機のF4Uが降下攻撃を仕掛けていた。F4Uは上方を抑えて、下方の烈風が逃げようとすると上空のF4Uが頭を抑えるように急降下して攻撃してから上昇する。上昇する機体を烈風が追いかけようと機首を上げると他のF4Uが急降下攻撃で上昇攻撃を阻止していた。多数機の中に追い込んで、ダイブアンドズームで仕留めようとしている。


 坂井機はF4Uより更に高い高度まで上昇してから、背面になると一気に垂直降下してF4Uの真上に迫るとそのまま1連射した。機銃弾は半数以上が命中する。射撃直後に坂井機は急降下から機首を持ち上げて、強烈なGに耐えて水平に戻した。そのまま、前方を旋回しながら飛行するF4Uに急降下で得た速度を生かして上昇旋回した。後方の脅威に気が付いてF4Uは急降下に入ろうとロールするが、坂井機は既にその回避法を予測して、F4Uと同時に左にロールして降下を開始した。F4Uより高速で接近する坂井機は、急降下に入ったF4Uが加速する前に追いついた。短く1連射するとF4Uは垂直に近い降下姿勢から錐もみになって落ちていった。この時西沢機も、戦闘機では絶対有利な降下からの攻撃でF4Uを1機撃墜していた。


 一方、中央の敵機と戦っていた笹井小隊は水平旋回で戦闘に入った。すると2番機の太田一飛曹がスルスルと敵機の旋回よりも内側に入ってくる。烈風に備えられた空戦フラップをうまく使って、旋回半径を小さくしたのだ。F4Uはこんな器用なことはできない。背後から太田機に射撃されて墜落してゆく。狙われたF4Uは2機がペアになって飛行していた。後方の機体が太田機に接近してゆくが、その後方から笹井機が近づいて連射すると炎を噴き出して落ちていった。


 右翼の小隊は高塚飛曹長が率いていた。高塚機は目の前で急旋回により回避しようとするF4Uに対して、空戦フラップを使用して、後方から急旋回して接近すると1機を撃墜した。しかし、2番機と3番機はこの機動から出遅れていた。


 右翼側のF4Uには、ハワイの訓練で2機ペアによる空戦法を習得したパイロットがいた。3機の烈風が目の前のF4Uに突進してくると、スウォット中尉は上昇してかわしてから烈風の後方に回り込んだ。機動が遅れた目の前の2機の烈風には、それぞれ2機がペアになって取りついた。スウォット中尉がバンクで右側を飛行する僚機に合図する。2番機のF4Uがやや遠いところから射撃を行うと、その烈風は驚いて左へと急旋回した。想定通りの旋回だ。スウォット中尉は、スロットルを一気に前に倒した。途中でワイヤによる引っかかりがあるが、構わずワイヤを切って前に倒す。R-2800エンジン出力が5分限定の緊急出力になった。急激に回転が上がって振動が増したが、一気に日本機に接近することができた。目の前の機体に向けてスウォット中尉が射撃すると、主翼から炎を噴き出してその烈風は落ちていった。中尉の後方を飛行していた別の2機のF4Uも2機が連携した攻撃により、3番機の烈風を撃墜していた。


 やがて、F4Uは半数の機体が烈風により撃墜されると不利を悟って急降下で退避にかかった。笹井中尉が集合を命令する。彗星爆撃隊の護衛が任務なので深追いはしない。烈風隊の後方には18機の彗星が二つの編隊に分かれて飛行していた。更に、その上空には祥鳳と瑞鳳から発艦した20機の零戦が護衛している。


 ヨークタウンから発艦した戦闘機隊には、艦攻を減らしてその代わりに追加で搭載された中隊がいた。F4Uに続いて開発されていた2,000馬力級の戦闘機であるF6Fヘルキャットが12機追加で搭載されたのだ。この戦闘機隊は、XF6Fと呼ばれた試験機のころから飛行を続けてきたトーレイ少佐が中隊長として率いていた。


