第7話 少しの休息

『8月5日金曜日 14時36分』


私の元に知らない少女、いやこの前知り合った少女、水城烽火みずしろほうかが来てから2日がたっていた。

2日というのはとても短いもので、適当にダラダラ過ごしていたらすぐ終わってしまった。

昔は2日など遠い未来のように思えていたのに……さすがに誇張が過ぎるか。まぁ、歳をとる事に時間の流れが早くなるというのは本当のようだった。


なんで早くなるんだろう、と少し考える。


人生に慣れたから?というのが最初に頭に浮かんだが、何か違う。

そもそも人生に慣れる、というのがおかしいのだ。人生は出会いと別れの連続、一期一会、人生の1日1日が変化の連続では無いか。では、なぜ慣れるなどと知ったようなことを言ってしまうのか、少し考える。

そうか。と納得する。

それは私、私の知識が作り出したことだから言えることであって、他人は違うのかも知れない。

つまり、変化が無くなるからだ。世間一般では私の年頃、25あたりであれば普通就職している。毎日同じ時間に起き、同じ電車に乗り、会社で働き、帰宅する。まぁ多少の変化はあるだろうが、若い頃に比べて新しいものに関わる機会が減るのだ。

今の私は2日ダラダラしていただけ。だから時間などあっという間に過ぎていた、ということか。


ああ、気持がいい


どんな事でも自分で考え、結論を出す。

これは私が知っている中で1番の快楽だ。


「……何してるんです?真理まりさん」

「ん?考え事」

「いえ、そうではなく」

と言い、私の足を指さす。

ああ、多分烽火ほうかが言いたいのは、「なんで歩き回っているんですか」だろう。私の昔からの癖で、考え事をする時は歩き回ってしまうらしい。

「癖だよ。私考え事をすると歩き回っちゃうらしいんだよね」

そんなことを言いながら2日で随分打ち解けたな、と思う。

まあ、それはあちらが望んだことだけど。


『私と一緒にいる時が1番幸せって思えるようにします』


2日前のその言葉が脳からチラリと顔を出してくる。

その言葉の響はとても優しいように聞こえるが、私の計画を知っているものならば残酷に思えるだろう。

だってそれは、

『あなたが自殺するのを手伝います』

って言っているようなものだからだ。


「何回も言うけどさ、親に連絡とかしなくて大丈夫なの?」

「ええ、平気です。親は今どっか行ってるので」

「どっかって……」

一応高校生だし家に連絡を、って何回も言っているのだけれど烽火の主張によれば「どっかに行ってるから大丈夫」らしい。

私は正直帰って欲しいとも思っている。

これでは私が犯罪者になってしまう。


もし、私が犯罪者になって、牢屋に入れられてしまったらと考えるだけでゾッとする。


まぁ、いいならいいか


考えるのは楽しいけれど頭を使う。さっき考えたことで疲れてしまったので、ここは適当に承諾しておく。


「で、今はなんの時間なんです?」

「はい?」

烽火の瞳がギロリと私を向く。

「もう2日経ちますけど、何もなしないんですか?2日ですよ。2日」

あー。うん。なるほど。

私が「自殺するタイミングを待っている」と言ったのに、「幸せを追求するべき」って言ったのに何もしていないのが烽火にはおかしく見えたのだろう。

だが、

「人には休息が必要だよ。休まなきゃ見えてこないものだってある」

「それに、人はいつだって受動的なものだよ」


人はどんな行動においても受動的である。みたいなことを書いていた本を昔読んだような気がする。


人は全て能動的に動いているように見えるが、実際は受動的でに動いている。

例えば、ここに1本のペットボトルがあり、喉が乾いていたとする。その時人間は自分からペットボトルを取るのではなく、ペットボトルというものによって水分を摂取できるという考えから取らされるのだ。


うーん、やはりうまく考えがまとまらないな。

自分では理解しているはずなのに、言葉にして説明するとなると、これまた難しい。


「……なるほど」

なんか勝手に納得してくれた。ラッキー。

「まぁーでも、明日から色々やるさ。私の幸せ探し」

適当なこと言って誤魔化したけれど、休息が必要なのは私ではなく烽火のほうだ。

自殺しようとするまで追い込まれたメンタルは、相当なものだったであろう。

だが、今こんな感じで接せれているのでもう大丈夫かな?とも思う。


「明日が楽しみだ」


今の私は明日に希望を持つ。


その希望の灯は、私の海に反射されキラキラと光っている。


だが、その海に飛び込んで、深いところまで沈んでいけばそんな光さえも届かない。




ああ、明日が楽しみだ。

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