 トーレイ少佐はあらかじめ、日本編隊を一度迂回して後方から爆撃隊を攻撃することを考えていた。日本軍の戦闘機隊の相手はF4Uに任せるつもりだ。日本編隊が艦隊の西南から接近しているとのレーダーの情報を得て、その編隊の更に南方を回り込んでから、後方の日本編隊のやや高い高度から接近した。トーレイ少佐は、眼下の中翼の単発機を識別用の図で見たことがあった。彼はそれがジュディ(彗星)と呼ばれる新型の爆撃機と判断した。狙いを定めると急降下で編隊に接近した。


 彗星中隊長の坂本大尉は、後方から接近する胴体の太い戦闘機を発見して警報を発した。

「後ろ上方から敵戦闘機。10機以上の敵戦闘機が降下してくる」


 烈風と零戦はこの通報にすぐに反応したが、急降下してきたF6Fのロケット弾発射の方が早かった。200発以上のロケット弾が、9機に分かれて飛行していた後方の彗星編隊を包みこんだ。数か所で爆発が発生して編隊が爆炎で包まれる。ロケット弾の煙が晴れた時、9機の彗星は3機に減っていた。F6Fは残った彗星を銃撃しようと降下を続ける。その時上空から烈風が急降下してきた。いったん上昇してから急反転して降下してきたのだ。


 トーレイ少佐は上空からの敵機を新型の戦闘機と認めた。零戦に似た機体だが明らかに機首が太くエンジンも大きく手ごわいと思える。

「全機、急降下して退避しろ。繰り返す旋回で回避するな。急降下せよ」


 しかし、この命令を列機が実行する前に、10機の烈風が降下姿勢から20mm機銃の射撃を開始した。F6Fは日本機のように直ぐに炎を噴き出すことはないが、20mm弾の被弾には耐えられない。胴体から破片を飛び散らせながら墜落していった。急降下で逃げ切れなかった半数のF6Fが烈風に撃墜された。


 F6Fの降下攻撃に対して、彗星隊の上空を飛行していた零戦が急反転して上空からF6Fに向けて銃撃しながら突っ込んでいった。零戦の主翼がF6Fの主翼に切り込むように食い込んでゆくと、一瞬の後、主翼がバラバラになって2機はもつれるように落下していった。残ったF6Fは反撃もせず急降下していった。


 彗星隊が米機動部隊を視認した時、既にホーネットは後部甲板から炎と煙を上げながら海上に停止していた。若干艦尾が沈んで飛行甲板には大きな穴が開いて、そこからも炎が噴き出している。周囲に巡洋艦と駆逐艦が停止して、火災を消そうと盛んに放水していた。攻撃隊はホーネットが既に無力化されていると判断した。


 一方、無傷のヨークタウンは10浬(19km)東方を日本から離れるように航行していた。この空母を目標にして8機の噴進弾を搭載した零戦が急降下してゆく。空母と護衛の2隻の巡洋艦からの激しい対空砲火で2機の零戦が途中で撃墜された。右舷と左舷の両舷から降下した6機の零戦が132発の噴進弾を発射して、およそ3割が命中した。空母の半分の対空砲が被害を受ける。飛行甲板に命中した噴進弾は、装甲防御されていない着艦制動索の至近で爆発して数カ所でワイヤーを切断した。格納庫内にも装甲防御されていない舷側から噴進弾が侵入して爆発したため、内部の艦載機が破壊された。


 続けて12機の彗星が降下してゆくが、空母と巡洋艦の対空砲火ですぐに2機が撃墜された。10機が右舷と左舷に分かれて急降下に入ると、それに対抗して重巡ミネアポリスがヨークタウンの右舷側から前進してきた。ヨークタウンは面舵をとって爆撃を外そうと転舵する。左舷側には重巡ルイスヴィルが進んでくる。空母の対空砲火は弱まっていたが、無傷の重巡の対空砲火を受けて上空の1機の彗星が撃墜される。


 9機の彗星が爆撃して、船体中央部に2発が命中した。更に艦首に1発が命中する。船体中央部に命中した2発の80番4号爆弾は、飛行甲板と格納庫下の1.5インチ(38mm)の水平装甲を貫通して、缶室と機関室で爆発した。舷側の亀裂から浸水も発生する。艦首部の爆弾は、水平隔壁を次々と貫通して艦底で爆発した。艦底に大きな破口ができて浸水が始まる。機関部の破壊と破口の水の抵抗もあってヨークタウンの速度は5ノットにまで低下した。


 彗星の爆撃が行われているころ、木更津基地を離陸した12機の銀河の編隊が、米艦隊上空にやってきた。ホーネットの火災は小さくなったがまだ燃えていた。しかも、全く動く様子がない。攻撃隊が東方に飛行すると低速で航行しているヨークタウンと護衛の艦艇を発見した。攻撃隊は、こちらを攻撃の目標と決めた。魚雷装備の銀河はヨークタウンを目標にして雷撃体制に移行しようと降下を始めるが、まだ上空に残っていたF4Uが無傷の巡洋艦からレーダーの情報を受けて、迎撃してきた。上空に留まっていた烈風が、攻撃を仕掛けるF4Uを発見した。4機の烈風が急降下して上方からF4Uを銃撃した。たちまち1機のF4Uが火を噴き出して墜落してゆく。


 その間にも銀河は残ったF4Uに攻撃されていた。2機がエンジンや主翼に被弾して落ちてゆく。最終的に、6機が空母に向けて雷撃を実行する。そのうちの3本がヨークタウンの右舷に命中した。たちまち右側に傾き始める。全ての機関が停止したため電力が供給されない。このため、排水ポンプも動かなくなる。喫水がどんどん増して右舷上部の格納庫まで水面が上昇すると、防水がされていない開口部からの浸水が始まる。ヨークタウンには、既に全員退艦の指示が出ていた。上部の開口部からの浸水が急激に増加するとヨークタウンはなすすべもなく沈んでいった。


 残っていた3機の銀河は、ルイスヴィルに向けて雷撃した。1本が船体中央に命中した。船体中央部に浸水が始まり、速度が15ノット以下に低下してしまう。


 ……


 ホーネットを攻撃した烈風と彗星、零戦が空母に戻ってきた。斜め甲板を利用して危なげなく斜め飛行甲板に着艦した。先に戻った橘花改は既に格納庫で補給をしている。


 一方、近藤中将が座乗する愛宕を中心とした水上艦隊は米艦隊への最初の攻撃隊が発艦してから、4隻の駆逐艦と隼鷹、祥鳳、瑞鳳とは分かれて、全速で米艦隊の方向に航行していた。既に5時間ほど東方に向けて走っている。


 攻撃隊の結果が無線で入ってくる。白石参謀長が今まで入ってきた電文から戦果を報告する。

「敵空母を発艦した8機から直後に撃墜した2機を差し引くと日本本土に向けて飛行中の米爆撃機は6機程度と推定されます。編隊ではなくばらばらで飛行しているようです。つまり、それぞれの機体で目標が異なっている可能性があります。以上の情報は、既に横須賀鎮守府と連合艦隊司令部に報告済みです」


 近藤長官がうんと短くうなずいた。白石参謀長が続ける。

「ヨークタウン級の空母1隻には、艦上に爆撃機がまだ半数以上残っている状態で、橘花改が攻撃を行ったとのことです。その結果、甲板の爆撃機を全て破壊して空母は大破して、機関が停止しました。その後に到着した攻撃隊からも大火災により海上を漂流中です。もう1隻のヨークタウン級空母には、80番3発と魚雷3本を命中させて大傾斜したとのことですがいずれ沈むでしょう。なお巡洋艦1隻に魚雷1本が命中して大破とのことです。烈風と彗星、零戦が何機か被害を受けています。さすがに、橘花改には被害は出ていません」


 近藤長官はしばらく考えて、指示を与える。

「残った艦隊も無事に返したくない。再度攻撃させよう。漂流中の空母は可能であれば捕獲したい。再び走り始めなければ攻撃は不要だ。我々が現場に到着するまで浮いていれば曳航しよう。幸いにもここは本土に近いからな。空母の航空隊と木更津にも伝えてくれ」


 隼鷹の艦上では小福田大尉に下川大尉が相談していた。

「『可能ナレバ、鹵獲セヨ』とのことだ。果たしてそんなにうまく行くのかな。大体、戦闘機に乗る我々は何をすればいいのだ?」


 小福田大尉が答える。

「自力で逃げられないならば、曳航も可能だろう。米軍も曳航を考えるはずだが、我々がやってくれば、時間のかかる作業はできなくなる。それで、曳航が不可能になれば、後顧の憂いをなくすために米軍自身が空母を撃沈するはずだ。手っ取り早く沈めるためには、砲撃よりも魚雷だ。つまり空母のそばの駆逐艦は乗組員を助けるが、同時に空母に引導を渡す役割かもしれん。要注意ということだ」


「空技廠の鈴木大尉から、噴進弾を魚雷発射管に当てて、駆逐艦を撃沈した話を聞いたことがあるぞ。もし、空母のそばの駆逐艦を退治する必要があるなら、魚雷を狙って噴進弾攻撃すればよいな」


 橘花改と彗星、烈風による攻撃隊が再攻撃のために米艦隊の上空に到達した。今回は祥鳳と瑞鳳から九七式艦攻が発艦する。空母部隊が東方に向けて航行して、米艦隊に接近したおかげで短い時間で目的とした位置に到達する。漂流中の空母が見えるはずだ。東方のもう1隻の空母は既に沈んでいるかもしれない。銀河からの通報を基に東側の海面を捜索すると、30浬(56km)離れて巡洋艦の部隊を発見した。


 ミネアポリスに移乗したフレッチャー少将はあせっていた。日本の攻撃隊が再度襲来する前に、できる限り日本列島から離れたかったのだが、想定よりも早く攻撃隊がやってきた。


 10機の烈風が急降下してゆく。この時、ミネアポリスを先頭にしてペンサコラとナッシュビルが縦列で続いていた。その後方に駆逐艦が航行していた。360ノット(667km/h)を超える速度で急降下した烈風は、ペンサコラとナッシュビル、ミネアポリスをそれぞれ目標として噴進弾を発射した。ペンサコラの2本の煙突の周りに2機からの噴進弾が着弾して対空砲の半分と艦橋が被害を受ける。ナッシュビルには後楼の周囲に噴進弾が着弾した。第2煙突の後ろの内火艇が被弾して火災が発生する。シールドのない対空砲は至近弾でも被害を受ける。ミネアポリスには艦橋付近に噴進弾が着弾して、2基の対空砲を破壊して火災が発生した。


 巡洋艦の対空砲火が抑えられたところで、まばらな対空砲火の中を9機の彗星が巡洋艦に向けて急降下してゆく。ペンサコラに4発が投下されて1発が命中した。ミネアポリスには5発が投下されて、船体中央部に2発が命中した。続けて97艦攻が雷撃を行った。ミネアポリスもペンサコラも爆弾の被害により、速度が落ちていた。ペンサコラには4機が雷撃して、2本が命中した。速度の落ちているミネアポリスには6機が雷撃して2本が命中した。ペンサコラもミネアポリスも爆撃と雷撃の被害に耐えられずにすぐに沈んでいった。


 下川大尉と小福田大尉、周防大尉はホーネットへと向かっていた。


 全機関が喪失したホーネットと左舷に傾いてやはり航走できないルイスヴィルは海上に停止していた。重巡ヴィンセンズがホーネットを牽引しようとしたが、米国の支配領域はあまりに遠いのに、巨大な艦はなかなか動こうとしない。すぐにこの努力は放棄された。ミッチャー艦長などの空母の乗組員がヴィンセンズに移乗するのを待って、東方に動き始めた。一方、駆逐艦グレイソンが重巡に横付けして、ルイスヴィルの乗組員を収容していた。更に、駆逐艦グウィンがホーネットの右舷側から離れるように航行していた。


 下川大尉は上空から観察すると、グウィンとホーネットの距離と位置関係から、この駆逐艦が空母を雷撃するための位置にゆっくりと移動しているのではないかとの印象を受けた。下川機は駆逐艦からの対空砲火をよけながら降下してゆく。駆逐艦の魚雷発射管がホーネットが位置する左側を向いていることから、疑念が確信に変わる。


 慎重に魚雷発射管を狙って噴進弾を発射した。次いで機銃も同じ場所を狙って射撃した。グウィンの第2煙突を中心とした魚雷発射管が設置されたあたりに噴進弾が命中した。噴進弾の爆発に続けて、第2煙突直前で真っ赤な火球が発生して大爆発が起こる。噴煙が晴れると爆発したあたりの船体がゴッソリ半円形に削れていた。削れたところから海水が急激に流入すると、左舷側に傾いて転覆していった。グウィンの大爆発に驚いて、グレイソンは急発進して退避を始めた。グレイソンが下川大尉と小福田大尉機に向けて機銃の射撃を始めるが、まだ遠いため命中しない。やがて、グウィンの爆発の原因を理解したためか、危険物の廃棄を兼ねてグレイソンが魚雷を発射したが、狙いがいい加減な魚雷はどこにも命中しない。小福田大尉は射撃を受けながらも降下してグレイソンに向けて噴進弾を発射した。艦上で火災が発生するが大爆発は発生しない。


 周防大尉の率いる3機の橘花改はヴィンセンズに向けて反跳爆撃を行った。3発が投下されて2発が命中した。ヴィンセンズの船体に命中した2発の50番爆弾は舷側から船体内部で爆発した。機関が停止するとともに船体の中央部に亀裂が発生して傾きだした。


 やがて西南方向から、愛宕を先頭にして第二艦隊が全速で接近してきた。グレイソンはレーダーで日本艦隊を30浬以上遠方で探知して、全速で退避していた。海上には停止したホーネットと左傾したルイスヴィルが残されていた。


 愛宕の艦橋で近藤長官はにやりと笑って、参謀長に話しかける。

「どうやら間に合ったようだな」


 軍令部の富岡大佐が艦橋に登ってきた。

「私が、空母に移乗して曳航の指揮をとります。よろしいですね」


 近藤長官が強くうなずく。

「よろしく頼む。空母を動かすために必要な人選は任せる。一緒に連れていってくれ。爆薬が仕掛けられている可能性もあるから、艦内の確認をよくしてくれ。もし取り残された米兵がいたならば助けるように。機関は完全に破壊されているようだ。こちらで曳航するための準備を始めるから、向こうに行ったら受け入れる準備をしてくれ」


 近藤長官が命令してから、3時間が経過した。やっとのことで高雄とホーネット間に太いロープが何重にも渡されると、高雄が全力でスクリューを回し始める。高雄の艦尾に推進機の引き起こす泡が浮かんでくる。高雄が前進するとロープがぴんと張って、更に高雄の艦尾の泡が増えてくるとホーネットがじりじりと前進し始めた。故障した舵の代わりに、ホーネットの艦尾から木製の応急舵が降ろされた。これから東京湾に向けて曳航が始まるのだ。周囲を駆逐艦嵐と野分が輪を描いて走り回って、米軍の潜水艦を警戒していた。

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